Umbrella

高嶺

全然分かんない

「じゃあ、あの写真って…」
私は物置に隠した秘密を思い出す。

「ああ、西野さん知ってたんだ。多分それさくらんぼさんの彼女だろ。俺は実際に会ったことはないけど」


「エマさんは今でもさくらんぼさんのこと好きなんでしょうか?」

「俺からしたらバレバレって感じ」


「彼女さんがいるのに好きになっちゃったんですね…」


エマさんにこんな秘密があるなんて全く知らなかった。私は彼女の明るくて優しい性格に救われてばかりで、彼女の悩みに気づくことができていなかった。

なんて自分勝手な。


「祇園さん...あの、今美鶴さんはどこにいるんですか?話じゃ、ここで働いていたって…」


「...これ以上は俺からは言えない」



きっと深い深い事情があるのだ。

まだ入ったばかりの私には踏み込むことができないような。


エマさんはあの笑顔の裏に辛い気持ちを隠してた。さくらんぼさんを困らせないために無理やり抑えていたのだ。




ガタン、と大きな音がした。

突然、物置からエマさんが飛び出してそのままドアを開けて外へ走り出た。

彼女は泣いていた。


遅れてでてきたさくらんぼさんは彼女を追うことをしなかった。



「...何やってんすかさくらんぼさん。あいつの気持ち、本当は知ってるくせに」

少し前のような、ピリピリした祇園さんがそこにいた。

「追わないんですか」


さくらんぼさんは困ったように笑って、椅子に腰掛けた。

「僕にその資格はないよ。今エマちゃんを追いかけても、彼女の望む答えは出せない。」


さくらんぼさんはエマさんの想いに気づいてる。人の心を読んでしまう彼のことだ。きっと、ずっと前から知ってたのだろう。

その上で彼女に答えを出さないのはさくらんぼさんの優しさだ。


でもそれが、エマさんにとってどれだけ苦しいことか。



人を好きになることを知らない私は全く役に立たない。
自分が不甲斐ない。



物置には割れた写真立てがそのままで、ガラスの破片がキラキラと光っていた。


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