少女寿命

こむぎ子

命名未満(前編)

「私この教会で結婚式を挙げたい!」
「わたしも!」
遠足の帰り道、結婚式が挙がっていて、花嫁のウエディングドレスの姿を見て私達はそう話していたのを今でも覚えている。その時はまさかこんな風に、こんな皮肉な形になるとは思わなかったけど。

私達は昔から一緒だった。だからお互いのこともなんとなくわかっていた。ただ、だからこそかな。"なんとなく"で培ったものを壊すのが怖かったの。私ね、好きよ。今でも…大好き。

わたし達の出会いなんてあまりよく覚えていない。気づいたら傍にいた、っていう曖昧な記憶。
そりゃそうだもん、家が隣で、親が仲良くて、ちょうど同年代。胎盤からなのかはわからない。ただ、気があって、仲良くなっていったのは確かな記憶。
手を繋いで、水溜まりを長靴で弾けさせて、庭を回ったりおままごとしたりして遊んだの。あの子のお母さんの料理は美味しかった。
そうやって育っていった。保育園、幼稚園、小中って。
たぶん恋心に気づいたのは中学二年生だと思う。秋頃かな。妙にあの子が気になって、ふとした時に抱きしめてみたりしてみたけど、やっぱり幼馴染だからって自然に受け止められて、伝わらないなぁって、初めて幼馴染であることがちょっと憎たらしく思えた。
そんな感じで、あの子を想いながら高校に行った。
まさか高校も一緒になるなんて思わなかったけど、本当によかった。嬉しかった。
それでもやっぱり変わらない。
ペン貸しあったり、口つけたペットボトルあげたり、ちょっと期待したけどなんでもなさそうな顔。悔しい。
そうやって日々が過ぎていった。
流石に大学は一緒にはなれなかった。仕方ない。でも、これで良かったのかもしれない。きっと、このまま長くいるとわたしの思いがあの子に知られてしまうから。だから、閉じ込めておこう。
この恋心は、道連れにしよう。

それからやっぱり連絡は減ったけど、たまに出会うようにはなっていた。
「私、ある人と付き合い始めたの」
スマホの画面越しにあの子が告げたその時期からか、その回数も減っていったが、それも、あの日の為なのだろうと、気づくのには思考が遅すぎた。
あの子から手紙が届いた。
わざわざ手紙という形で送るのは何事かと思った。開いてみたら、あぁ、そうか、うん。
妙に、腑に落ちてしまった。でも、やっぱりそうだよね。あの子はわたしとは違う。ただの女の子だったから。

それは結婚式への招待状だった。

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品