少女寿命

こむぎ子

命名未満(後編)

そりゃそうさ。人は、例え気が合っても分かりあっても、寄り添う時間が長くても、身体の構造だけで相手が制限される。
そうやって、中学二年生まではわたしだって生きてきただろう。
手紙をテーブルに、丁寧に置いて、スマホを取った。
「結婚おめでとう!なんで早く言ってくれなかったんだよ〜!」
画面でならどうとでも言える。私の心の汚濁も隠せる。
「サプライズって形で驚かせたかったんだ」
あの子から返信が届く。驚いたよ。色々と。そりゃもう必要以上に。
あの子とぽつぽつ話をしてから、スマホの電源を切って、泣いた。その日は泣きじゃくった。手紙を破いて捨てようかとも思った。人とはどうして性別ひとつでこんなにも報われないのか。目が腫れたのと、喉が枯れたのは、あの子からの彼氏紹介以来か。
…せめて、顔を見ても、笑ってあげなきゃ。

そうやって覚悟を決めていたのに、そうやって心を抑えていたのに、結婚式前日になってあの子からスマホ越しに連絡が来た。
「手紙に書いてある結婚式場に午後四時、来てくれない?」
なんだろうか、前日に彼氏を紹介でもするのか、不思議なことだけど。
そんな思考を引っさげながら車で向かった。

あの子はウエディングドレスでひとり立っていた。
ステンドグラスを背景に薄化粧が映えた。
「時間より早く来てくれるところ、昔から変わらないね。」
あの子が笑った。
「どうしたの、こんな日に呼び出して。」
「実はね…謝らなきゃいけないことがあるの。ずっと、許されないことだと思う。うん、許さないで欲しいの。じゃあなんでって、言われるべきだもの。
.........私ね、あなたの、あなたのことが、ずっと大好きなの。今でもずっとよ。」
からんと、なにかが転げ落ちた。
ぱりんと、なにかが割れた音がした。
何を言っているのかわからなかった。
「お母さんに紹介された人で、とても優しくて、とても、とてもいい人なの。でもね、でも…それでも私は、あなたを好きだったの。
世間から、逃げたの。」
わたしはどうすればよかったのだろう。
怒ればいいのか、笑えばいいのか、引けばいいのか。
どうしようもなかった。
道連れにしようとした心が今になって泣き声をあげた。
「わたしも…ずっと、中二の時からずっと…好きなの。大好きなの。」
告げた心に「やっぱり私達ってそういうものだね」とあの子ははにかんだ。
「神の前でこんなこと言ったら、バチ当たるかな。」
「…地獄に堕ちるなら、そこで結婚式を挙げよう。だって、法律なんかないんだから。」
ふたり、笑いあって、触れ合うだけのキスをしたあと、お互い、不細工な顔で泣きあった。
それがワタシ達の最後の初恋だった。


腹を擦りながら、思い出に浸る。
この子が女の子でよかったと思う。
私の愛しい子、名前は、あの子と同じ漢字を勝手に貰おう。
ねぇ、素敵な子。

あなたの名前を呼んだ。
ぽこぽこと腹を蹴られた。

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