久遠
第16話 帰りの道で
トレーニングを終えるともう空は茜色に染まり下校時刻を迎えていた。
そのまま正門で三人は別れる。吾郎は学生寮、四ノ宮は電車通学。直江は親からの仕送りで近くのアパートを借り、一人で暮らしている。
帰路につく直江の頭を埋めるのは祭の姿。
ふと道の途中で立ち止まり、もしやと思って道を引き返す。
学校に戻って特捜隊の本部に向かうと予想通りまだ中で祭が寝ていた。
「……あ……直江……おはよ……」
目覚めてすぐにガックリと意識を再び落とそうとする彼女の頭を直江が抑える。
「祭ちゃん、いつも何時に帰ってんの?」
「……いつも暗なってからかなあ………ちゃん、いらん」
二人で正門を出ると既に街灯に明かりが灯っていた。
祭も四ノ宮と同じように電車通学だ。直江のアパートはその駅の目の前にある。
直江はいつもより歩くスピードを抑えて彼女に合わせた。
歩きながらもウトウトとしている彼女を見ていると本当にこんな子がプロの滅鬼師なのかとやはり疑ってしまう。だが直江の脳裏にはいまだにあの日彼女が放った剣撃が刻みこまれていた。
目の前の信号が赤になって二人は立ち止まる。
そういえば……と直江が突然彼女の手を取った。
吾郎が言っていたのだ。
「まだ疑ってんなら、祭の手を見てみろよ」と。
直江は彼女の手を見て呆気にとられた。
触れられたことがあるというのにどうして今まで気づかなかったのだろう。
その手は傷だらけで固い。傷がつくたびに修復して、けれどもまためくれて修復して。その繰り返しで手が厚く固くなっているのだ。
これが普通の女の子の手なものか……。
慌てたように祭が手を袖の内に引っこめた。
まじまじと見られたものなので、顔がかあっと赤くなっていた。
「……汚い……やろ……?」
「え……いや、かっこいいと思うけど」
手の傷はたゆまぬ修練の証。決して汚いものではないだろう。
直江が本心を話すと、祭はうつむいて「かっこいい……」と自らの手をさすった。
信号が青になり二人は歩き出す。
「資格停止中って聞いたけど……なにがあったの?」
その問いに祭は下を向いたまま答えなかったので、それ以上は聞かなかった。
駅につくまで沈黙が続いたが特に気にはならず、そんなことよりも先刻見た祭の手を思い出していた。
彼女の手にはいたるところに豆のつぶれた痕もあった。
その手でいったい何度刀を振るったのだろう……そういえば。と直江が彼女の手の甲に目を向けると人差し指に銀のリングをはめていた。
さっきも見たけど……こんな指輪つけてたか……?
それについて祭に聞くと彼女は大事そうに指輪をその指ごと逆の手でギュッと包みこんだ。
「これは……この間見つけてん……昔大切な人がつけていたのと似てる……」
大切な人。
彼女にも愛すべき人がいたということだろうか。
……そういえば祭ちゃんはファーストキスとかもう済んでいるのかな。
もしそうなら自分が最初の人にはなれない、と少し直江は落ちこんだ。
駅につくと彼女は「ここまでありがと」と丁寧にペコリとお辞儀をした。
「直江……その……嬉しかった」
「……え?……ああ……手のこと?」
「うん。うちな……ほんまはもう刀握ったらあかんねん……だから、今度直江に稽古つけたる」
それじゃあと彼女は改札をくぐってホームに向かった。
稽古か。庇護欲を注がれるような存在の彼女に刀の振り方を教わる日が来るとは思わなかった。
………けれど僕にその必要はないというのに。
「それがわかってんのに。なんでトレーニングなんかしてんのよ」
振り返ればそこに一匹の吸血鬼が立っていた。
バンピールだ。
話があると言って彼は直江を連れると一軒の飲み屋に入った。
そのまま正門で三人は別れる。吾郎は学生寮、四ノ宮は電車通学。直江は親からの仕送りで近くのアパートを借り、一人で暮らしている。
帰路につく直江の頭を埋めるのは祭の姿。
ふと道の途中で立ち止まり、もしやと思って道を引き返す。
学校に戻って特捜隊の本部に向かうと予想通りまだ中で祭が寝ていた。
「……あ……直江……おはよ……」
目覚めてすぐにガックリと意識を再び落とそうとする彼女の頭を直江が抑える。
「祭ちゃん、いつも何時に帰ってんの?」
「……いつも暗なってからかなあ………ちゃん、いらん」
二人で正門を出ると既に街灯に明かりが灯っていた。
祭も四ノ宮と同じように電車通学だ。直江のアパートはその駅の目の前にある。
直江はいつもより歩くスピードを抑えて彼女に合わせた。
歩きながらもウトウトとしている彼女を見ていると本当にこんな子がプロの滅鬼師なのかとやはり疑ってしまう。だが直江の脳裏にはいまだにあの日彼女が放った剣撃が刻みこまれていた。
目の前の信号が赤になって二人は立ち止まる。
そういえば……と直江が突然彼女の手を取った。
吾郎が言っていたのだ。
「まだ疑ってんなら、祭の手を見てみろよ」と。
直江は彼女の手を見て呆気にとられた。
触れられたことがあるというのにどうして今まで気づかなかったのだろう。
その手は傷だらけで固い。傷がつくたびに修復して、けれどもまためくれて修復して。その繰り返しで手が厚く固くなっているのだ。
これが普通の女の子の手なものか……。
慌てたように祭が手を袖の内に引っこめた。
まじまじと見られたものなので、顔がかあっと赤くなっていた。
「……汚い……やろ……?」
「え……いや、かっこいいと思うけど」
手の傷はたゆまぬ修練の証。決して汚いものではないだろう。
直江が本心を話すと、祭はうつむいて「かっこいい……」と自らの手をさすった。
信号が青になり二人は歩き出す。
「資格停止中って聞いたけど……なにがあったの?」
その問いに祭は下を向いたまま答えなかったので、それ以上は聞かなかった。
駅につくまで沈黙が続いたが特に気にはならず、そんなことよりも先刻見た祭の手を思い出していた。
彼女の手にはいたるところに豆のつぶれた痕もあった。
その手でいったい何度刀を振るったのだろう……そういえば。と直江が彼女の手の甲に目を向けると人差し指に銀のリングをはめていた。
さっきも見たけど……こんな指輪つけてたか……?
それについて祭に聞くと彼女は大事そうに指輪をその指ごと逆の手でギュッと包みこんだ。
「これは……この間見つけてん……昔大切な人がつけていたのと似てる……」
大切な人。
彼女にも愛すべき人がいたということだろうか。
……そういえば祭ちゃんはファーストキスとかもう済んでいるのかな。
もしそうなら自分が最初の人にはなれない、と少し直江は落ちこんだ。
駅につくと彼女は「ここまでありがと」と丁寧にペコリとお辞儀をした。
「直江……その……嬉しかった」
「……え?……ああ……手のこと?」
「うん。うちな……ほんまはもう刀握ったらあかんねん……だから、今度直江に稽古つけたる」
それじゃあと彼女は改札をくぐってホームに向かった。
稽古か。庇護欲を注がれるような存在の彼女に刀の振り方を教わる日が来るとは思わなかった。
………けれど僕にその必要はないというのに。
「それがわかってんのに。なんでトレーニングなんかしてんのよ」
振り返ればそこに一匹の吸血鬼が立っていた。
バンピールだ。
話があると言って彼は直江を連れると一軒の飲み屋に入った。
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