異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

黒船襲来



 部屋の中に吹き込んだ爽やかな風がカーテンを揺らしている。

 昨夜、夜遅くまで2人の美少女たちの相手をしていたからだろう。
 悠斗が目を覚ました時には、既に時刻は夕暮れ時となっていた。


(んん……。なんだ……? この音……?)


 何やら窓の外が騒がしい。

 ボワァァァァァァァァ! という何処か懐かしい音がしたかというと、人々のどよめきの声がハッキリと聞こえてきた。

 この時、悠斗にとって知る由もないことであったが、正体不明のこの音は、異世界に召喚されてから悠斗が初めて聞くことになる『汽笛』の音であった。


「大変だ! 主君!」


 困惑する悠斗の前に表情を蒼白くしたシルフィアが駆け付ける。
 異変を受けて慌てて剣の修行を切り上げてきたシルフィアは、悠斗以上に動揺した様子を見せていた。


「なぁ。シルフィア……。この音って……」

「とにかく大変なのだ! 今すぐに私と一緒に来て欲しい!」


 詳しい事情は分からないが、何か只ならないことが起きているということだけは理解することができた。
 シルフィアに連れられた悠斗は、大急ぎでアパートを後にする。


 ~~~~~~~~~~~~


 シルフィアに案内された先は、先日デビルクラーケンを預けておいた漁港であった。
 普段は過疎化によって閑散としていたはずの漁港であるが、今日だけは異変を聞きつけたナルビアの街の住人たちでごった返していた。


(なんだよ……。これ……!?)


 野次馬たちの先に広がる光景を目の当たりにした悠斗は驚愕していた。
 そこにあったのは、エメラルドグリーンの海を埋め尽くすかのように泊められた黒塗りの巨大船の数々である。

 蒸気を原動力とした巨大船は、明らかに異世界トライワイドの技術によって作られたものではない。
 別の世界から召喚された何者かが作り上げた、オーバーテクノロジーの兵器であることが直ぐに分かった。


「信じられねえ。ここに泊まっている船たちが全てオレたちの援軍になるのかよ!」

「流石はリズベル様だ! これならロードランドの糞野郎どもに一泡吹かせてやれるに違いねえ!」


 興奮した野次馬たちの歓喜の声が次々に湧き上がる。

 ルーメル反乱軍のリーダー、リズベルが『援軍』を求めて、ナルビアの街を経ったのはほんの数日前のことである。

 
 ――今更ルーメルに味方をしてくれる国などあるはずがない。

 
 先の大戦により敗北を喫したナルビアの街を住人たちは、そんな予想を抱いていた。
 
 けれども、蓋を開けてみれば、集まったのが10万人を超えようかという大軍勢である。
 敗色濃厚なムードから一転して、反撃のチャンスを掴んだ住人たちは歓喜の渦に酔いしれていた。 

「お嬢さま! こちらです!」

 人ゴミの中に入っていたサクラが大きく手を振り、悠斗たちに存在をアピールする。
 
 先に異変に気付いたサクラは、野次馬たちの一部をカネで雇って、場所取りを行っていたのである。
 サクラの取っていた場所は、ナルビアの街に戻ってきた反乱軍のメンバーと最初に接触することができる、特等席と呼ぶに相応しいものであった。


 ガチャン!
 ガタガタガタガタ!


 悠斗が港に到着してから暫くすると黒塗りの船から鉄橋が下ろされる。
 黒船の中から姿を現した1人の女性の姿を目の当たりにして群衆たちの歓声は、一段と強まることになる。


「リズベル様だ! リズベル様が帰ってきたぞ!」

「ルーメルが生んだ大英雄の凱旋だぁぁぁ!」


 リズベル・ウッドロッド
 種族:ライカン
 職業:反乱軍総帥
 固有能力:魔力精製 人形遊び

 魔力精製 レア度@☆☆☆☆☆☆
(体内の魔力の回復速度を上昇させるスキル)

 人形遊び(マリオネット) レア度@☆☆☆☆☆
(他人の精神を操作する魔法の糸を紡ぎ出すスキル)


 反乱軍リーダーのリズベルは、170センチを超える長身を誇るライカンの女性である。
 卓越した剣の技術を誇るリズベルは、かつてルーゲンベルクの家を始めとした騎士の家系で指南役を務めていた。
 

「そんな……。あれが本当に先生だというのか……!?」
 

 久しぶりにリズベルと再会を果たしたシルフィアは驚愕していた。
 
 シルフィアの知っているリズベルは誰よりも厳格でいて、品行方正な騎士であった。
 何を隠そうシルフィアの生真面目な性格は、少なからずリズベルに影響されて形成せれたものだったのである。

 だがしかし。
 目の前を歩く女性にはかつての面影は何処にも残っていない。

 大きく肌を露出したドレスを身に纏ったリズベルは、男の目線を悪戯に集める痴女同然の姿をしていた。


「先生!」


 リズベルが豹変してしまったのには、何か隠された事情があるに違いない。
 シルフィアは人ゴミを掻き分けてリズベルの元に駆け寄っていく。


「誰だ! 貴様は!」

「おい! そこにいる小娘をつまみ出せ!」


 異変に気付いた取り巻きの兵士たちは、シルフィアの周囲を取り囲んで、リズベルを守るべくガードを固める。

 瞬間、シルフィアとリズベルの視線がぶつかった。
 付き合いの長い自分のためならば、取り巻きの兵士たちを下げてくれると思っていた。


「そんな……。こんなことって……」


 だがしかし。
 リズベルの取った行動はシルフィアの期待を大きく裏切るものであった。
 何を思ったのかリズベルは、まるで他人を見るかのように無関心に目線を反らしたのである。


「ダメだ……。このままだと大勢の人間が死んでしまう……」


 絶望に暮れたシルフィアは地面の上に力なく膝を突く。
 政府にとって幼少期の頃からリズベルと親しい仲であったシルフィアは、彼女を交渉のテーブルに引きずり出すための最後の希望とも呼べる存在であった。

 けれども、豹変したリズベルは、久しぶりに再会を果たしたシルフィアのことを歯牙にもかけない様子であった。


(いや。違うな。もしかしたらこの戦争……俺が止められるかもしれない……)


 周囲の人間たちが戦争を止めるのは不可能だと確信する中で、悠斗の考えだけは違っていた。
 おそらくこの異様な状況が『視えている』のは自分だけなのだろう。


 霊感 レア度@☆☆☆
(目では見えないものを感じ取る力)


 まさかこんなところで、デビルクラーケンから奪った《霊感》のスキルが役に立つとは思わなかった。


 人形使い 脅威LV ???
(固有スキル『拡散する人形遊び《マトリョーシカ・マリオネット》』によって生み出された幽体)


 船から降りてきた兵士たちの背後には奇妙な生物が取り憑いていた。
 もちろんそれはシルフィアの剣の師匠であるリズベルも例外ではない。

 謎の人形から伸びた糸は、兵士の行動を制御して、一挙手一投足すらも操作しているように見えた。

 もしも船の中にいる兵士たちが、全員何者かのスキルによって操られているのだとしたら?
 予想に反してルーメルが大量の援軍を獲得できたのにも筋が通ることになる。


(となると怪しいのは、船首にいるあの男……!)


 その時、悠斗が注目していたのは、港に泊まった黒船の先端部分から周囲を見下す1人の男の姿であった。


 グレゴリー・スキャナー
 種族:ヒューマ
 職業:反逆者
 固有能力:隷属契約 読心


 隷属契約@レア度 ☆☆☆
(手の甲に血液を垂らすことで対象を『奴隷』にする能力。奴隷になった者は、主人の命令に逆らうことが出来なくなる。契約を結んだ者同士は、互いの位置を把握することが可能になる)

 読心@レア度 ☆☆☆☆☆☆
(対象の心の状態を視覚で捉えることを可能にするスキル)


 どういうわけかその男の背後にだけは、人形使いが取り憑いているのを確認することができない。
 浅黒い褐色の肌に、黄金のジャケットを羽織ったその男は、否が応でも他人の視線を引き付けて止まない特別な雰囲気を醸し出しているように見えた。


「さぁ。楽しい宴の始まりだ」


 極太の葉巻煙草に火をつけた男は、口元を緩めて黄金色の歯を露にする。

 男の名前はグレゴリー・スキャナー。
 それぞれが物語の《主人公級》の力を持った《ナンバーズ》においてナンバー【08】の地位を与えられ、保有しているスキルの性質上、悠斗よりも早くに100人の奴隷ハーレムを達成した男である。


 拡散する人形遊び(マトリョーシカ・マリオネット)レア度@詳細不明
(他人の精神を操作する魔法の糸を紡ぎ出すスキル。この能力は他人に付与することができる)


 異世界に召喚された際にグレゴリーが得た能力は、《拡散する人形遊び(マトリョーシカ・マリオネット)》。
 この世界に2つとない、他人にスキルを付与することのできるスキルだった。

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