Umbrella

高嶺

入店

二重扉を押すと、軽やかなベルが鳴った。
そこは、喫茶店だった。

「いらっしゃいませ」
ピンクの傘をとじながら、その人は言った。

レトロな雰囲気の店内をぐるりと見回す。
初めて来たのになぜか懐かしい。

すると、店の奥からエプロン姿の女性が
でてきた。私より少し、年上だろうか。

栗色に透けたふわふわの髪を三つ編みに結って
長い前髪をサイドに分けている。
小柄で女の子らしい。

「エマちゃん、傘ありがとう」
男の人が彼女に話しかける。
彼女はエマさんと言うらしい。
あのピンクの傘はこの人のものだったようだ。

「大変でしたねー!タオル使ってください」
馴れた様子で私にタオルを手渡す。

私にカウンターに座るように促し、エマさんは
「コーヒー飲めますか?」
と私に問いかけた。

「さくらんぼさんのコーヒー、すっごく
 おいしいんですよー!」

さくらんぼさん?

ずいぶん可愛らしい名前だ。
誰のことなんだろう。

「エマちゃんに褒められると照れるなー」
笑ったのは、あの男の人だった。

「じゃあ、頂きます」
私がそう言うとエマさんは嬉しそうに笑った。

「お任せあれ!」

優しい空気が流れた。

久しぶりに人に優しくされて、
少し戸惑う私がいる。

泣きそうになったから、私は笑った。













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