天下界の無信仰者(イレギュラー)
ルシフェル! お久しぶりです!
一週間後、部屋に来たアモンと段取りを確認した。賛同した天羽は全体の約一割に及ぶという。
たった一週間でそれだけの天羽が仲間を表明してくれた。アモン曰く「兄貴じゃなかったらこうはいかなかったさ」と自慢ぽく言っていた。
ルシフェル自身としてはそこまで自分が慕われる理由はないのだが、この時だけは素直に喜ばしく思った。
今日、地上時間の正午に行動を開始する。ルシフェルはベッドに腰掛けその時を待った。反逆の狼煙を上げるまでまだ時間はある。無言で手を組み、この場は緊張感に包まれている。
神へと反逆すると決めた時から一時たりとも気を休めたことはない。ルシフェルの集中力は限界にまで高められ、仮にこの瞬間、部屋を爆破されようとも即座に対応できるほどだ。
開始の時は近い。その時を、ひたすらに待ち続ける。
だが、ルシフェルの意識に音が響く。扉がノックされたのだ。
(アモンか?)
視線を扉へと向ける。言い忘れたことでもあったのだろうか。このタイミングで来ることを考えれば緊急事態だろうか。
思考があらゆる危機的状況を想定していく中、扉はやや勢いよく開けられた。
そこから現れたのはアモンではなく別の男だった。
「ルシフェル! お久しぶりです!」
「ミカエル…………?」
天羽長補佐官、ミカエルだった。
その表情は金髪よりもなお明るく青色の双眸は久しぶりに見る彼の姿に喜びを表していた。
ミカエルと共に槍を持った天羽も入室する。軽装の防具を装着しており表情は険しい。メタル色のかぶとが鈍く光る。
見張りは扉近くで立ち止まりミカエルは近づいてきた。その片手には茶色の鞄を持っている。
「二週間ぶりですねルシフェル。すみません、本当はもっと早くに会いに来たかったのですが面会許可を取るのに時間がかかってしまって」
ミカエルは申し訳そうに言うが表情は笑っている。変わらない。別れてからもミカエルは知っている通りのままだ。
ルシフェルは、呆気に取られていた。これから神に反逆しようというときに、まさか彼と出会うとは。
ミカエルは近くに置いてあった椅子を引っ張り出しルシフェルの対面に置いた。そこに座り込む。
「体調はどうですか? 二週間以上も部屋に閉じこもりで心配でしたよ」
「いや、大丈夫だよ」
「ならよかった」
ルシフェルの答えにミカエルは無邪気にも見える笑みを浮かべている。久しぶりの会話、それを楽しんでいるようだ。
反対に、ルシフェルは未だこの場の事態に馴染んでいなかった。
まるで戦場に向かっていたのにたどり着いたのは実家だったかのような、拍子抜けに似た困惑を覚える。
これから戦うはずだ、神を敵として。その最大の戦いを前にして今は最も神経をとがらせておかなければならないはず。
なのにこれはなんだ?
この、温かく、懐かしい空気は。
第一、彼は知っているのだろうか。
「ミカエル、お前は……」
それで聞こうとした。これから、大きなことが起きる。それを知っているのかと。
だが、ミカエルの声がルシフェルの問いに被さってきた。
「それよりも見てくださいルシフェル!」
ルシフェルの問いは霧消してしまった。ミカエルは持ってきた鞄の中に手を入れると、そこから紙の束を取り出し手渡してきた。かなりの量だ、三百枚は越えている。ルシフェルは手に取った。
「これは……?」
「署名ですよ!」
「署名……?」
紙からミカエルへ視線を上げる。
それで驚いた。地上は惨状へ変わり、改善しようとした天羽すら異端者の烙印を恐れなにも出来なかったというのに。その中でただ一人――
彼の顔は、輝いていた。
「…………」
その輝きに、ルシフェルはしばし見入る。
なんて、希望に満ちた表情なのだろうかと。
「今回の地上侵攻について、人類側と交渉する場を設けようと思ったんです。その署名を集めているんですよ。謁見の間では一度断られてしまいましたが、数を集めて訴えれば、きっとイヤス様にも伝わると思うんです」
ミカエルの語る内容は平和的解決だ。話し合いによってこの事態を終わらせようと、彼なりにどうにかしようと頑張っていた。
「この二週間だけで一万人以上の賛同署名が集まったんです。これからまだまだ集まりますよ!」
ルシフェルは再び手元に視線を落とす。そこにはミカエルの努力の結晶である、大勢の署名が書かれた紙がある。
たった一週間でそれだけの天羽が仲間を表明してくれた。アモン曰く「兄貴じゃなかったらこうはいかなかったさ」と自慢ぽく言っていた。
ルシフェル自身としてはそこまで自分が慕われる理由はないのだが、この時だけは素直に喜ばしく思った。
今日、地上時間の正午に行動を開始する。ルシフェルはベッドに腰掛けその時を待った。反逆の狼煙を上げるまでまだ時間はある。無言で手を組み、この場は緊張感に包まれている。
神へと反逆すると決めた時から一時たりとも気を休めたことはない。ルシフェルの集中力は限界にまで高められ、仮にこの瞬間、部屋を爆破されようとも即座に対応できるほどだ。
開始の時は近い。その時を、ひたすらに待ち続ける。
だが、ルシフェルの意識に音が響く。扉がノックされたのだ。
(アモンか?)
視線を扉へと向ける。言い忘れたことでもあったのだろうか。このタイミングで来ることを考えれば緊急事態だろうか。
思考があらゆる危機的状況を想定していく中、扉はやや勢いよく開けられた。
そこから現れたのはアモンではなく別の男だった。
「ルシフェル! お久しぶりです!」
「ミカエル…………?」
天羽長補佐官、ミカエルだった。
その表情は金髪よりもなお明るく青色の双眸は久しぶりに見る彼の姿に喜びを表していた。
ミカエルと共に槍を持った天羽も入室する。軽装の防具を装着しており表情は険しい。メタル色のかぶとが鈍く光る。
見張りは扉近くで立ち止まりミカエルは近づいてきた。その片手には茶色の鞄を持っている。
「二週間ぶりですねルシフェル。すみません、本当はもっと早くに会いに来たかったのですが面会許可を取るのに時間がかかってしまって」
ミカエルは申し訳そうに言うが表情は笑っている。変わらない。別れてからもミカエルは知っている通りのままだ。
ルシフェルは、呆気に取られていた。これから神に反逆しようというときに、まさか彼と出会うとは。
ミカエルは近くに置いてあった椅子を引っ張り出しルシフェルの対面に置いた。そこに座り込む。
「体調はどうですか? 二週間以上も部屋に閉じこもりで心配でしたよ」
「いや、大丈夫だよ」
「ならよかった」
ルシフェルの答えにミカエルは無邪気にも見える笑みを浮かべている。久しぶりの会話、それを楽しんでいるようだ。
反対に、ルシフェルは未だこの場の事態に馴染んでいなかった。
まるで戦場に向かっていたのにたどり着いたのは実家だったかのような、拍子抜けに似た困惑を覚える。
これから戦うはずだ、神を敵として。その最大の戦いを前にして今は最も神経をとがらせておかなければならないはず。
なのにこれはなんだ?
この、温かく、懐かしい空気は。
第一、彼は知っているのだろうか。
「ミカエル、お前は……」
それで聞こうとした。これから、大きなことが起きる。それを知っているのかと。
だが、ミカエルの声がルシフェルの問いに被さってきた。
「それよりも見てくださいルシフェル!」
ルシフェルの問いは霧消してしまった。ミカエルは持ってきた鞄の中に手を入れると、そこから紙の束を取り出し手渡してきた。かなりの量だ、三百枚は越えている。ルシフェルは手に取った。
「これは……?」
「署名ですよ!」
「署名……?」
紙からミカエルへ視線を上げる。
それで驚いた。地上は惨状へ変わり、改善しようとした天羽すら異端者の烙印を恐れなにも出来なかったというのに。その中でただ一人――
彼の顔は、輝いていた。
「…………」
その輝きに、ルシフェルはしばし見入る。
なんて、希望に満ちた表情なのだろうかと。
「今回の地上侵攻について、人類側と交渉する場を設けようと思ったんです。その署名を集めているんですよ。謁見の間では一度断られてしまいましたが、数を集めて訴えれば、きっとイヤス様にも伝わると思うんです」
ミカエルの語る内容は平和的解決だ。話し合いによってこの事態を終わらせようと、彼なりにどうにかしようと頑張っていた。
「この二週間だけで一万人以上の賛同署名が集まったんです。これからまだまだ集まりますよ!」
ルシフェルは再び手元に視線を落とす。そこにはミカエルの努力の結晶である、大勢の署名が書かれた紙がある。
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