滔滔と、落ちる心

一夕 ヒ(いゆう ひろ)

ムカシバナシ

 さて、俺の今を語るにあたって、過去を話さなくちゃあ始まらない。
 どれくらーい前から…うーん。…そだな。洗いざらい話すつもりでいこう。
 俺がまだ、4歳と小さい時からの話からだな。




 俺は小さい頃、よく外で遊んでいた。近くに公園があって、そこで子供らしく空想の敵を作っては、そいつと悪戦苦闘した。
 夜遅くまで戦ったり、あるいは新たな敵を探すために、家から少し遠いところまで「旅」と称し歩き回った。
 面白いことだらけだった。キラキラして見えた。
 川の上に作られた橋を渡ることですら、敵の城への道に見えて楽しくて仕方がなかった。
 そんな純粋な児童期を終え、少年期へと移り変わる時だった。
 …ややこし。小学校に上がる時だった。はいこれ。
 唐突に、音もなく自分に対しての悪口が、いつしか飛ぶようになった。
 最初は絵を描いていたから、「へたくそー!」と馬鹿にされる事が多々あった。
 学年が一つあがると女子と男子の境もなくいじめを受けるようになった。
 石を投げられる。悪口は日時。殴り、蹴られ。時におもちゃを壊されカードを破られる。
 それが2年生の時にずっと続く訳だし、メンタルが不安定で確立してない頃の自分だ。
 その出来事から学校へ行かなくなったのは想像も難くない。つまり、不登校である。
 元々人付き合いも下手で、理由はかなり前にインフルエンザに罹り、それがよろしくない所に入り込み、病気を引き起こしている。
 そのため病院に行くことが多く、逆に自分と同じ年の人と話すことが少なかった。
 幼稚園も保育園にも行かなかったためにも関わりがなかったのが1番の打撃だろう。
 周りは幼稚園、保育園である程度関わりがある人がいた。が、自分はそうではない。
 それに、人付き合いが下手な人は、小学校でも中学校でも高校でも、そういった部類に入れられてしまうのは、分かるだろう?
 小学校3年になる頃には、1度も学校へ行かなかった。
 と、いうより、何としてでも行かないようにしてた。
 携帯を渡された。GPS機能が付いた、所謂ガラケーを母が買ってくれたのだ。
 「お前はよく外へ行くから、電話とかメールが出来るものがいい。あと、GPSで探してる時は切らないでね」と、注意されながらも貰った。
…の、だが。いざ学校となると思い出し、すぐに逃げ出す。
 そして妹がその様子を母へ送り、母がGPSで探しに掛かる。
 この時の自分はとても焦った。どうやったら無効に出来るのかと。母との約束を破るのかと。
 そして、結局切った。戻るのキーを押せば簡単に解けたのだ。
 安堵した心と、約束を破った罪悪感からその日は家に戻るのがとても遅かった。
 もちろん、母にも怒られた。が、わらにもすがる思いで過去に起きた事の話をした。
 返ってきたのは、「なら、ここじゃない所で頑張れる?」
 耳を疑った。俺の家は裕福ゆうふくなどではない。むしろ貧乏びんぼうなくらいだ。
 たかが1人のいじめ話だけで、それを言い出すのは相当余裕をもたせなければならない。
 けれど、母親のその言葉に、とても有り難さを感じたのは、紛れもない事実で、そして今は、憎むべきことであるが。




 ははっ、こんな脳内で誰に語ってるのか。
 授業は終わり間際を迎え、あと数分でチャイムが鳴る。
 さて、またおでましか。
 「きりーつ、礼ー」
 いつもの挨拶で授業を終えて、皆が一斉に散らばり、グループを組みながら廊下へ出ていく。
 俺はもちろん、関わる人も少ないので隙間を掻い潜って廊下、そして教室へと向かった。
 …さて、次は…。げっ、日本史か。
 次に始まる授業、今の環境、自分の状態、状況全てに疲れ果て、重苦しい溜め息を、さも鬱屈うっくつそうに吐き捨てた。
 そしてこれ以上ぐだぐだと時間を潰す訳にもいかない。あの本の続きが気になってるんだ。
 授業中だとゆっくり読めていいなぁ…!
 そう感じながら、向かう途中だった。
 1人の女子が、教室から出てきた。
 細身の、華奢きゃしゃとでも言えばいいのだろうか。頭の頭頂で束ねた髪からちらと見えるうなじは、健康さを表している。
 そして、目の下の、ちょっと大きいほくろ。
 身の毛が逆立つ気分に襲われた。相手は、それを気づいている訳もなく、俺を一瞥いちべつして移動クラスへ足を向けた。
 俺もそこへ向かわなければならないので、必然と後を追うようになってしまう。
 この瞬間が、酷く嫌だ。

 まるで、ストーカーしているみたいで。

 まるで、期待を抱いてるみたいで。

 そして、そんな事全くないと、もちろん気づいてる自分が、酷く嫌だ。

 そうこうしている間にチャイムはなってしまった。いつの間にか10分経っていたらしい。
 さて、続きのページは。
 そんなことを考えて、また今日も無駄を作っていく。

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