囚人

しのじい

事実

「こ、ここはどこだ?」
私の声は反響し、地下空間にいるようだった。
「囚人、来たな」
突然、聴いたこともない声が聞こえた。
すると、仄かではあったが灯りが灯った。薄暗い中ではあったが、私がどこにいるのかはすぐに判った。
私は今、壁の積み上げられた石。そして、目の前の鋼の格子を見ていた。
 そう、今、私は地下牢に入っているのであった。
「やっと来たか、囚人よ」
今度ははっきりと、低い声が聞こえた。
私は声の主を探したが、周りが薄暗いせいか見つけることはできなかった。
 いつの間にか鋼の格子を隔てた所に人と思しきシルエットがあった。
 誰だ?と思ったが、私が質問をする前に自己紹介をし始めた。
「聞きたいことは山程あるだろうが…」
シルエットがそこまで話した時、私は口を挟んだ。
「お前っ」
 するとシルエットは落ち着いてこう言った。
「気づいたか。ま、後々分かるさ」
 と。
 私は、訳が分からなくなってきていた。一体どういうことなのか?
 「焦るな、落ち着いて聞いてくれよ」
そう言って前置きをすると、シルエットは話し始めた
 「俺はお前の看守をしている。お前が産まれてからずっとだ。そして俺は、お前と共に成長してきた。そこで、やっとお前と会うことができた訳だ、そして今からお前にはここから出てもらう。分かったな?」
 すぐに様々な疑問が頭に浮んだ。私の看守?私と共に成長してきた?余計に訳が分からなくなってきた。 
 「ははぁ、お前、何がなんだか理解できていないようだな。じゃ、今から簡単に質疑応答の時間とする!」
 シルエットはそう言った。「簡単に」と言う言葉が少し気に掛かったが取り敢えず質問をしてみることにした。
 「じゃ、いいか?」
私は一応断りを入れた。すると、「いつでもどうぞ」と答えた。
 「まず、ここは何処なんだ?」
 「なるほど、気になるよな。ここは、平行世界、つまりパラレルワールドってやつだ。簡単に言うと。だかな」
 「ほぉ」
  反応をしてはみたが、よく分からなかった。しかし、今までに得た数少ない情報を考慮しても、ここが現実の世界ではないことは明らかだった。
「では、二つ目だ。何故お前は私の姿、いや、何故私なんだ?」
 物事の核心に触れた気がした。
 刹那、沈黙が流れる。
 「なかなかいい勘してるな」
 そう言うと、シルエットはこちらに一歩前進してきた。
 僅かではあるが光がシルエットの全身を映し出した。 
 そこには確かに私が居た。
 「…やっぱりか」
 思わず口から漏れた。
 「やっぱりバレてたか、そうだ、確かに俺はお前と同じ姿をしている。だけどなぁお前とは決定的に違うことがあるんだ。それはまだ言うことはできないし、未来永劫言わないだろう」
 決定的に…違う?何が違うというのだろうか。言葉遣いか?しかし、そんな単純なことではない気がした。
 「それじゃ、私は夢を見ているんじゃなかったのか?」
 一番気になる事でもあったかもしれない。それに、夢であるなら、もう目を覚ましてもいい頃だと思ったからだ。
 「う〜ん。そうだなぁ。夢を見ているとも言えるし、そうでないとも言えるんだ」
 彼は初めて考えているようだった。
 やがて彼は口を開いた。
 「そうだなぁ。簡単に言えばお前は夢の囚人でもある」
 「夢の…囚人?」
「あぁそうだ。だってお前は目覚めることが現段階でできないんだろ?」
 「…そうか」
 ここまででかなりの事が判った。しかし、一番大切な事が抜け落ちていた。
 「最後の質問だ。私は何故、ここに来たんだ?」
 私が一番知りたい事だった。
 すると彼は、
 「やっぱり気になるよなぁ」
 と、妙に間延びした口調で言った。
 「でも、残念だけど、俺はここで、その答えを言うことはできない。その答えは、じきに判るさ」
 彼はまたしても答えを言わなかった。
 「これで、質疑応答の時間を終了とする。質問は全部で四つだったな、さて、時間だ。行くぞ」
 彼は口早にそう言うと、人差し指の先で鋼の格子に触れた。すると、驚いた事に格子は段々と存在自体を消し始め、薄くなっていった。そして10秒も経たないうちに、鋼の格子は消えた。
 私がその光景に見入っていると、
「ほらほら、早く行くぞ」
 と、彼が催促した。
 私は闇に消えていく彼を追いかけた。

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