天下界の無信仰者(イレギュラー)
兄貴、言ったはずだろ
ルシフェルは一人で戦う気だ。裏切り者の汚名は自分だけでけっこうだ。自分一人だけでもこの事態を変えてみせると。
それに、神への反逆に荷担する者が果たしているだろうか? いるわけがない。
そのため、ルシフェルは一人で行く気だった。
「なんだよそれ」
そんなルシフェルにアモンが声を掛ける。彼の背中に向けてつぶやく。
「もう現れるな? 一人で行く? 久しぶりに本気で頭にきてるぜ」
アモンの口から叱責が聞こえる。それも仕方がないことだ。ルシフェルは甘んじて受け入れる。
「兄貴、言ったはずだろ」
裏切り者を前にアモンの声は険しい。けれど、その声が柔らかいものへと変わった。
「あんたについて行く。どこへでもだ」
一拍の間を置いてからルシフェルは振り向いた。そこには、小さく笑ったアモンが立っていた。いつもと変わらない態度で。
「いいのか?」
困惑気味のルシフェルに、アモンは威勢良く答えた。
「当然だ。どこまでもお供するぜ、兄貴」
慕っている者のため、一緒に堕天すると、そう言ってくれた。彼の眼差しに嘘はない。
ルシフェルは頷いた。
一人じゃない。賛同してくれる者がいる。心強かった、それだけで。
やることは決まった。そのためにはどうすればいいか、悲観に久しく動かしていなかった思考が猛スピードで回転をし始める。
「仲間がいる。同じ思いを共にする仲間が」
「分かった。心当たりのあるやつから声をかけていく。兄貴の後ろ盾があるならもっと集まるだろう」
「アモン、くれぐれも」
「分かってるさ、ドジはしねえ」
二人は見つめ合い、互いに頷いた。
アモンは扉に向かっていった。一日だけでどれだけの仲間が見つかるか。先行きはまだ分からない。
ルシフェルからの期待を背負いアモンは部屋から出ていく。扉を開けて足を動かす間際、アモンは立ち止まった。
「兄貴」
振り返ることなく、背中越しに名前を呼ばれる。
「ありがとう」
次に言われたのは感謝だった。彼は苦しんでいた。だからこそルシフェルに助けを求めてここに来た。
けれど、感謝を言いたかったのはルシフェルの方だ。自分が歩むきっかけを作ってくれた。踏ん切りがついた。
自分がなにをしたいのか? はじめ、それは神の使命に応えることだった。
しかし本質はそうではなかった。神の使命に応えることではない、その使命に共感していたから誇りに思っていただけだ。
本当にしたかったもの。
それは、誰も傷つかないこと。
そんな夢物語、子供が描く幻を叶えるために。
今、ここから始めるのだ。
「……礼はまだ早いさ、そうだろう?」
「ふっ」
アモンは小さく笑い部屋から出て行った。扉が静かに閉められる。
アモンが出て行った後、ルシフェルは緩んでいた口元を引き締める。目つきは鷹のように鋭くなり窓際へと近づいた。締め切ったカーテンを開く。
この部屋に光が差し込んだ。ルシフェルを天界の輝きが迎える。外には青空と島々が浮かぶ幻想的な光景が広がっている。人間がこの世界を目の当たりにすれば奇跡だと驚嘆しながら称えるだろう。
その天界を、ルシフェルは睨みつけるように見つめていた。その胸に感嘆の類は一切ない。
この世界は見納めだ。
もう、規則に縛られることはない。
歩き出そう。親にしがみつく時間は終わりだ。不法を以て正義を成すために。誰かの作った道ではない、己が信じる道を進むため。
反逆しろ、これより正義を歩め。
それに、神への反逆に荷担する者が果たしているだろうか? いるわけがない。
そのため、ルシフェルは一人で行く気だった。
「なんだよそれ」
そんなルシフェルにアモンが声を掛ける。彼の背中に向けてつぶやく。
「もう現れるな? 一人で行く? 久しぶりに本気で頭にきてるぜ」
アモンの口から叱責が聞こえる。それも仕方がないことだ。ルシフェルは甘んじて受け入れる。
「兄貴、言ったはずだろ」
裏切り者を前にアモンの声は険しい。けれど、その声が柔らかいものへと変わった。
「あんたについて行く。どこへでもだ」
一拍の間を置いてからルシフェルは振り向いた。そこには、小さく笑ったアモンが立っていた。いつもと変わらない態度で。
「いいのか?」
困惑気味のルシフェルに、アモンは威勢良く答えた。
「当然だ。どこまでもお供するぜ、兄貴」
慕っている者のため、一緒に堕天すると、そう言ってくれた。彼の眼差しに嘘はない。
ルシフェルは頷いた。
一人じゃない。賛同してくれる者がいる。心強かった、それだけで。
やることは決まった。そのためにはどうすればいいか、悲観に久しく動かしていなかった思考が猛スピードで回転をし始める。
「仲間がいる。同じ思いを共にする仲間が」
「分かった。心当たりのあるやつから声をかけていく。兄貴の後ろ盾があるならもっと集まるだろう」
「アモン、くれぐれも」
「分かってるさ、ドジはしねえ」
二人は見つめ合い、互いに頷いた。
アモンは扉に向かっていった。一日だけでどれだけの仲間が見つかるか。先行きはまだ分からない。
ルシフェルからの期待を背負いアモンは部屋から出ていく。扉を開けて足を動かす間際、アモンは立ち止まった。
「兄貴」
振り返ることなく、背中越しに名前を呼ばれる。
「ありがとう」
次に言われたのは感謝だった。彼は苦しんでいた。だからこそルシフェルに助けを求めてここに来た。
けれど、感謝を言いたかったのはルシフェルの方だ。自分が歩むきっかけを作ってくれた。踏ん切りがついた。
自分がなにをしたいのか? はじめ、それは神の使命に応えることだった。
しかし本質はそうではなかった。神の使命に応えることではない、その使命に共感していたから誇りに思っていただけだ。
本当にしたかったもの。
それは、誰も傷つかないこと。
そんな夢物語、子供が描く幻を叶えるために。
今、ここから始めるのだ。
「……礼はまだ早いさ、そうだろう?」
「ふっ」
アモンは小さく笑い部屋から出て行った。扉が静かに閉められる。
アモンが出て行った後、ルシフェルは緩んでいた口元を引き締める。目つきは鷹のように鋭くなり窓際へと近づいた。締め切ったカーテンを開く。
この部屋に光が差し込んだ。ルシフェルを天界の輝きが迎える。外には青空と島々が浮かぶ幻想的な光景が広がっている。人間がこの世界を目の当たりにすれば奇跡だと驚嘆しながら称えるだろう。
その天界を、ルシフェルは睨みつけるように見つめていた。その胸に感嘆の類は一切ない。
この世界は見納めだ。
もう、規則に縛られることはない。
歩き出そう。親にしがみつく時間は終わりだ。不法を以て正義を成すために。誰かの作った道ではない、己が信じる道を進むため。
反逆しろ、これより正義を歩め。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
37
-
-
755
-
-
310
-
-
0
-
-
2
-
-
149
-
-
768
-
-
70810
-
-
1978
コメント