召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜

夜州

第6話 予想外の結末

 
 俺は全身に魔力を纏わせ強化し、一気に斬りかかる。
 最初の一人を横薙ぎに斬りつけると、強化したせいか、兵士の身体は上下に分かれて倒れていく。

「くそっ、本気でかかれ!」

 一人殺られたことで兵士たちの表情は引き締まる。

 ……余裕かましてくれたほうが助かるんだが……。
 俺は斬りかかる剣を弾き返し、そのまま縦に上から斬りかかる。そして次の相手に視線を送る。
 もう一人斬り倒し、また身構える。

「……あと七人……」

「くそっ、お前ら同時に斬りかかれ!」
「「「おうっ!!」」」

 三人が同時に斬りかかるのを、一人は躱し、一人は剣で受け止め、もう一人は左手で相手の手首を掴み取る。
 手首を掴んだ兵士を蹴り飛ばし、剣を弾いた相手を斬りつけ、そのままもう一人も横薙ぎに斬りつける。

「そこまでだっ!!」

 後ろから掛かる声に視線を送ると、アルが剣を弾かれ、首元に剣を突きつけられていた。

「この女たちがどうなってもいいのか?」

 ニヤリと笑う兵士に、アルは叫ぶ。

「私の事はいいっ! 今なら逃げられる! 逃げるんだ!」

 ……どうしたらいい。全員相手にしても勝てる自信はある。しかし――。
 俺は一つの結論を出す。

 両手剣を地面に刺し、手放し両手を上げた。

「これでいいだろう……その剣を離せ」

 俺の行動にアルとシャルの二人は泣きそうな目をし、俺のことを見つめた。

「フフフっ、それでいい。知らない女でも目の前で殺されるのが嫌か? とんだ甘ちゃんだな」

 兵士がアルの首元から剣を下ろす。
 ――――そのタイミングを待っていた。

空気弾エアバレット

 俺の手から放たれた魔法は、先程まで剣を突きつけていた兵士の顔へと直撃し、そのまま首から上が弾け飛んだ。

「何っ!? 魔法だとっ!?」

 驚く兵士たちに、地面に刺した剣を引き抜き斬りかかる。

 数分もせずに勝負はついた。
 俺の周りには兵士だった死骸が転がっていた。

 ……初めて、初めて人を殺した……。
 ゲームとは初めての対人戦、そして何の感覚もなしに相手を殺した。
 その想いが自分の胸を締め付ける。

 そして――吐いた。

「オエッ……ゲッホゲッホ……」

 俺が四つん這いになり吐いていると、背中に感触があった。

「……私たちのために……ありがとうございます……」

 その言葉に顔を上げると、涙を流したまま優しい笑みを浮かべた――シャルの顔があった。
 嘔吐感がなくなるまで、ずっとシャルが背中を撫でてくれた。

「ありがとう。もう落ち着いたよ」

 俺は立ち上がり、周りを見渡す。
 そこに転がる死体を見下ろし、大きなため息をつく。

 ……もう後戻り出来ないな。
 神さま、なんでこの世界にきたのか教えてくれよ。
 ラノベとかだったら、違う世界に送る時に「神です」とか言って現れて理由とか教えてくれるんじゃないのか。
 そう思いながら、俺はこの後の事を考えるが、考えても仕方ないとすぐに結論は出た。

「まずはこの兵士たちの死体だよな……」

 自分じゃ判断はつかない。ギルドに丸投げするしかないか……。

 俺は兵士の死体を片っ端から次元収納ストレージに仕舞っていく。
 せっかく着替えたばかりのローブは兵士たちとの戦いでまた返り血で染まっていた。
 もう一つ新しいローブを取り抱いて羽織った。

「――それで、サランディール王国の街まで案内すればいいんだよな? ここまで巻き込まれたんだ。案内するよ」

 俺が笑みを浮かべ答えると、シャルは満面の笑みを浮かべた。

「はいっ! ありがとうございます。これでナタリー様を探すことができます」

 ……え?
 ……ナタリー……?
 ……もしかして……。

「――ナタリーって……ちっこいロリっ子のナタリー……か? 自分の事を『黄昏の賢者』とか言ってる……」
「ナタリー様をご存知でっ!? そうです。もう十年会っていませんが、あの頃は小さかった……です」

 俺は思わず天を見上げる。
 面倒な事に巻き込まれる気がしてならない。なんせ、相手はあのナタリーロリっこだ。

「あぁ、知ってる。俺が住んでいる街にいるよ。魔道具屋を開いている」

 その言葉に希望を見出したのかシャルは笑みを浮かべる。

「――本当に、この奇跡的な出会いを女神ティルタリア様に感謝します」

 シャルは両手を組み、目を瞑り感謝の言葉を続ける。
 “ティルタリア”それがこの世界の神なのか。
 そういえば余裕なかったから教会すら行ってなかったな。街に戻ったら一回くらい行ってみるか。

 あれ……? そういえば、アルがずっと静かだ。
 俺がアルに視線を送ると、なぜかアルは目を潤ませ、頬を紅く染めている。

 ――そしてアルは照れたように口を開いた。

「トーヤ様……つがいは誰かいらっしゃいますでしょうか」

 予想外の言葉に俺は唖然とするしかなかった。

 
 

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