召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜
第19話 精霊の宿る石
ギルドに到着すると、すぐにミリアが出迎えてくれた。
「トーヤさん、お待ちしておりました。ご案内いたしますね」
ミリアの後を歩き、個室の前で立ち止まる。ノックをして部屋の中から許可が出ると扉を開けた。
部屋の中ではエブランドが一人席に座っている。
俺たちはその対面に座った。
「呼び出してすまんな」
「いえいえ。これくらいでしたら」
「それよりも本題だ。昨日、あの鎧の件は話しただろう。そして、皇族ではないにしろ、ルネット帝国から来た者を引き渡すように圧力を掛けてきた。引き渡しを出せないようならば――強行手段も辞さないとな……。その二人がそうか」
エブランドの言葉に、シャルとアルの表情に緊張が走る。
「昨日も言ったはずだ。二人は引き渡すつもりはないと」
俺の言葉にエブランドは笑みを浮かべる。
「……トーヤならそう言うと思った。――まだ内密な話だが、領主とうちのギルドマスターが兵を出して二人を捕らえるつもりでいる。その事を伝えたくてな……」
「――いいのか? そんな内情をぶちまけて」
「ここの領主も、ギルドマスターも良くも悪くも平凡だ。いい街ではあるが、他国から圧力がかかれば、今の平和を保つ為に、平気でお前らを差し出すだろう。お前には色々な意味で楽しませてもらったからな。それに、敵対した時にどうなるかは大体想像つく。出来ればうちのギルドメンバーを傷つけたくないからな」
「……それが本音か」
「まぁそうとって貰っても構わん。まだジェネレート王国からの使者はこの街にいるはずだ。見つからんようにな。話はそれだけだ」
俺は頷くと、エブランドに右手を差し出す。
「色々とありがとう。感謝するよ」
エブランドは俺の言葉に笑みを浮かべ、右手をガッチリと握手する。
ギルドを後にした俺たちは、屋敷に向かった。
「あのエブラント様はお優しいのですね……」
「あぁ、世話になったからな。あそこまで教えてくれるとは思っていなかったよ」
「それよりも、この街を出る用意をしないといけませんね」
話しながら屋敷へと戻り、今後の対策を考える。
この街を出るのは構わない。しかし……。
俺は部屋の隅で立っているフェリスに視線を送る。
フェリスは家精霊だ。家に住み着いているから移動は出来ない。
――ここに置いていくしか……。
結論は出したくない。それが俺の本音だ。
答えが出ない、いや、出したくない悩みを考えているうちに日は傾いてきた。
「ただいまなのじゃー!」
店を閉めたナタリーも帰ってきた。
帰ってきて早々にソファーに座り寛いでいる
お前、その前に居候のくせして随分くつろぎやがって……。
ナタリーを眺めながら、そんな事を思う。
「なぁ、ナタリー。家精霊って移動出来ないのか? 引っ越しとかした時に、家精霊を連れていく事って……」
無理だとわかっていながらもナタリーに尋ねると、キョトンとした顔で首を傾げる。
「何言っておる。移動できるぞ。ただし、条件があるがな……。そんな事、常識じゃろ?」
「本当かっ!? どうすればいいんだっ!?」
俺は立ち上がり、ナタリーの両肩を掴む。
「トーヤ、痛いぞっ! わしよりもシャルの方が知っているのじゃ。シャル、説明してやれ」
ナタリーの言葉にシャルは頷く。
「トーヤ様、家精霊の移動には、精霊の結晶石という物を使うのです。極、希に採れることがあり、ルネット帝国でも保管していたのは二つ。国宝になっております。家精霊の移動の時は、国から貴族に貸し出し、厳重に警備をつけて移動させているのです」
「――――国宝だと。三人は持っていたりするのか……?」
俺の問いに申し訳なさそうに全員が首を横に振る。
「……そうか……」
落ち込む俺にナタリーが思い出したかのように問いかける。
「トーヤ、お主は色々と驚く物を持っておるじゃろ? こんな時にババーンと何か出てくるのではないかのぉ?」
……うん? 精霊関係? もしかしてっ!?
俺は脳裏に次元収納の中身を浮かべ探していく。
「…………あった」
俺は次元収納から一つのネックレスを取り出す。
ネックレスの名前は“精霊石のネックレス”。ゲームで精霊の森にあるダンジョンに入る為に必要なアイテムだ。
これがないとダンジョンに入ることは出来ない。ただ、入る為だけのアイテム。
ミスリルのチェーンに、蒼く光る石がミスリルで装飾され付いている。
「フェリス。このネックレスに宿る事は出来るか?」
俺の言葉に、フェリスはネックレスをじっと見つめる。
「――トーヤが身につければ、大丈夫かも……?」
その言葉にさっそく首から精霊石のネックレスをぶら下げる。
フェリスはそのネックレスの石に近づき、触れるとそのまま吸い込まれていった。
そしてすぐにフェリスはまた姿を現わす。
「うん、大丈夫。その石の中、トーヤの魔力が感じられて居心地がいい」
フェリスの言葉を聞いて、俺は嬉しさのあまり思わずナタリーを抱きしめたまま持ち上げた。
「ナタリーよくやった!!」
「な、な、何をするのじゃーー!?」
顔を真っ赤にしながらアワアワするナタリーの声がリビングに響き渡った。
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