偽りの涙

木市 憂人

一歩

夜は明けた。
今日が予約日らしい。
母にはもう言った。「あんた、大丈夫なの?命に影響は?」
結構聞いてきた。取り敢えずは行って見ないとわからない、とだけ伝えた。
新明医療センター、ここから電車で行く距離。
 1駅、2駅といったところか。
12時からだからまだいい。まだ時計は9時を指していて、カレンダーは2月30日とある。
そういえば学校での卒業式の練習も数を重ねて形になりつつあった。いいのに。形になんてならなくても。
ああ。もう少しで春が来る。…来るな。
別に、春は悪くない。友達と別れたくない訳じゃない。すると美桜は無意識にはぁ………と溜息を吐いていた。
 
『まもなくー電車、発車いたし-』
ハァ、ハァと息を切らして改札を抜ける。
閉まる-時に一気にとびこんだ。
足が少し引っかかって顔をしかめた。
…………………ギリギリセーフ。
あと2駅。

電車のアナウンスが入った。
次で降りる。
到着してドアが開くと沢山の人が降りて、それに流された。
すごい人が多い。電車の中ではスマホをいじっていたからきづかなかった。
美桜の街はド田舎という程でもないが都会でもない。2駅違っただけでこれだけ変わるのか。別に、ここに来たのは初めてじゃないけど。改めて思っただけ。

改札を出てしばらく歩く。すると大きな病院が見えてきた。それにしても日差しが強い。でも暑くはない。少し吹く風は冷たい。
病棟には大きく「新明医療センター」とある。
大きかった、広かった。中に入って、眼科の部屋へと誘導された。
中は広くて明るくて。人も多い。
最新の設備を誇るこの病院にはきっと高い技術を持った人が多いんだろう。
問診票をかいて、部屋の外。ドアの側の椅子に座って少し待った。
すると出てきたのは患者らしき人。親子だった。聞こえたのは、「さすがねぇ。天才と言われるだけあるわね。見るだけでわかるんだもんねぇ。」
"天才の医者 "  "若くして院長"
ニュースかなんかでも報道されてた。
そんな言葉を聞いたことがあったような。とにかく優秀なんだとか。
この子供がどんな病気を患っているのか知らないが、多分治療したら良くなる。だってあの表情だもの。
………………………あ。
何かに気づいた。

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