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夏月太陽

17.散歩中のトラブル


 街へ戻ってきた後、ハヤトとフウキが「レベルが上がったことだし二人でクエストへ行く」と言うので、僕はそこで別れた。

 二人と別れた僕は、また街の中を散歩しようかなと思ったので、適当に歩くことにした。

 実は前歩いた時もあったけど、気にしないようにして歩いていた事がある。それは、周りの人達の僕に対する視線だ。

 考えられるのは、先ず1つ、ドラゴンを肩に乗せているということ。2つ、『ヒーラーベア』を抱いているということ。3つ、単に僕のことを動画で見て「あの人、動画の人じゃん!!」という視線で僕を見ている感じ。といった理由だと思う。というか、たぶん全部当てはまってるような気がする……。

 でも、一番有効な理由は最初の2つしか考えられない。なにせ、テイムの難しいドラゴンとテイム以前に合間見えることが叶わないぐらい見つけるのが難しい『ヒーラーベア』二種類を連れて歩いているんだから。

 そんな視線を浴びながら街中を歩く僕達の前に、ビーストマンだけのグループ7人がやってきた。

 あれ? ものすごく、いや~な予感がする……。

 その7人の中の一人が代表して僕の前に来るなり開口一言目ひとことめが、「お前、調子に乗んなよ?」だった。

(……はい?)

 それが、僕が言われた瞬間に頭に浮かんだ言葉だった。だって、調子に乗ったことなんて一度も無いし、第一、この人達のこと全く知らないから、なんの話なのか、全く見当がつかない。

「え~っと……なんの話ですか? 僕には全く身に覚えのない話なので、人違いじゃないですか?」
「い~や、お前の話だ! ドラゴンテイムと『ヒーラーベア』テイム、それらをお前は見せびらかしている。どう考えても調子に乗ってるだろ!」

 えぇぇぇぇ!? な、なんと理不尽な……!! それだけで調子に乗ってると言われるのは解せない。だって、僕はただ、シアンとブランを連れて街中を散歩してただけなんだから。

「おい、聞いてんのか!?」
「いや、その、そんなんで調子に乗ってると言われても、僕はただ散歩してただけなので……」
「あぁ!? それが迷惑なんだよ!! 分かんねえのか!? あぁ!?」
「そんなに大声出すと、それこそ周りの人達の迷惑になりますよ?」
「クソッ! なんでビビんねぇんだよコイツ……!」

 そんなことを目の前にいる人が首を僕から逸らしてボソッと呟いた気がした。なに? 僕をビビらせるのが目的なの? それなら残念でした。警察官だった両親が怒った時の方が怖かったです。さからいたくなくなるくらい怖かったです。

 あっ、ダメだ……。思い出しただけで鳥肌が……。まあ、あの頃は僕も若かったから、若気の至りってやつだね……いや今も若いけどね。小さい頃は好奇心旺盛だったから少し、そう、少し、やんちゃが過ぎたんだ……。

 そんな昔の怖い思い出を思い出していたら、目の前にいる人に怒られた。

「俺と喋る気有んのか!?」
「どっちかと言うと無いですね。言いがかりにも程がありますし、第一、貴方がたを見たことが無いので」
「なんだと!? そっちが見たことが無くてもこっちは見たことが有んだよ!」
「いや、そんなこと言われても……。というか、それだったら僕の事を見なければ良いでしょ?」
「そんなん無理に決まってる! お前が2匹を連れて歩いてたら絶対気になって見るに決まってんだろ!」

 なにそれ面倒くさッ!? 不可抗力じゃんか!! 僕に引き籠れと言うのか……!

「なんですかそれ、ただの言いがかりじゃないですか」
「言いがかりだと!?」
「だってそうでしょ。見たこと無い人が急に現れて、見せびらかすな、なんて言われても僕の知ったことじゃないですし、欲しいなら自分でテイムすれば良いでしょ?」
「別に欲しい訳じゃないが、お前が初心者のクセにまだ誰も成功したことの無い事ばかり成し遂げやがるのが気に入らねぇんだよ」
「出来ちゃったものは仕方ないでしょ。そんなに気に食わないなら、まだ誰も成功したことの無い事を成し遂げれば良いじゃないですか」
「それが出来たら苦労しないんだよ!」

 本当面倒くさいな……。僕がシアンとブランをテイム出来たのは、九割九分偶然だから狙ってやった訳じゃないのに……。十割じゃないのは、2匹とも、テイム出来たのは僕が動物に好かれる体質だからだ(自分ではそんな気はしないけど)。

「そうですか。でも、やる前に諦めるんですか?」
「……は?」
「やってみないと分からないですよ?」
「お、おう?」
「どうしてそこで諦めるんですか! 諦めたらそこで試合終了ですよ?」
「お、おい、どうした? キャラ変わってんぞ?」

 僕の急な変わりように、目の前の人やその人の後ろに居る仲間の人達は唖然とした様子になった。

「諦めるんですか? 諦めないんですか? どっちなんですか?」
「………本当はな」
「はい」
「本当は、お前みたいに誰も成功したことの無い事を成し遂げてちやほやされたいと思ってたんだ! だが、俺達のプレイヤースキルでは夢のまた夢なのは分かりきっていた……」
「それで、僕に八つ当たりしたんですか?」
「ああ、そうだ。羨ましかったんだ」
「僕はちやほやされた覚え無いですけど」
「知らねえのか? ゲーム内の掲示板でお前めちゃくちゃちやほやされてんぞ?」
「えっ!?」

 嘘でしょ……? 掲示板なんて有ったの? というか、それ以前にゲーム内の掲示板って何? 何に使うの? えっ? お題を付けてそれについて大勢で述べ合うもの? それに僕についての事が書かれているってこと?

「まあ、そういうことだな」
「そうなんですか、知らなかったです……」
「なんだお前、掲示板見たことねぇのか?」
「無いですよ。ネット自体あまり見ないですから」
「マジか……。お前、いつもなにしてんだ?」
「勉強か部活ですけど?」
「薄々思ってたけど、やっぱりお前真面目な奴だったんだな」
「あっ、でも、このゲーム始めてからは土日はほとんどこのゲームばかりしてます」
「月曜から金曜は?」
「勉強と部活です」

 僕がキリッとした表情でそう言うと、目の前の人やその仲間の人達が「あっ……そう……」といった感じの表情をしながら僕を見てきた。

 僕はその表情にツッコミを入れるよりも、そろそろ話を終えたい気分になった。何故なら、シアンとブランがつまらなさそうな顔をし始めたから。

「じゃあ、僕はこれで。諦める前に、一度でも良いので挑戦してみてくださいね」

 そう言って僕がビーストマンの人達に背を向けて立ち去ろうとすると、肩を掴まれて止められてしまった。

「まだ何か?」
「いや、その、なんだ……八つ当たりみたいなことして悪かったな」
「いえいえ、良いんですよ。分かってくれたならそれで」
「……お前、良い奴だな」
「そ、そうですか? 普通だと思いますけど」
「俺はそう思う。……そうだ! フレンド登録してくれないか?」
「えっ? なんですか急に」
「お前としゃべんのなんか楽しいからさ、頼むよ」
「まあ、する分には良いですけど、本当に僕と喋る事が目的ですか?」
「それ以外に何が有るんだ?」
「えっ? 例えば、お喋りがしたいと呼び出しておいて超高難度なクエストを押し付けたりとか?」
「しないしない」
「お喋りがしたいと呼び出しておいて、不意打ちでプレイヤーキルしたりとか?」
「しないしない」
「……もう出てこないです」
「少なッ!?」
「だって僕、このゲーム始めてまだ4日しかプレイしてないんですから、このゲームの詳細を全て把握してなくても仕方ないですよね?」
「4日!? 4日でその2匹をテイムしたのか!? やっぱ羨ましいな……」
「なんなら、これから【ベア種の森】に行きますか?」

 そう僕が提案すると、目の前に居る人が唖然とした顔になった。そして数秒してから口を開いた。

「一緒に行って、どうにかなるもんなのか?」
「ああ、言ってなかったですけど、僕の友人いわく、僕は動物に好かれる体質らしいので行けば出てくるんじゃないですかね。この子の時がそうでしたから」
「ドラゴンの時は?」
「卵から孵化させたら、すぐなついてくれました」
「もうそれは動物に好かれる体質で間違いないな。ドラゴンは人間嫌いなんだが、例外のお前は除くとして、他の奴だと産まれてきても絶対見向きもしないからテイムが出来ないんだよ。テイムするにはなつかれなきゃいけないからな」
「へぇ、そうなんですか。勉強になりました」

 ハヤトからそんなことを聞いた気がするけど、僕は一応お礼を言っておいた。だって親切に教えてくれた訳だし。

 それから、僕は7人を代表した目の前の人(名前はクロスさん)とフレンド登録をし、その後、その7人と共に【ベア種の森】へ向かった。


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