異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

VS マシュマロボール



 ラッセンに勧められて悠斗たちが向かった先は、エクスペインの街から徒歩で4時間ほどの距離の場所にある『ローナス平原』と呼ばれるエリアであった。

 以前に悠斗が『ホワイトバード』、『ワイルドベアー』と言った食肉となる魔物を討伐した経験あるこのエリアは豊かな緑に囲まれた見晴らしの良い場所である。

 体に当たる風が気持ち良い。
 悠斗は後部座席にシルフィア、サイドカーにスピカを乗せながらもエアバイクを走らせていた。


「あの、ラッセンさん。本当にこんなところで狩りをして大丈夫なんでしょうか?」


 現在、ギルドが『安全エリア』として定めている場所はラグール山脈(初級)とオルレアンの森林(初級)のみである。

 中には当然のことながらローナス平原は含まれていない。


「ふふふ。キミは変なところで根が真面目なのだな」


 並走してバイクを走らせるラッセンは僅かに口元を綻ばせる。


「ところでキミは一体誰が『安全エリア』・『危険エリア』の判断をしていると思っているのだ?」

「そりゃ、ギルドの人が調べているんじゃないでしょうか」

「……残念ながらそれは違う。高給取りのギルドがいちいち調査に向かっていては、一瞬で国が破産してしまうよ」

「えーっと……。じゃあ、一体誰が……」

「私が調べているんだよ。正確には私を含めたギルド公認調査員、ということになるのだけどね」

「あっ……」


 そこまで言われたところでピンときた。
 思い返してみると、最初に出会った頃からそうであった。

 悠斗がラッセンの出会ったのは、ローナス平原にダンジョンが出現した直後である。

 当時のラッセンは、ローナス平原に出現したダンジョンを調べる『調査員』としてギルドから派遣されていたのであった。


「いいかい? キミは調査員である私の仕事の手伝いをしている。そのついでに邪魔なモンスターを討伐することは、別にギルドの規約に違反していることにならないだろう?」


 屁理屈ではあるが、一応の筋は通っている。
 ラッセンの言葉を受けた悠斗は素直に感心するのだった。


 ~~~~~~~~~~


「着いたぞ。私のオススメする穴場の狩りスポットはこの辺にある」


 ラッセンがバイクを停めた場所は、ローナス平原の湖傍にある長閑な花畑のエリアだった。


「見てごらん。大量にいる」


 ラッセンの指さす方向に視線を向けてみる。


 マシュマロボール 脅威LV5


 するとどうだろう。
 花畑には体長20センチほどの球体の形をしたモンスターが元気良く地面を跳ねまわっていた。


「見たことのないモンスターですね。前にローナス平原に来た時はあんな奴いませんでした」

「ふふ。それもそうだろう。マシュマロボールは1年の内にほんの10日ほどしか出現しない季節限定のレアモンスターだからね」

「マ、マシュマロボールですか!?」


 ラッセンの言葉を受けて、その場にいた誰よりも驚いていたのはスピカであった。


「スピカ、知っているのか?」

「はいっ。マシュマロボールから取れる『天使の綿毛』は有名ですよ! 天使の綿毛で作ったベッドは寝心地抜群で、宿屋業界で働く人間にとっては半ば伝説的な存在となっています!」


 天使の綿毛で作られた寝具は、滅多なことで一般市場に出回ることがない。
 それというのも季節限定モンスターであるマシュマロボールから安定した量の天使の綿毛を採取するのが不可能だからである。

 その寝心地を体験できるのは国を牛耳る王族に限定されるとすら言われており、一般庶民にとっては遥かに遠い存在であった。


「そうか……。あのボールから取れる綿毛がそんなに凄いアイテムなのか……」


 これは俄然モチベーションが上がってきた。
 寝心地抜群の『ふわふわのベッド』を作れば、女の子たちと円満な夜の関係を築くのに役立ってくれるだろう。


「ラッセンさん。さっそく倒しに行っていいですか?」

「ああ。例年通りであれば血で血を洗う争奪戦になるのだが、生憎と今回は参加者は私だけのようだ。これはラッキーだったな」


 もしかしてこれは職権乱用になるのでは? という疑問が沸かないわけでもなかったが、今日のところは気にしないでおくとしよう。

 悠斗の頭の中は既に天使の綿毛で作った『ふかふかのベッド』のことで一杯になっていた。


「よっしゃ。行くぜー!」

「キシャー!」


 悠斗の存在に気付いたマシュマルボールは大きく口を開けて威嚇を始める。

 メルヘンチックな名前に反して、マシュマロボールの気性は荒かった。
 小さな体を一杯に活かしたマシュマロボールのタックルが悠斗を襲う。


「よし。まずは1匹目」


 だがしかし。
 悠斗は何事もなかったかのようにマシュマルボールを仕留めると、バッグの中に獲物を仕舞って見せた。


「なっ。もしや……今の一瞬で……!?」


 ラッセンは戦慄していた。


 魔法のバッグ(改)@レア度 ☆☆☆☆☆☆
(アイテムを自由に出し入れできる便利な高性能のバッグ。制限容量は4000キロまで)


 悠斗の保有する魔法のバッグ(改)は非常に高い汎用性を誇る反面、『生きているもの』を入れることが出来ないという欠点があった。

 つまり悠斗はその場にいた誰にも気付かれることなく、マシュマルボールを瞬殺してしまったのである。


(よし。良い感じだな)


 その秘密は悠斗の持つ桁外れの『指の力』にあった。

 全ての格闘技の長所を相乗させることをコンセプトとした《近衛流體術》を習得した悠斗は、《ロッククライミング》についても国内トップクラスの実力を誇っていた。

 その気になれば小指1本で全身を支えるほどのパワーを持った悠斗は、マシュマルボールを捕まえるタイミングで体内に指を差し込んでいたのである。


 ピョンピョンッ。
 ピョンピョンッピョンッ。


 絶望的な戦力差を悟ったマシュマルボールは大きく地面を跳ねて戦線離脱を試みる。


「――逃がすかよ」


 全ての格闘技の長所を相乗させることをコンセプトとした《近衛流體術》を習得した悠斗は、《バレー》についてもオリンピックのメダリスト級の実力を誇っていた。
 その中でも悠斗が最も得意としていたのは、持前の運動神経をフルに活かしたスパイクである。


「アタァァァァックッ!」

「ぷきゃっー!」


 風を切るようにしてスパン! と気持ちの良い音が鳴る。

 渾身のスパイク攻撃を受けたマシュマルボールは、そのまま体を地面にめり込ませたままピクリとも動かなくなった。


 悠斗はそこでステータスを確認する。


 近衛悠斗
 固有能力: 能力略奪 隷属契約 魔眼 透過 警鐘 成長促進 魔力精製 魂創造 魔力圧縮 影縫
 魔法  : 火魔法 LV4(12/40) 水魔法 LV6(10/60)
       風魔法 LV5(15/50)  聖魔法 LV6(37/60)
       呪魔法 LV6(6/60)
 特性  : 火耐性 LV6(9/60) 水耐性 LV3(0/30)
       風耐性 LV7(56/70)


 風魔法のステータスが2ポイント上がっていた。
 どうやらマシュマロボールから奪えるスキルは風魔法プラス1らしい。


「流石はご主人さまです! いつも通りの、もの凄い攻撃でした!」

「恐れ入ったぞ。主君のジャンプ力はまるで猫科の肉食獣のようであった!」

「いやー。それほどでも」


 大したモンスターを倒したわけでもないので、必要以上に持ち上げられると居心地が悪い。
 獲得できるアイテムこそ魅力的ではあるが、戦闘を楽しむという意味でマシュマロボールは物足りない相手だった。


「あ。そうだ。今日の相手はスピカが戦うにはちょうどいいんじゃないか?」


 悠斗は知っていた。
 ここ最近、スピカは毎日欠かさず屋敷の庭で剣の稽古に励んでいたのである。

 最低限自分の身は自分で守れるように――という目標で始めた剣の技術はメキメキと上達を見せており、今となっては何処に出しても恥ずかしくないレベルになっていた。


「わ、私……ですか……?」


 唐突に話を振られたスピカは困惑した表情を浮かべる。


「ああ。せっかくだから今日は誰が1番マシュマロボールを捕まえられるか競争しよう」


 能力略奪の効果が仲間が倒したモンスターにまで及ぶことは、過去の検証によって実証済みである。

 今回のように敵モンスターの脅威LVが低い場合は、それぞれ別々に戦った方がスキルアップの観点からは効率が良さそうだった。

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コメント

  • ノベルバユーザー231017

    悠斗って世界やら国内やらでトップクラス取りすぎだろ…

    0
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