滔滔と、落ちる心
ほろほろと降り積もる銀世界をあの時も
「…はーっ。くそ。意味わかんね」
視界になにか映るたび苛立って舌打ちと暴力的になる衝動を抑える。
どうしてこんなにイラついてるかと言うと、発端は今から10分前くらいだろうか。
自分のクラスでの立場は、「基本的に一人」というものなのだが、それを疎む人がいる。それは凡そ分かるだろう。
そいつら女子が陰口を発していたのだ。しかも俺の。
『いつも一人で気持ち悪い』『オタクみたい』と、ありふれた陰口だった。
そいつらには特に何かした訳ではないのに、どうして言われなければならないのか。
さすがにうざったくなってきてそれを直接言った。
『お前らみたいに影で何か言ってなきゃ生きてけない集合体より、一人の方が気楽でいいね』と売り言葉に買い言葉と言った具合で口論に。
手を出す訳にもいかず、ずっと顔を殴りたい衝動を抑えあくまで冷静に女子集団を躱した。
返す言葉も尽き、とうとう訳の分からない罵倒しか飛ばせなくなってきたところで最後に『人語を介せない猿と話してられない』と言い捨てこちらから教室を出たのだ。
しかして、あまりにも酷かった。
頭の悪い女子集団はなんでどうも意味不明な理屈で筋が通っていると勘違いしているのだろうか。
そろそろ2年も終わりに近づく。今は11月の中頃だ。
テストも近く、さらに色々あった上での、先の件だ。
ストレスが溜まる他なく、イライラしながら自動販売機へ向かった。
イライラしたときにいつも飲むのが紅茶だ。
昔から午前の紅茶のミルクティーが大好きで、それがなんと、つい最近小さいペットボトルで置かれるようになったのだ。
底冷えするような、冷たい気温にひやりと指に触れるペットボトル。
冬の到来を知らせているようで、心地としてはなんだか落ち着かない。
今から2年前を思い出して仕方ないからだ。
この時期になると、どうもどこかがじくじくと傷んで仕方ない。
しんと降り積もる雪から目を逸らし、時計を見やる。
針はもう少しで5時間目を迎える。
小走りに居心地の悪い教室へ向かい、教科書を取ろうと思った矢先だった―――。
『これはなんですっテ?アナタ達に教えなきゃ、いけないことなのですカ?…仕方ないなァ…』
『僕は、死ぬ前の俺でス』
『死ヌ?そうですネ、若干ニュアンスが違いますガ、おおよそそのような解釈でいいでしょウ。さテ、本題でス』
『醜く腐った俺ヲ、アナタ達が救ってあげテ?』
「…はーっ。くそ。緊張するなぁ…」
吐けば白く染まる息が、銀世界を知らしめる。
今日は、…うーん…やっぱりまだ…。でも前々からお互い言ってたし…。…でも恥ずかしいなぁ…。
ずっと右を行っては左、左を行っては右を繰り返し、自分なりに緊張をほぐそうと忙しなく動いて、決意し、インターホンを押す。
ピンポーンと軽快な音を鳴らし、数分後、上からドタドタと階段を下りる音が聞こえる。
数ヶ月前から、聞き慣れた音。いつも暖かく迎えてくれる、優しい木の音。
「遅い」
「ごめんて。服、何着てこうか迷ってさ」
「とりあえず入っちゃって。…さむっ」
「お前熱あんのに無理して下りて来んなよ…。心配するわ」
そう言うと彼女、「千羽」は階段の手すりからずるずるずると、溶けるように下に座り込む。
「榧野ぉー。おんぶー」
「中学三年生っ!!」
そう言いながらもひょいとおぶる。
高いところはおんぶでも駄目なくせに、下に来ただけで気力が尽きたのか珍しくおねだりだ。
仕方ない。ここは熱に免じて甘えさせてやろう。
そうして静かに、玄関の扉が閉じる。
12月25日。雪景色に包まれた、二人だけの世界に。
視界になにか映るたび苛立って舌打ちと暴力的になる衝動を抑える。
どうしてこんなにイラついてるかと言うと、発端は今から10分前くらいだろうか。
自分のクラスでの立場は、「基本的に一人」というものなのだが、それを疎む人がいる。それは凡そ分かるだろう。
そいつら女子が陰口を発していたのだ。しかも俺の。
『いつも一人で気持ち悪い』『オタクみたい』と、ありふれた陰口だった。
そいつらには特に何かした訳ではないのに、どうして言われなければならないのか。
さすがにうざったくなってきてそれを直接言った。
『お前らみたいに影で何か言ってなきゃ生きてけない集合体より、一人の方が気楽でいいね』と売り言葉に買い言葉と言った具合で口論に。
手を出す訳にもいかず、ずっと顔を殴りたい衝動を抑えあくまで冷静に女子集団を躱した。
返す言葉も尽き、とうとう訳の分からない罵倒しか飛ばせなくなってきたところで最後に『人語を介せない猿と話してられない』と言い捨てこちらから教室を出たのだ。
しかして、あまりにも酷かった。
頭の悪い女子集団はなんでどうも意味不明な理屈で筋が通っていると勘違いしているのだろうか。
そろそろ2年も終わりに近づく。今は11月の中頃だ。
テストも近く、さらに色々あった上での、先の件だ。
ストレスが溜まる他なく、イライラしながら自動販売機へ向かった。
イライラしたときにいつも飲むのが紅茶だ。
昔から午前の紅茶のミルクティーが大好きで、それがなんと、つい最近小さいペットボトルで置かれるようになったのだ。
底冷えするような、冷たい気温にひやりと指に触れるペットボトル。
冬の到来を知らせているようで、心地としてはなんだか落ち着かない。
今から2年前を思い出して仕方ないからだ。
この時期になると、どうもどこかがじくじくと傷んで仕方ない。
しんと降り積もる雪から目を逸らし、時計を見やる。
針はもう少しで5時間目を迎える。
小走りに居心地の悪い教室へ向かい、教科書を取ろうと思った矢先だった―――。
『これはなんですっテ?アナタ達に教えなきゃ、いけないことなのですカ?…仕方ないなァ…』
『僕は、死ぬ前の俺でス』
『死ヌ?そうですネ、若干ニュアンスが違いますガ、おおよそそのような解釈でいいでしょウ。さテ、本題でス』
『醜く腐った俺ヲ、アナタ達が救ってあげテ?』
「…はーっ。くそ。緊張するなぁ…」
吐けば白く染まる息が、銀世界を知らしめる。
今日は、…うーん…やっぱりまだ…。でも前々からお互い言ってたし…。…でも恥ずかしいなぁ…。
ずっと右を行っては左、左を行っては右を繰り返し、自分なりに緊張をほぐそうと忙しなく動いて、決意し、インターホンを押す。
ピンポーンと軽快な音を鳴らし、数分後、上からドタドタと階段を下りる音が聞こえる。
数ヶ月前から、聞き慣れた音。いつも暖かく迎えてくれる、優しい木の音。
「遅い」
「ごめんて。服、何着てこうか迷ってさ」
「とりあえず入っちゃって。…さむっ」
「お前熱あんのに無理して下りて来んなよ…。心配するわ」
そう言うと彼女、「千羽」は階段の手すりからずるずるずると、溶けるように下に座り込む。
「榧野ぉー。おんぶー」
「中学三年生っ!!」
そう言いながらもひょいとおぶる。
高いところはおんぶでも駄目なくせに、下に来ただけで気力が尽きたのか珍しくおねだりだ。
仕方ない。ここは熱に免じて甘えさせてやろう。
そうして静かに、玄関の扉が閉じる。
12月25日。雪景色に包まれた、二人だけの世界に。
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