天下界の無信仰者(イレギュラー)
決戦の地へ来たのだ、この争いを終わらせるために
「各自戦闘配置に付け!」
アモンが振り返り指示を飛ばした。王宮の衛兵を残しみなはここから出て行く。そんな彼らをアモンは見送った。
いい表情だ、臆している者はいない。最後の一人が出て行くまで扉を見つめていた。その後ルシファーに振り返る。
「兄貴、あんたはここに残っていてくれ」
アモンが言った。
「やつらの狙いは兄貴をここから引きずり出すことだ。なにを仕掛けてくるか分からないが、連中は兄貴を倒す手段を用意しているはず」
「俺に黙って見ていろと?」
「あんたは俺たち最後の希望なんだ」
アモンの力強い目が、次第に悲観的な憂いを帯びていく。
これから先堕天羽軍は苦戦を強いられるだろう。さきほどまでいた大勢の兵士たちも、いったい何人が生き残れるのか。
「俺たちの誰かは死ぬだろう。だけど兄貴が生きていれば俺たちの勝ちだ。反対に、兄貴が死んだら俺たちがどれだけ生き残っていようが負けなのさ」
アモンはそう言うとふっと笑った。それから扉をへと歩いていく。
ルシファーは台の上から彼の後ろ姿を見送っていた。彼はすぐにでも「私も行く」と言いたかった。
この戦い、彼らだけでは厳しい。ただでさえ戦力が足りていない状況だ。だができなかった。それはアモンが言ったとおり、天羽軍の狙いが自分の討伐にあるのが分かっていたからだ。
総力戦をしかけてきた以上、なにかしらの手段があるということ。それが分かるまでは動くわけにはいかない。
冷静な判断を下す自分にルシファーは苦虫を噛んだ顔になる。大局を見ればここで自分が前に出るのは早いと分かっている。
けれど、共に戦うべきだと別の自分が言うのだ。それは理性ではなく直感だった。
直感ではなく理論で動いたこと。
もし彼に非があったのなら、それはこれだったのかもしれない。
ルシファーがアモンと話すことは、もう二度となかった。
赤と黒が混じり合う空を無数の白が飛行していた。白衣の上から身につけた甲冑と純白の羽を広げ、大軍は万魔殿を目指している。
隊列に終わりは見えない。その様は夜空に浮かぶ星屑の大川のようだ、この禍々しい黒い世界にあって唯一神聖な輝きを放っている。
先頭の集団がわずかに目を細めた。万魔殿が見えてきたのだ。初めて見る者は攻め落とす対象に戦意を高ぶらせ、二度目の者は緊張を高めていた。
「展開!」
先導している部隊長の言葉に先頭は二手に分かれる。万魔殿を囲み反対側で合流した。三百メートルほど距離を開け展開を終える。
地上から伸びる螺旋階段に支えられるように立つ漆黒の城、万魔殿。その周囲を天羽が覆い尽くしていた。
ある者は正面から見つめ、ある者は見下ろし、ある者は見上げる。その誰しもが敵の居城を敵意の眼差しで見つめていた。
決戦の地へ来たのだ、この争いを終わらせるために。
敵に動きはない。天羽は事前の打ち合わせ通りに動いていく。前列の天羽は三体一組になり、三角形になるように浮遊した。
その中央へ三体分の力を凝縮していく。空間には光の球が渦を巻いて大きくなっていき発射の準備を整えた。
降伏の勧告はいらない。宣戦布告もいらない。いるのは開戦の号砲だ。
周囲から百を越える光弾が万魔殿を狙っている。それらを一斉に放った。砲弾と呼ぶに相応しい攻撃が万魔殿に近づいていく。
だが、それらすべては透明なベールに阻まれた。全弾消失する。その後、地の底から響くような声が聞こえてきた。
万魔殿の城から蜂の巣を突ついたように堕天羽の集団が出てくる。光弾を再生成するが間に合わない。先頭同士が衝突した。
戦いが始まった。天羽と堕天羽たちによる激しい白兵戦が行われる。
万魔殿の結界は内側から外に出ることが出来る逆止弁のような構図になっており、結界内では魔弾を放つ者が列を成し一方的に放射している。
天羽たちは唯一の入り口である螺旋階段へと殺到するが、そこは細い一本道となっており数が制限される。そこを地上の防衛部隊と上空の結界内から集中的に砲撃していった。
数は天羽軍の方が多い。だが地の利は堕天羽軍の方が数段上回っていた。
数は多いが突破は困難。そのためこの戦いすぐには終わらない。誰しもが必死に戦っていた。自分の役目を全うするため命を懸けていた。
戦いが始まってから五日が経った。戦闘は休止を挟みながらまだ続いている。今も外では激闘が繰り広げられていた。
長く続く戦いに、ついに結界にも限界が出始める。どのような道具でも使い続けていけば磨耗するように結界の衝撃吸収が甘くなっていた。
ルシファーは自分の席で報告だけを聞いている。敵の数が多い。どこまで結界が持ちこたえられるか、ルシファーは無言のまま虚空を睨みつける。
「ルシフェル様!」
勢いよく扉を開いた兵士が言った。
「アモン様が!」
次の言葉にルシフェルは立ち上がった。目が大きく見開く。
アモンが振り返り指示を飛ばした。王宮の衛兵を残しみなはここから出て行く。そんな彼らをアモンは見送った。
いい表情だ、臆している者はいない。最後の一人が出て行くまで扉を見つめていた。その後ルシファーに振り返る。
「兄貴、あんたはここに残っていてくれ」
アモンが言った。
「やつらの狙いは兄貴をここから引きずり出すことだ。なにを仕掛けてくるか分からないが、連中は兄貴を倒す手段を用意しているはず」
「俺に黙って見ていろと?」
「あんたは俺たち最後の希望なんだ」
アモンの力強い目が、次第に悲観的な憂いを帯びていく。
これから先堕天羽軍は苦戦を強いられるだろう。さきほどまでいた大勢の兵士たちも、いったい何人が生き残れるのか。
「俺たちの誰かは死ぬだろう。だけど兄貴が生きていれば俺たちの勝ちだ。反対に、兄貴が死んだら俺たちがどれだけ生き残っていようが負けなのさ」
アモンはそう言うとふっと笑った。それから扉をへと歩いていく。
ルシファーは台の上から彼の後ろ姿を見送っていた。彼はすぐにでも「私も行く」と言いたかった。
この戦い、彼らだけでは厳しい。ただでさえ戦力が足りていない状況だ。だができなかった。それはアモンが言ったとおり、天羽軍の狙いが自分の討伐にあるのが分かっていたからだ。
総力戦をしかけてきた以上、なにかしらの手段があるということ。それが分かるまでは動くわけにはいかない。
冷静な判断を下す自分にルシファーは苦虫を噛んだ顔になる。大局を見ればここで自分が前に出るのは早いと分かっている。
けれど、共に戦うべきだと別の自分が言うのだ。それは理性ではなく直感だった。
直感ではなく理論で動いたこと。
もし彼に非があったのなら、それはこれだったのかもしれない。
ルシファーがアモンと話すことは、もう二度となかった。
赤と黒が混じり合う空を無数の白が飛行していた。白衣の上から身につけた甲冑と純白の羽を広げ、大軍は万魔殿を目指している。
隊列に終わりは見えない。その様は夜空に浮かぶ星屑の大川のようだ、この禍々しい黒い世界にあって唯一神聖な輝きを放っている。
先頭の集団がわずかに目を細めた。万魔殿が見えてきたのだ。初めて見る者は攻め落とす対象に戦意を高ぶらせ、二度目の者は緊張を高めていた。
「展開!」
先導している部隊長の言葉に先頭は二手に分かれる。万魔殿を囲み反対側で合流した。三百メートルほど距離を開け展開を終える。
地上から伸びる螺旋階段に支えられるように立つ漆黒の城、万魔殿。その周囲を天羽が覆い尽くしていた。
ある者は正面から見つめ、ある者は見下ろし、ある者は見上げる。その誰しもが敵の居城を敵意の眼差しで見つめていた。
決戦の地へ来たのだ、この争いを終わらせるために。
敵に動きはない。天羽は事前の打ち合わせ通りに動いていく。前列の天羽は三体一組になり、三角形になるように浮遊した。
その中央へ三体分の力を凝縮していく。空間には光の球が渦を巻いて大きくなっていき発射の準備を整えた。
降伏の勧告はいらない。宣戦布告もいらない。いるのは開戦の号砲だ。
周囲から百を越える光弾が万魔殿を狙っている。それらを一斉に放った。砲弾と呼ぶに相応しい攻撃が万魔殿に近づいていく。
だが、それらすべては透明なベールに阻まれた。全弾消失する。その後、地の底から響くような声が聞こえてきた。
万魔殿の城から蜂の巣を突ついたように堕天羽の集団が出てくる。光弾を再生成するが間に合わない。先頭同士が衝突した。
戦いが始まった。天羽と堕天羽たちによる激しい白兵戦が行われる。
万魔殿の結界は内側から外に出ることが出来る逆止弁のような構図になっており、結界内では魔弾を放つ者が列を成し一方的に放射している。
天羽たちは唯一の入り口である螺旋階段へと殺到するが、そこは細い一本道となっており数が制限される。そこを地上の防衛部隊と上空の結界内から集中的に砲撃していった。
数は天羽軍の方が多い。だが地の利は堕天羽軍の方が数段上回っていた。
数は多いが突破は困難。そのためこの戦いすぐには終わらない。誰しもが必死に戦っていた。自分の役目を全うするため命を懸けていた。
戦いが始まってから五日が経った。戦闘は休止を挟みながらまだ続いている。今も外では激闘が繰り広げられていた。
長く続く戦いに、ついに結界にも限界が出始める。どのような道具でも使い続けていけば磨耗するように結界の衝撃吸収が甘くなっていた。
ルシファーは自分の席で報告だけを聞いている。敵の数が多い。どこまで結界が持ちこたえられるか、ルシファーは無言のまま虚空を睨みつける。
「ルシフェル様!」
勢いよく扉を開いた兵士が言った。
「アモン様が!」
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