VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい

夏月太陽

15.今さらのブランのステータス


 クエストをクリアした後、マクロ達と別れた僕はすることも思いつかなかったので、街を見て回ることにした。

 今までしてなかったし、良い機会だろう。という、ただそれだけの理由で街を回るという思いに至った。

 まあ、見て回るにしてもそんなに見たいものが有る訳じゃないから、ほぼ散歩のようなものだけど。

 しかしまあ、なんと言うか、凄いよね。フルダイブ。改めてそう思うよ。

 例を挙げるなら、1つは歩くにしても走るにしてもちゃんと地面を蹴る感触が有ること。1つは斬った感覚も有ること。それから、これは前にも思った事だけど、シアンとブランの体重を感じること、そしてシアンとブランを撫でたときの感触を感じること。

 という自分のフルダイブに対する褒め言葉に対して、「だよねぇ~」と一人芝居のような問答を心の中でしつつ、街中まちなかをブランを抱いてシアンを肩に乗せて歩いていると、前から見たことがある……というか、ブランを欲しがっていた人達が歩いてきた。

 そして歩いてきたその人達は、僕に気づいて僕の前に来た。そしてその人達が何かを言い掛けた次の瞬間、僕は本能的にその場から走り去っていた。

「あっ、ちょっと!!」
「まあ、そりゃそうなるわな……」
「相変わらず速いな……」
「俺達、謝ろうとしただけなんだけどな」
「仕方ないだろ、あんなことした後だし」

 あの5人から逃げてきた僕は、違う道を行くことにした。

「いやぁ、なんで逃げ出してきたんだろ。別にあの人達が険しい表情してた訳じゃないのに」

 ただ、本能的に逃げなきゃならないと感じて、感じたと思ったら何時の間にか体が勝手に走り出してた感じなんだよね。本当なんでだろ……?

「キュ?」
「えっ? 何?」
「キュキュ?」
「えっ、あそこに行きたい? なんで?」
「キュキュ!」
「んー、まあ確かにそうなんだけど。ブランは回復専門だから戦えないと思うぞ?」

 そう僕が言うと、ブランが抱いている僕の腕をツンツンとつっついて見上げながら僕を呼んだ。

「クゥクゥ」
「ん? どうした?」
「クゥ、クゥクゥ」
「えっ!? 本当に!?」
「クゥ!」

 マジか……。ブランによると、自分はレベル上げの必要が無いよ、ということだった。じゃあ別にあそこに行かなくても良いよな……って、いやいや、ステータス確認しないとダメだろ!?

 そう思ってブランのステータスを見てみた。

―――――――――――――――――――――――

◆モンスター名:ヒーラーベア Lv99

 HP:9999/9999

 MP:9999/9999

 STR(攻撃力):1

 VIT(防御力):9999

 AGI(回避力):0

 INT(賢さ):9999

 MND(精神力):9999

◆称号
 ・<癒しの女王ヒーラークイーン>

―――――――――――――――――――――――

 はい、チート。

 なんなん!? 僕がテイムしたモンスター、いまのところ全部チートモンスターなんやけど!? しかも癒しの女王ヒーラークイーンって何!? というか、攻撃力1て……。それに回避力0て、なんなん? いじめ? それとも喧嘩売ってんの? 喧嘩売ってるんやったら何時でもうたるでぇ!!

 ……ハッ!? しまった……! 驚きすぎて、エセ関西弁が出てしまった!! 関西の方々すみません、僕は生粋の東京生まれの東京育ちです……。

「……」
「キュ?」
「クゥ?」
「うん……これは……チートで間違いない……。というかブランって雌だったんだね」
「クゥ!」
「キュ!?」

 僕の質問にブランが元気よく答え、シアンがマジで!? という感じで驚いた。まあ、驚くよね。でも、かと言ってブランを雄とは思ってはいなかった。何故かと言うと、雌雄が無いと思ってたから。

 でも今思えば、シアンは龍王ドラゴンキングで『キング=男』だから雄ってことだった……。完全に見落としてた……。というか、それ以前に気にしてなかったっていうのが本音。

 それにしても、どうしよ、これ……。ブランまでもがチート性能を持ったモンスターということが判明してしまった訳だから、益々僕がチーターだと思われてしまう……。なんでもっと早くステータス見なかったんだ、僕のバカ野郎!!

 なんて、今さら自分を貶したところで全く意味が無いので、これはもう甘んじて受け入れるしかない……のか? でも、やっぱりやだなぁ。ただテイムしただけであるにもかかわらず、チーター呼ばわりされるのは物凄く不本意だ。

 そんな考えがぐるぐると頭の中で回っている。どうしよ、本当に、どうしよう……。

 たぶん、今の僕の顔は絶望に満ちた表情になっているのだろう。そんな僕を見た2匹が、僕を励まそうと必死になって鳴いている。

「ありがとう、シアン、ブラン。元気出たよ」

 そう言いながら僕は、ブランをモフモフしてからシアンの頭を撫でた。

 2匹とも、可愛いくて癒される。

 元気を取り戻した僕は、散歩を再開して街中を歩きだした。

 歩き始めた数分後、後ろから呼び声がした気がしたので、立ち止まって振り返るとハヤト達が走って向かってきていた。

「リュウさんここに居たんですね。探しましたよ。メールしても返事が来なくて、リュウさんのおばあさんに聞いたら『ああ、龍ちゃんならゲームしてるわよ』って教えてくれたので入って探してたんですよ?」
「ごめんごめん。街をじっくり見たこと無かったなと思って、ブラブラ適当に見て回ってたんだよ」
「そうですか。それより、リュウさん、その抱いてる熊ってもしかして……」
「『ヒーラーベア』だよ」
「なっ、なんだってェェェェ!?」

 ハヤトがあからさまな反応をした。そんなハヤトの反応に、他の3人は「そんな大袈裟に反応することないだろ」といった感じでハヤトをジト目で見ていた。

「リュウさん、この子のステータス見せてください」

 そうハヤトが言ってきたので全員にブランのステータスを見せた。

「こ、これは……! 超レアじゃないですか!! どうしてリュウさんはそんなにレアなモンスターしかテイムしないんですか!! コツでも有るんですか!?」
「そんなこと言われても、前にマクロが言った通り、動物に好かれる体質みたいだからとしか言えないよ」
「動物に好かれる体質というだけでレアなモンスターをテイム出来る訳ないじゃないですか……!」
「前は特に反論してなかったのに……」
「そりゃそうでしょ! 2体目なんですから! さすがに許容範囲を超えます!」
「許容範囲狭ッ!?」
「レアなモンスターだからですよ」
「そんなことより、俺達リュウさんにお願いが有って来たんだよ」

 僕とハヤトの話を遮るようにフウキがそう言ってきた。

 僕にお願い? なんだろう。

「リュウさんの家でお泊まり会をしたいなと思ってるんだけど、良いかな」
「あっ、一応リュウさんのおばあさんとおじいさんに許可貰ってます」

 なんでこうこの子は手回しが良いんだろうか……。さすがは会社の御曹司といったところなのか……そんな事されたら僕が断れる訳ないじゃないか。

「良いよ。なんか不本意だけど」
「なんでですか?」
「ばあちゃんとじいちゃんが許可してるって言われたら僕も了承するしかないでしょ!」
「ごめんなさい、リュウさん。でも私達3人、リュウさんの家に泊まってみたかったのよ。モモだけ抜け駆けしちゃったから」
「それは、確かに……。でも、今日って日曜日だから泊まるの無理だよね?」
「もうすぐ夏休みだから」
「そ、それって、どのくらいうちに泊まるつもり?」
「夏休み中だけど?」
「なっ、なんだってェェェェ!?」

 今度は僕が、ハヤトがした反応をした。でも、今のは仕方ない。だってそんなこと聞いてないし、よくそれをばあちゃんとじいちゃんが許可したなという驚きで出ちゃったから。

 まさか、夏休み中ずっとだとは思わなかった。精々1週間とかかと思ってた……。マジか……。

「ま、まあ、良いけど、課題とか無いの?」
「持ってってリュウさんの家でやるわよ」
「そうそう。分からないところはリュウさんに聞けるし、リュウさんの家に泊まれるから一石二鳥ですよ」
「そんな一石二鳥は止めてほしいんだけど……」
「わ、私は、リュウさんに勉強教えてほしいです……!」

 やっと口を開いたモモからそんな言葉が出てきた。し、仕方ない、モモがそう言うなら教えても良いか……。自分の課題も有るけど、やりながら教えるか、夏休みに入る前に終わらせるなりすれば良いし。

 そう結論付けた僕は、「ドンと来い」と宣言した。

 その後、僕達はそれぞれ昼ご飯を食べるためログアウトすることになったので、僕はギルドホームへ戻り……って、あっ! ブランの巣を造るの忘れてた! 後で造らないとな……。

 ということで、シアンは巣へブランはまたアイテム欄へ入れて僕はログアウトした。


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