天下界の無信仰者(イレギュラー)
ボクは、神愛君を信じてる
天界紛争。あの戦争を戦い抜き終わらせた、紛うことなき英雄だ。
その実力を、積み上げてきた実績を二人は知っている。
恵瑠は過去を振り返った。色あせることない思い出が彼の強さを教えてくれる。
「ミカエルは強い。なにより心が。彼は諦めない。その強さは、昔からずっとそうだった。どんな困難にも屈しない。認めたくないけど、そこは尊敬してる」
二千年前。当時の天羽長とともに理想を実現しようとしていた頃から彼のことは知っている。誰よりも純粋で、なにより真っすぐだった。その信念。その情熱。比肩する者などいやしない。
「天羽長補佐官だった頃から、それは変わらない」
恵瑠は空を見上げながら断言した。思い出の彼と今の彼では変わってしまったが、それでも変わらないものがある。その不変の情熱は認めるしかない。理想を追い求め続けること、夢を見続けること、その辛さを知っているから。
ミカエルは、誰よりも強い。
「あいつはな、今でも忘れていないんだよ」
「?」
「約束さ」
ガブリエルは珍しく優しい声色でそう言った。見てみれば表情も少しだけ柔らかかった。
「人類を平和に導き、地上を笑顔で満たすこと」
「それは……」
「そう、お前と同じだ。同じ理想をあいつも持っているんだ。手段は強引だったがな。だがそれも理由がある」
ガブリエルは知っている。ミカエルが戦う目的を。その動機を。だからこそ憎めない。
理解できてしまうのだ。彼の気持ちが。
「魔王戦争」
「!?」
その言葉に恵瑠の体がわずかに跳ねた。愛らしい青い瞳が恐怖をありありと映している。ガブリエルでさえこの言葉を口にする時表情を険しくさせていた。
「あれで人類は一度滅びかけた。それでいよいよミカエルも我慢できなくなったのだろうな。かつての盟友と結んだ約束。それを守っている場合ではない」
魔王戦争。天界紛争に比べれば最近と言っても差し支えのない、近代において起きた戦争だ。経験者も存命している。記憶に新しい戦いだ。
それは、最凶最悪の戦争だった。
恵瑠は沈痛な面持ちで目線を下げる。
「魔王戦争……。あれは、絶望しかなかった。本当に、信仰者が絶滅するところだった」
「我々は生き残ったが、むしろよく生き延びたものだ」
魔王戦争がもたらした爪痕、消えることのない恐怖に似た存在感が二人の心から滲みだす。
「このままでは、いつしか守るべき人類が滅びてしまう。あいつはあれで責任感が強い男だ。もう、見守っている段階ではない。早くしなければ今度こそ人類は姿を消す」
「それで」
恵瑠は納得した。封じられていた天界の門をなぜ開けたのか。はじめは単に使命感とエゴ。またかつての約束を守るため。そう思っていたが、それだけではなかった。
時間がないのだ。このまま放置していれば第二の魔王戦争が起きてしまうかもしれない。そうなってしまえばすべては無為と化す。人類がいなくなってからでは遅い。
やるならば、早いほうがいい。
そのためにミカエルは決断し、行動に移したのだ。
二千年前の使命と名誉。友との約束。
それらを果たすために。
「遂げろよ、ミカエル。もう、これで最後だぞ」
ガブリエルはささやく口調で声援を送る。天羽による人類管理の機会は今回限りだ。もしこれを失敗すれば次はない。
実現するのならば今だ。同時に今しかない。
ミカエルの立場を恵瑠も理解する。同じ天羽として共感する部分も多い。
「そうかもしれない。でも」
けれど、恵瑠は違う道を見つめていた。神による完全な秩序。それによって地上は平和になるかもしれない。それが最も確実で最善の方法なのかもしれない。
だけど、最高ではない。
自分たちの望む最高の未来を選択するために。
恵瑠は目つきを力強くさせ、頭上に広がる青空を見上げた。
「ボクは、神愛君を信じてる」
この遥か彼方の先で今後の未来を決める戦いが始まっている。そこに想いを寄せて、恵瑠は見つめ続けていた。
宮司神愛。彼の無事を祈りながら。
その実力を、積み上げてきた実績を二人は知っている。
恵瑠は過去を振り返った。色あせることない思い出が彼の強さを教えてくれる。
「ミカエルは強い。なにより心が。彼は諦めない。その強さは、昔からずっとそうだった。どんな困難にも屈しない。認めたくないけど、そこは尊敬してる」
二千年前。当時の天羽長とともに理想を実現しようとしていた頃から彼のことは知っている。誰よりも純粋で、なにより真っすぐだった。その信念。その情熱。比肩する者などいやしない。
「天羽長補佐官だった頃から、それは変わらない」
恵瑠は空を見上げながら断言した。思い出の彼と今の彼では変わってしまったが、それでも変わらないものがある。その不変の情熱は認めるしかない。理想を追い求め続けること、夢を見続けること、その辛さを知っているから。
ミカエルは、誰よりも強い。
「あいつはな、今でも忘れていないんだよ」
「?」
「約束さ」
ガブリエルは珍しく優しい声色でそう言った。見てみれば表情も少しだけ柔らかかった。
「人類を平和に導き、地上を笑顔で満たすこと」
「それは……」
「そう、お前と同じだ。同じ理想をあいつも持っているんだ。手段は強引だったがな。だがそれも理由がある」
ガブリエルは知っている。ミカエルが戦う目的を。その動機を。だからこそ憎めない。
理解できてしまうのだ。彼の気持ちが。
「魔王戦争」
「!?」
その言葉に恵瑠の体がわずかに跳ねた。愛らしい青い瞳が恐怖をありありと映している。ガブリエルでさえこの言葉を口にする時表情を険しくさせていた。
「あれで人類は一度滅びかけた。それでいよいよミカエルも我慢できなくなったのだろうな。かつての盟友と結んだ約束。それを守っている場合ではない」
魔王戦争。天界紛争に比べれば最近と言っても差し支えのない、近代において起きた戦争だ。経験者も存命している。記憶に新しい戦いだ。
それは、最凶最悪の戦争だった。
恵瑠は沈痛な面持ちで目線を下げる。
「魔王戦争……。あれは、絶望しかなかった。本当に、信仰者が絶滅するところだった」
「我々は生き残ったが、むしろよく生き延びたものだ」
魔王戦争がもたらした爪痕、消えることのない恐怖に似た存在感が二人の心から滲みだす。
「このままでは、いつしか守るべき人類が滅びてしまう。あいつはあれで責任感が強い男だ。もう、見守っている段階ではない。早くしなければ今度こそ人類は姿を消す」
「それで」
恵瑠は納得した。封じられていた天界の門をなぜ開けたのか。はじめは単に使命感とエゴ。またかつての約束を守るため。そう思っていたが、それだけではなかった。
時間がないのだ。このまま放置していれば第二の魔王戦争が起きてしまうかもしれない。そうなってしまえばすべては無為と化す。人類がいなくなってからでは遅い。
やるならば、早いほうがいい。
そのためにミカエルは決断し、行動に移したのだ。
二千年前の使命と名誉。友との約束。
それらを果たすために。
「遂げろよ、ミカエル。もう、これで最後だぞ」
ガブリエルはささやく口調で声援を送る。天羽による人類管理の機会は今回限りだ。もしこれを失敗すれば次はない。
実現するのならば今だ。同時に今しかない。
ミカエルの立場を恵瑠も理解する。同じ天羽として共感する部分も多い。
「そうかもしれない。でも」
けれど、恵瑠は違う道を見つめていた。神による完全な秩序。それによって地上は平和になるかもしれない。それが最も確実で最善の方法なのかもしれない。
だけど、最高ではない。
自分たちの望む最高の未来を選択するために。
恵瑠は目つきを力強くさせ、頭上に広がる青空を見上げた。
「ボクは、神愛君を信じてる」
この遥か彼方の先で今後の未来を決める戦いが始まっている。そこに想いを寄せて、恵瑠は見つめ続けていた。
宮司神愛。彼の無事を祈りながら。
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