異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

エアバイク



「主君。その乗り物は一体?」

「ふむ。それについては今から説明をしようと思う」

 屋敷に戻った悠斗は、ます最初にエアバイクの試乗を行うことにした。

 こういう時は、庭が広くて本当に良かった。
 この庭の中でなら人目を気にすることなく、存分にエアバイクを試運転することが出来るだろう。

 悠斗はバイクの運転席につくとアドルフに教わった手順通りに、鍵を入れて、レバーを上げる。

「……ッ!?」

 瞬間。
 エアバイクの高度が徐々に上がって行くのが分かった。

(自分の目で見るまでは俄かに信じられなかったが……これは便利だな……)

 地面から既に10メートル以上は離れているだろう。
 この高度ならば通行人との衝突や、地上にいる魔物たちとのエンカウントを避けることができるに違いない。

「凄いです! ご主人さまが、もうあんなに遠くに!」

「恐れ入ったぞ! 主君はについに空を飛ぶことすら可能としたのか!」

 地上ではスピカとシルフィアが何やら興奮気味に叫んでいるようであったが、動力源である風の音が強くて悠斗はその言葉を聞き取ることが出来なかった。

「そういうわけでこれから討伐クエストに行くときは、エアバイクを活用していこうと思う。準備が出来たら、スピカはサイドカーに。シルフィアは俺の後ろに乗ってくれ」

 レバーを下げて、バイクを着地させた悠斗は二人に対して指示をする。
 悠斗の言葉を受けた二人は、指定の位置に付き、バイクを浮き上がるのを待った。

「す、凄い! これは凄いぞ! 主君! 私は今、空を飛んでいるのか!?」

 バイクが高度を上げて行くと、シルフィアは興奮気味に声を上げる。

 体のバランスを保つためにシルフィアの両腕は、自然と悠斗の背中に回る。

 異変が起きたのは、その直後であった。

 ポヨヨン、と。
 シルフィアの豊満すぎる胸が、その形を変えながらも悠斗の体と密着した。

 このとき。
 悠斗の表情がだらしなく緩んだものになるのをスピカは見逃さなかった。


「……あの、ご主人さま。1つ質問をしても良いでしょうか?」


 サイドカーに座るスピカは、表情に影を落としながらも声を上げる。

「ああ。なんだよ。スピカ」

「今回の配置に対して、なんと言いますか……拭いようのない悪意を感じるのですが、私の思い過ごしでしょうか?」

「……悪いな。スピカ。これは適材適所というやつだ」

 悠斗は何処か憐憫を含んだ眼差しで、スピカの頭にポンと手を乗せる。

(……な、なんですか!? 結局、男の人は胸ですか!?)

 シルフィアの胸に骨抜きにされた主人の様子を目の当たりにして、スピカは唇を強く噛みしめるのであった。


 ~~~~~~~~~~~~


 結論から言うと、エアバイクの購入は大成功だった。

 体感にして時速は40キロくらいは出ているだろうか。

 思ったよりもスピードは出ていないような気がするが、現代日本と違い悪路の多いトライワイドにおいては空を飛んで移動できるというメリットが大きい。

 これならば目的地までの時間を大幅に短縮していくことができるだろう。

 風を動力源に走るエアバイクの速度と燃費は、乗せている人間たちの重量により大きく変化をする。

 悠斗の購入したエアバイクもサイドカーを取り除いて1人で乗れば、倍近いスピードが出るらしい。


(……パーティーを組んで遠征に行くなら馬車を使う方が利点が多いというわけか)


 魔法のバッグなどの便利アイテムを持たない人間が遠征をする際には、手荷物だけで、かなりの重量となってしまう。

 荷物の輸送などには、馬車が未だに使われ続けているのには、エアバイクのそういった特性が起因していた。

「ご主人さま! この乗り物に乗っていると、なんだか凄く気持ちが良いですね」

「ああ。そうだな」

 速度は大したことがなくても全身に風を受けながら空を飛ぶエアバイクは、乗車時の爽快感が強い。

「欲を言うともう少しスピードがあれば良かったんだけどな……」

 独り言のように呟いたその直後。
 悠斗の脳裏に1つのアイデアが浮かぶ。

(……待てよ。動力源が風ということは、俺の魔法でもバイクを動かすことができるんじゃないか?)

 魔法というものは、自分のイメージによって様々な応用が効く。

 そのことは《触手魔法》を始めとした、これまでの魔法の訓練で身に染みて理解していた。

 現在の動力源は、エアバイクの中に嵌め込んだ《高純度の魔石》のみになるが、ここに魔法を加えることによって、スピードを増すことが出来るのではないだろうか?

 そう判断した悠斗は、試しに魔石の中に流し込むようなイメージでウィンドの魔法を使用する。

 すると、その直後。
 エアバイクは爆発的に加速した。

「びえっ! びえええええっ!?」

「主君!? これは一体どういうことだ!? 急にバイクのスピードが跳ね上がったぞ!?」

 魔石に風魔法を流し込んだことが功を奏したのだろう。
 エアバイクは凄まじい風音を立てながらも、加速を続けて行く。

 正確な数値を測定することは出来ないが、使用前の倍近くの速度は出ているのではないかだろうか。

「シルフィア! スピカ! しっかりと掴まっていろよ! 特にシルフィアは俺の背中にしっかり掴まっていろよ!」

 魔法による加速を試して正解であった。

 これならば風魔法の訓練を続けることで、課題であったエアバイクの移動スピードをどんどん上げて行くことができるだろう。 

 魔法の検証作業に手応えを掴んだ悠斗は、そのまま一直線にローナス平原を目指すのであった。




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