天下界の無信仰者(イレギュラー)
しかし、それは君ではなさそうだ
白い光の中からイヤスは声だけをかけ続ける。
「久しぶりだねガブリエル。こうして話をするのは君が生まれた時以来か。もっと頻繁に立ち寄ってくれればいいものを」
「ありがとうございます。しかし、そういうわけには。あなた様は至高の存在。神聖とは想像の中で保たれるもの。接触の機会が増えればそれだけ品位が落ちます」
「君は相変わらずだ」
「早速ですが本題に移らせていただきます」
天主イヤスからの再会の言葉には親愛の温かさがある。三人にしてみれば父だが彼からすれば子供たちが会いに来たのだ。久しぶりの再会に言いたいことはたくさんあるだろう。
そうしたい気持ちはガブリエルにもあるが、しかしそのために来たのではない。彼女はきっぱりとした口調で断りここに来た目的を口にする。
「天羽長ルシフェルが一部の天羽を引きつれ反乱軍を結成、現在多くの施設で攻撃を受けています。要求は地上侵攻の即時撤退。彼は、反逆者です」
天界に起きている異常事態、天羽長の裏切り。それは子供が親を裏切ったという現実だ。
その言葉に、イヤスは黙った。
沈黙。重苦しい無言の間が流れる。まるで気圧すら変わったようだった。この事態にどう反応が返ってくるのか三人には予想も付かない。
なぜなら自分の指示を造形物である神造体、天羽によって否定されたのだ。しかもこのような形で。
その結果呆れが出るか怒りが出るか。三人は緊張し目線はじっと床を見つめ身動き一つ取れない。
唾を呑み込むのも躊躇われる。物音一つ立てただけでしまったと心臓が跳ねそうだ。
そんな心身を削られる思いに晒される。
そこでようやくイヤスが口を開いた。だが、実際に沈黙していた時間は三秒にも満たないわずかな時間だった。
「そうか、残念だ」
悲哀に濡れた、けれどどこか達観しているような声色だった。声しか聞こえないので表情は分からないが残念に思っているのは本当だろう。寂しげな雰囲気が伝わる。
「彼は、特に気に入っていたのだがな」
「心中お察し致します。我々も同じ思いです」
誰しもが尊敬していた。誰もが憧れていた。快活さと慈愛に満ちた完璧な善性。ルシフェル。
その彼が自分たちに刃を向けている。その事実に胸が痛まないわけがない。気丈にしているガブリエルも本心では辛苦に目を伏せたくなる。
それは天主イヤスとはいえ例外ではない。子供に裏切られた。その痛みは計り知れない。
しかし、決断しなくれはならない。事態はこうしてる今も進んでいる。手をこまねいているわけにはいかず、選択を迫られる。
イヤスは、決断した。
「こうなっては仕方がない」
その一言に、三人は落胆に似た思いが過った後、それを上回る覚悟を抱いた。
「胸が痛むが、彼は倒さねばならない」
イヤスの選択。それは対決。相手が天羽の長であろうとも敵対するのならば容赦はない。天羽の未来のために、反逆者には退場してもらう。
これが神の意思。天主イヤスは裏切り者を倒すと、そう言った。
「はっ」
答えは出た。決まった方針にガブリエルの脳裏ではこれからの作戦行動を高速で組み立てていく。
各施設の奪還と分断された地上部隊との交信、やらなければならないことは山ほどある。それを最短で、かつ確実な道筋を模索する。
彼女は聡明で冷静だ。だからこそ天羽長の代行を任されてきた。
だが、そんな彼女でも次の展開は予想できなかった。
「しかし、それは君ではなさそうだ」
「?」
天主イヤスから言われた一言に顔を上げる。どういうことか分からなかった。
その時だ、この場に一つしかない扉が開かれた。外からの斜陽が遺跡に差し込まれ光の中に一人の影が映し出される。
その人物が、三人と一柱に声をかけた。
「待ってください」
三人が振り返る。背後の扉へと。そこにいた人物に驚きと共に言葉を発した。
「ミカエル?」
「どうして?」
「新入りだ?」
そこにいたのは天羽長補佐官、ミカエルだった。
背後に光を受け彼が立つ。金色の髪は光を弾き青い目は戦意に漲っていた。違う、彼はいつもの彼ではない。
普段の柔らかな表情は闘神のように凄みを放っている。このような彼を、誰も見たことがない。
「ルシフェル。彼は裏切った。天界を。天羽を。ここにいるみなを」
ミカエルは遺跡に足を踏み入れた。その変貌に三人は見入っている。本当にミカエルか? そう思うがしかし見間違うはずがない。雰囲気は別人だが彼はミカエルだ。その彼が近づいてくる。
「私は今まで彼のそばにいた。彼は、私に任せてほしい」
「久しぶりだねガブリエル。こうして話をするのは君が生まれた時以来か。もっと頻繁に立ち寄ってくれればいいものを」
「ありがとうございます。しかし、そういうわけには。あなた様は至高の存在。神聖とは想像の中で保たれるもの。接触の機会が増えればそれだけ品位が落ちます」
「君は相変わらずだ」
「早速ですが本題に移らせていただきます」
天主イヤスからの再会の言葉には親愛の温かさがある。三人にしてみれば父だが彼からすれば子供たちが会いに来たのだ。久しぶりの再会に言いたいことはたくさんあるだろう。
そうしたい気持ちはガブリエルにもあるが、しかしそのために来たのではない。彼女はきっぱりとした口調で断りここに来た目的を口にする。
「天羽長ルシフェルが一部の天羽を引きつれ反乱軍を結成、現在多くの施設で攻撃を受けています。要求は地上侵攻の即時撤退。彼は、反逆者です」
天界に起きている異常事態、天羽長の裏切り。それは子供が親を裏切ったという現実だ。
その言葉に、イヤスは黙った。
沈黙。重苦しい無言の間が流れる。まるで気圧すら変わったようだった。この事態にどう反応が返ってくるのか三人には予想も付かない。
なぜなら自分の指示を造形物である神造体、天羽によって否定されたのだ。しかもこのような形で。
その結果呆れが出るか怒りが出るか。三人は緊張し目線はじっと床を見つめ身動き一つ取れない。
唾を呑み込むのも躊躇われる。物音一つ立てただけでしまったと心臓が跳ねそうだ。
そんな心身を削られる思いに晒される。
そこでようやくイヤスが口を開いた。だが、実際に沈黙していた時間は三秒にも満たないわずかな時間だった。
「そうか、残念だ」
悲哀に濡れた、けれどどこか達観しているような声色だった。声しか聞こえないので表情は分からないが残念に思っているのは本当だろう。寂しげな雰囲気が伝わる。
「彼は、特に気に入っていたのだがな」
「心中お察し致します。我々も同じ思いです」
誰しもが尊敬していた。誰もが憧れていた。快活さと慈愛に満ちた完璧な善性。ルシフェル。
その彼が自分たちに刃を向けている。その事実に胸が痛まないわけがない。気丈にしているガブリエルも本心では辛苦に目を伏せたくなる。
それは天主イヤスとはいえ例外ではない。子供に裏切られた。その痛みは計り知れない。
しかし、決断しなくれはならない。事態はこうしてる今も進んでいる。手をこまねいているわけにはいかず、選択を迫られる。
イヤスは、決断した。
「こうなっては仕方がない」
その一言に、三人は落胆に似た思いが過った後、それを上回る覚悟を抱いた。
「胸が痛むが、彼は倒さねばならない」
イヤスの選択。それは対決。相手が天羽の長であろうとも敵対するのならば容赦はない。天羽の未来のために、反逆者には退場してもらう。
これが神の意思。天主イヤスは裏切り者を倒すと、そう言った。
「はっ」
答えは出た。決まった方針にガブリエルの脳裏ではこれからの作戦行動を高速で組み立てていく。
各施設の奪還と分断された地上部隊との交信、やらなければならないことは山ほどある。それを最短で、かつ確実な道筋を模索する。
彼女は聡明で冷静だ。だからこそ天羽長の代行を任されてきた。
だが、そんな彼女でも次の展開は予想できなかった。
「しかし、それは君ではなさそうだ」
「?」
天主イヤスから言われた一言に顔を上げる。どういうことか分からなかった。
その時だ、この場に一つしかない扉が開かれた。外からの斜陽が遺跡に差し込まれ光の中に一人の影が映し出される。
その人物が、三人と一柱に声をかけた。
「待ってください」
三人が振り返る。背後の扉へと。そこにいた人物に驚きと共に言葉を発した。
「ミカエル?」
「どうして?」
「新入りだ?」
そこにいたのは天羽長補佐官、ミカエルだった。
背後に光を受け彼が立つ。金色の髪は光を弾き青い目は戦意に漲っていた。違う、彼はいつもの彼ではない。
普段の柔らかな表情は闘神のように凄みを放っている。このような彼を、誰も見たことがない。
「ルシフェル。彼は裏切った。天界を。天羽を。ここにいるみなを」
ミカエルは遺跡に足を踏み入れた。その変貌に三人は見入っている。本当にミカエルか? そう思うがしかし見間違うはずがない。雰囲気は別人だが彼はミカエルだ。その彼が近づいてくる。
「私は今まで彼のそばにいた。彼は、私に任せてほしい」
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