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夏月太陽

51.プールにて 1


 その日は、とても暑かった。

 家は昔ながらの家なので、クーラーは取り付けていない。有るとすれば、僕の部屋のみだ。

 リビングとダイニングは洋風ではあるけど、クーラーは取り付けていない。

 なぜなら、ばあちゃんもじいちゃんもクーラーに頼らず涼しくする方法を熟知していて、色々と対策があるからだ。

 例えばグリーンカーテンとか、打ち水とか。

 それに、かき氷を作ってくれたり、アイスクリームを作ってくれたりするので、毎年の夏を越えられる。

 しかし、今年は速人達が居るのでプールへ行くことになった。

 もちろん、かき氷やアイスクリームを作らないわけではない。今日はプールに行くと決まっただけだ。

 ただ、みんなプールに行くことを頭に入れていなかったため、水着を持ってきていなかった。

 そこで、みんなそれぞれ自分の家に水着を持ってくるようにと電話した。

 その数十分後、リムジンが4台やって来て使用人さんが水着を持ってくるという珍光景を見ることとなった。

 水着を得た速人達は、急かすように僕に僕の水着を持たせると、速人のリムジンに乗せ、現在人気のプールへ向かった。


 ◆◇◆◇◆


 人気のプールに着くと、暑い日だけあって人が大勢居た。

「じゃあ、水着に着替えましょうか」

 入場料を払った後、そう言った速人の言葉に頷いて肯定した僕達は、男女別れて着替える場所へ向かった。

 服を脱ぎ、下着を脱いで短パンのような水着を着ていると、速人と楓季がジーッとこちらを見ているのに気がついた。

「……どうかした?」
「龍さん、逞しい体してますね! 羨ましいです!」
「剣道やってる人って、そうなるもんなの!?」

 キラキラと目を輝かせながら迫ってくる二人に青ざめていると、そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あれ? 龍じゃん。……なにやってんの?」
「あっ、幸也じゃん。偶然だね。いや、この二人が、ちょっとね……」
「幸也さん! 龍さんの体羨ましいと思いませんか!? こんなに腹筋割れてて、腕にも筋肉があって!」
「あぁ、うん。龍の体なら毎年学校のプールの授業で見てるから、もう見飽きてるよ」

 なぜか、少し遠い目をしながらそう答える幸也。

「まぁでも、また一段と筋骨隆々になったよな」
「そうかな。自分ではよくわからないけど」
「だってお前、背筋が一目でわかるって相当鍛えてる証拠だぞ!?」
「そう言われても、自分じゃ背筋見れないから」

 僕がそう言うと、幸也は「確かに」と納得した。

「そう言えば、幸也は今一人だけど、もしかして佐倉さんと?」
「あぁ、そうだよ。文句あんのか?」
「聞いただけなのに、なんで喧嘩腰?」
「お前はそこの二人と居る時点でデートでは無さそうだな」
「うん、そうだよ。暑くて避暑目的で来ただけだからね」
「当然彼女も居るんだよな?」
「居るけど、それが?」

 そう聞き返すと、幸也は「なんでもない」と言って去っていった。

 なんだったんだろう?

「さ、龍さん。行きましょう!」
「行こうぜ龍さん! 桃香の水着姿拝んであげないと!」

 速人と楓季にそう言われた僕は、「そうだね」と言いつつ、楓季にからかわれた気がしたので、楓季には軽くチョップをかましておいた。

 着替える場所を出ると、「龍さん!」と呼ぶ声が右横から聞こえてきたので顔をそちらへ向けた。

 するとそこには、白いビキニを着用した桃香と赤という大胆な色のビキニを着用した輝美が居た。

 輝美は、珍しく長い髪をポニーテールにしていた。桃香は、ストレートな長い髪を頭の後ろでお団子ヘアにしていた。

 二人とも、中学生にしては大きい。大きさ的には、谷間ができる程の大きさだ。

 ……こういう時が一番目のやり場に困るんだよね。

 そんなことを思いながら傍へ行くと、桃香がワナワナと震えながら僕の体を指差してこう言った。

「り、龍さん。そ、その体………兄さんより凄いです!」
「あ、うん、ありがとう」

 妙に溜めるから僕の体がどこかおかしいのかと思ったら、単に筋肉を褒められただけだった。

 紛らわしい言い方しないでほしいな、全く。

「あ、あのっ。私の水着、どうですか?」

 桃香がクルッとターンしながらそう聞いてきた。

「似合ってるよ。白は清潔でいいよね」
「本当ですか!? ありがとうございます!」

 僕の言葉に満面の笑顔でお礼を言う桃香に対し、輝美は僕の言葉に不満があったらしく、ムスッとした顔で反論してきた。

「龍さん? その言い方だと私の水着が不潔だって聞こえるんだけど?」
「白がそういうイメージだっていう話だよ。別に輝美の水着が不潔っていう訳じゃない。というか、なんで赤なの?」
「私は桃香と違って、このぐらいしないと魅力がでないのよ。男を釣るためには、ね」

 そう言いながら胸を強調するように前屈みになって上目遣いで僕のことを見てくる輝美。

 正直、少しドキッとしてしまった。

「ああ! 龍さん今見惚れましたよね! 絶対見惚れてました!」
「輝美があざといことするから!」
「龍さんが釣れるなら他の男でも釣れそうね」

 なぜか妙な自信を付けた輝美が、「じゃ、私は良さそうな男を見つけてくるわ」と言って一人でどこかへ行ってしまった。

 逆ナンパか……。なんで急にそんなことする気になったのかな。

 しかもまだ中学生なのに……。

 そんなことを考えていると、左腕になにか柔らかいものが当たったのを感じてそっちを見ると、桃香がムスッとした不満げな顔で僕を見上げていた。

「あの、桃香さん? 当たってますよ?」
「そりゃそうですよ! わざとですから!」

 顔や態度からして、相当ご立腹な様子だ。

「な、何をそんなに怒ってらっしゃるんですか?」
「何を? 決まってるじゃないですか! 輝美ちゃんに見惚れていたことです!」

 そう言いながら僕の左腕を自分の胸にギュッと押し込む桃香。柔らか……いや、そうじゃない!!

「さっきも言ったけど、輝美があざといことするから少しドキッとしただけであって、輝美のことは友達としか思ってないから!」
「ならいいです。さあ、泳ぎましょう、龍さん! 暑いですから!」

 左腕を胸から離してから笑顔でそう言った桃香が、僕をプールへと引っ張っていった。

 いや、僕が言うのもあれだけど、納得するの早くない?

 そして、プールへと引っ張られた際、後ろからこんな会話が聞こえてきた。

「俺らは俺らで遊ぶか」
「そうですね。お邪魔でしょうし」
「あっ、あそこのでかいウォータースライダーやろうぜ!」
「いいですね! 行きましょう!」

 そしてそのまま、速人と楓季はウォータースライダーへ行ってしまった。

 おい君達、年下なら気を遣ってないで、図々しく一緒に遊んでよ!

 いや、別に桃香と二人きりになるのが嫌な訳ではないけど……。

 結局、そのまま桃香と二人きりでプールで泳ぐことになった。


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