劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

魔族の気配



 目が覚めた。
 寝すぎて体が少し痛いと思いながら俺は棺桶のフタを開く。


 ベギャンッ!


 突如として鈍い音が響く。
 おそらく久しぶりに動かしたせいで棺桶のフタが壊れてしまったのだろう。

 無理もない。
 俺の《転生魔術》が成功しているのだとしたら、ここは200年先の未来となるわけだからな。

 色々な場所で老朽化が進んでいるのだろう。


「おおぉ……!」


 光の届く場所に出て、小さくなった手足を目の当たりした俺は思わず感嘆の息を漏らす。

 成功だ。

 俺の魂は無事に用意しておいた器の中に入っている。
 ちなみに転生先の肉体のモデルは、生前の俺の幼少期をイメージして作ったものである。

 本当はもう少し容姿を整えってやっても良かったのだが、なんだかんだ愛着のある以前の容姿を完全に捨てることはできなかった。

 どうせ200年先の未来なんて1人も知り合いが残っていないはずだから、以前の容姿に寄せてしまっても構わないだろう。


「えーっと。たしかこの辺に鏡を用意していたよな……」


 グルリと周囲を見渡してみるが、それらしいものは何もない。
 部屋の中に立てかけていたはずの姿鏡は、地震か何かによって倒れて、ガレキの下に埋もれてしまっているようだった。

 と、俺の思考は一端ここで中断した。


「魔族の気配、だな」


 耳を澄ます。洞窟内を反響する足音が聞こえた。

 足跡から判断するに性別は女。
 どうやら人間に擬態にしているみたいである。

 上手いな。
 俺以外の人間であれば、彼女の正体を見抜くことは難しいだろう。

 さて。
 これはまずいことになった。

 洞窟には誰も入れないよう、幾重にも結界を張り巡らせているはずだ。

 どうやって入ってきた? まさか200年の歳月を経て、棺桶だけじゃなく結界まで老朽化したか。

 前世の俺であれば問題なく倒せる相手ではあるのだが、今のこの子供の体では何処までやれるかは分からない。


 先制攻撃を仕掛けるチャンスは1度きり。


 この女が扉を開いた直後だ。
 今の俺に構築できる最大威力の魔術をぶち込んでやろう。

 首尾良く先手を打つことができれば、子供の体の俺でも優位に戦いを運ぶことができるに違いない。



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