海蛇座の二等星
story.7 まだ星は見えない
消しゴムの下敷きになっているそいつはアルヴィンと名乗った。
中性的な見た目だけど名前からしても男なのだろう。多分。
「アルヴィ…めんどくさい、からアル。アル、何者。地球人じゃない、でしょ」
律が問いかけるとアルは目を見開き、すぐにニッと笑った。
「そう。君の言う通り僕は人間じゃない。どうしてそう思ったのか聞いてもいいかな?」
アルは何かを見逃すまいとするように律の顔をじっと見つめた。
「平たく言えば、直感。でもあえて、理由言うなら、音声言語、ほぼ一致している、けど訛り違う。じゃあ外国人かっていうと、目の色違う。それに、髪で隠してるけど、耳の形、変。なにより、夜翔に、似てる」
さっき戦ったときに目にしていたものを思い出して頑張って喋る。
黄色い目。尖った耳。
どちらもとても人間とは思えないものだ。
アルは今度は困ったように笑って言った。
「もっと違う言語使って外国人だと思わせればよかったなぁ…」
しかしアルが呟いた言葉に律は首を傾げてしまう。
「律、ほとんどの言語知ってるから、やるだけ無駄」
どうやらその言葉で追い討ちをかけたようでアルは項垂れる。
「君は本当に頭がいいんだね…。さっきも言ったけど僕は人間じゃない。この世界の概念で言うなら…一番近いのはカミサマかな。君に宿ってる夜翔のような精神体とはちょっと違う」
ふぅ、とため息をついたアル。
もしかして消しゴムのせいで喋りにくいのか。
そう思って消しゴムをもとに戻すと悪いね、と一言発して体を起こしてまた話しだした。
「僕の生まれ育ったところでは魔力ってものがある。そして今までに色々な生命体を見てきたけれども君達みたいに魔力がない生命体はいなかった。だからもし魔力を入れたらどうなるのか、ちょっと気になってね。全員ってわけにもいかなかったから選別して力を注ぎ込んでみた」
それが夜翔なの、と問いかけるとアルはせっかちだなぁとのんびりと笑う。
「こっちの世界では一般的な方法でね。魔力を持たずに生まれた者には魔力の器が必要だ。だからもう個体としては存在を保てなくなった、つまり生物としての命を全うした者を体内に取り込むんだ」
つまり、死んで魂だけになった奴等って認識でいいのか。
そしたら夜翔はこんな見た目でもアルより年上で先祖ってところだろうか。
「だいたい、飲み込めた。質問だけど、楓死んだの、拒絶反応?あとなんで、律、選別されたの。どんな選別」
二つの質問を並べるとアルは言いにくそうに顔をしかめた。
「んー…んんーっ…いいや、どうせ公表することだ。僕が初めて見つけた生存者だから特別に教えてあげる」
公表するなら聞かなくてもよかった、失敗した、と内心思いながらもアルの言葉に耳を傾けた。
「一つ目の問いはちゃんと説明するよ。精神体──鬼って言うんだけど、もちろん個体差がある。ちなみに君の鬼は上級中の上級。中には強い妖や君達によく似た弱い生命体と混じったような者もいるけどね。まぁ総称して鬼。そんなのが体に入り込んだわけだから、君の言う通り、拒絶反応が起きた。ちなみに強い鬼ほど拒絶反応は強いみたいだから夜翔が入った人間は死ぬと思っていたんたけど、外れたね」
夜翔って凄い鬼だったんだ。意外。
『失敬な』
声に出さなくとも会話が成立したことに驚いていると、アルが咳払いをしたのでハッとしてそちらを向く。
「…続けるよ。二つ目の選別方法ね。なんだと
思う?ちゃんと共通の理由があるよ」
楓との共通点。名字…は違う。律だけあんな化け物じみた名字を名乗らされていたのだから。
血筋…だとしたら国規模の必要はない。
あぁ、認めたくない。
本当はわかってる。
今日はなんの日か。
律が大嫌いな、あの日だ。
「…誕生日」
律は今、どんな顔をしているのだろうか。
律の心情など知るはずのないアルは不思議そうに首を傾げた。
「そう、正解。まぁ人数的に丁度よかったってだけの話だね。ちょっと嫌われそうな理由だと思うけど」
アルが申し訳なさそうに俯うつむくのを見て、そういう概念はあるんだなぁと考えながらやんわりと首を振ってみせた。
「律だけかもしれないけど、感謝、してる」
そして口角を吊り上げて見せる。
いかんせん、動かない表情筋だ。
きっと酷い顔だろう。
「あははっ君だけだよ、きっと」
アルは立ち上がり尻を叩きながら、
「律って言ったっけ。これからどうするの?」
と、尋ねた。
答えはもう決まっていた。
「南に、行く。星、探す」
「『えっ』」
アルの声と夜翔の声が重なる。
目を丸くするアル。
初耳なんだけど、と言う夜翔。
きっと二人の思考は全く別の方向を向いているが、やはりその仕草──夜翔はそんな気がするだけだが、が似ていると思った。
「ね、アル。アル、律に接触したの、本当は夜翔に会うため、じゃない?」
アルはさらに目を丸くしたが意味深に笑うだけだった。
「話せて、よかった。また、ね」
走ってみようか、どこまで跳べるのだろうか、色々試してみようと思いながらアルに背を向ける。
「あ、律!一つだけ」
が、呼び止められて振り向く。
「君の喋り方って、どうしたの」
「うるさい。あいつと違って、喋るの、苦手」
今度こそ、走り出す。
太陽が沈み、ゆっくり、ゆっくりと夜が忍びよっていた。
中性的な見た目だけど名前からしても男なのだろう。多分。
「アルヴィ…めんどくさい、からアル。アル、何者。地球人じゃない、でしょ」
律が問いかけるとアルは目を見開き、すぐにニッと笑った。
「そう。君の言う通り僕は人間じゃない。どうしてそう思ったのか聞いてもいいかな?」
アルは何かを見逃すまいとするように律の顔をじっと見つめた。
「平たく言えば、直感。でもあえて、理由言うなら、音声言語、ほぼ一致している、けど訛り違う。じゃあ外国人かっていうと、目の色違う。それに、髪で隠してるけど、耳の形、変。なにより、夜翔に、似てる」
さっき戦ったときに目にしていたものを思い出して頑張って喋る。
黄色い目。尖った耳。
どちらもとても人間とは思えないものだ。
アルは今度は困ったように笑って言った。
「もっと違う言語使って外国人だと思わせればよかったなぁ…」
しかしアルが呟いた言葉に律は首を傾げてしまう。
「律、ほとんどの言語知ってるから、やるだけ無駄」
どうやらその言葉で追い討ちをかけたようでアルは項垂れる。
「君は本当に頭がいいんだね…。さっきも言ったけど僕は人間じゃない。この世界の概念で言うなら…一番近いのはカミサマかな。君に宿ってる夜翔のような精神体とはちょっと違う」
ふぅ、とため息をついたアル。
もしかして消しゴムのせいで喋りにくいのか。
そう思って消しゴムをもとに戻すと悪いね、と一言発して体を起こしてまた話しだした。
「僕の生まれ育ったところでは魔力ってものがある。そして今までに色々な生命体を見てきたけれども君達みたいに魔力がない生命体はいなかった。だからもし魔力を入れたらどうなるのか、ちょっと気になってね。全員ってわけにもいかなかったから選別して力を注ぎ込んでみた」
それが夜翔なの、と問いかけるとアルはせっかちだなぁとのんびりと笑う。
「こっちの世界では一般的な方法でね。魔力を持たずに生まれた者には魔力の器が必要だ。だからもう個体としては存在を保てなくなった、つまり生物としての命を全うした者を体内に取り込むんだ」
つまり、死んで魂だけになった奴等って認識でいいのか。
そしたら夜翔はこんな見た目でもアルより年上で先祖ってところだろうか。
「だいたい、飲み込めた。質問だけど、楓死んだの、拒絶反応?あとなんで、律、選別されたの。どんな選別」
二つの質問を並べるとアルは言いにくそうに顔をしかめた。
「んー…んんーっ…いいや、どうせ公表することだ。僕が初めて見つけた生存者だから特別に教えてあげる」
公表するなら聞かなくてもよかった、失敗した、と内心思いながらもアルの言葉に耳を傾けた。
「一つ目の問いはちゃんと説明するよ。精神体──鬼って言うんだけど、もちろん個体差がある。ちなみに君の鬼は上級中の上級。中には強い妖や君達によく似た弱い生命体と混じったような者もいるけどね。まぁ総称して鬼。そんなのが体に入り込んだわけだから、君の言う通り、拒絶反応が起きた。ちなみに強い鬼ほど拒絶反応は強いみたいだから夜翔が入った人間は死ぬと思っていたんたけど、外れたね」
夜翔って凄い鬼だったんだ。意外。
『失敬な』
声に出さなくとも会話が成立したことに驚いていると、アルが咳払いをしたのでハッとしてそちらを向く。
「…続けるよ。二つ目の選別方法ね。なんだと
思う?ちゃんと共通の理由があるよ」
楓との共通点。名字…は違う。律だけあんな化け物じみた名字を名乗らされていたのだから。
血筋…だとしたら国規模の必要はない。
あぁ、認めたくない。
本当はわかってる。
今日はなんの日か。
律が大嫌いな、あの日だ。
「…誕生日」
律は今、どんな顔をしているのだろうか。
律の心情など知るはずのないアルは不思議そうに首を傾げた。
「そう、正解。まぁ人数的に丁度よかったってだけの話だね。ちょっと嫌われそうな理由だと思うけど」
アルが申し訳なさそうに俯うつむくのを見て、そういう概念はあるんだなぁと考えながらやんわりと首を振ってみせた。
「律だけかもしれないけど、感謝、してる」
そして口角を吊り上げて見せる。
いかんせん、動かない表情筋だ。
きっと酷い顔だろう。
「あははっ君だけだよ、きっと」
アルは立ち上がり尻を叩きながら、
「律って言ったっけ。これからどうするの?」
と、尋ねた。
答えはもう決まっていた。
「南に、行く。星、探す」
「『えっ』」
アルの声と夜翔の声が重なる。
目を丸くするアル。
初耳なんだけど、と言う夜翔。
きっと二人の思考は全く別の方向を向いているが、やはりその仕草──夜翔はそんな気がするだけだが、が似ていると思った。
「ね、アル。アル、律に接触したの、本当は夜翔に会うため、じゃない?」
アルはさらに目を丸くしたが意味深に笑うだけだった。
「話せて、よかった。また、ね」
走ってみようか、どこまで跳べるのだろうか、色々試してみようと思いながらアルに背を向ける。
「あ、律!一つだけ」
が、呼び止められて振り向く。
「君の喋り方って、どうしたの」
「うるさい。あいつと違って、喋るの、苦手」
今度こそ、走り出す。
太陽が沈み、ゆっくり、ゆっくりと夜が忍びよっていた。
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