天下界の無信仰者(イレギュラー)
いや、構わないよ。よければ一緒に見ていいかな?
宙を飛び別の島へと移る。ここより少し下の島に着地した。木々が生い茂る庭のような場所だ。
ルシフェルは整理された道を歩いていき、洞窟の中へと入っていった。ごつごつとした固い地面を進んでいく。
遠見の池と呼ばれるこの島には小さな池が一つある。それはただの池ではなく、そこの水面では天下界の様子を見ることができるのだ。
そのため地上に降りることなく人々の姿や暮らしが見える。仕事で使うこともあるが、今回はあくまで気分転換だ。人々の幸せな暮らしを見て重くなった気分を晴らすことにしよう。
そうしてルシフェルはしばらく歩いていくと遠見の池が見えてきた。洞窟は行き止まりとなり、ドーム状の洞窟の中央に池はあった。
ここなら変なトラブルに見舞われることなく落ち着けるだろう。
だが、そこには先客がいた。ルシフェルが来たことに気づいた天羽がこちらを見てくる。
「天羽長?」
天羽は遠見の池に映っていた映像を消し、彼に会釈した。
「すみません、今退きますので」
天羽はそのままこの場を立ち去ろうとする。
「いや、構わないよ。よければ一緒に見ていいかな?」
そんな彼女をルシフェルは呼び止めた。一人でなければならないという理由はない。それにせっかく出会ったのだ、相手さえよければ、このまま二人で水面に映る光景を見ていたい。
ルシフェルは立ち去ろうとする天羽を止め、その名を呼んだ。
「ウリエル」
呼ばれ、白髪の彼女は振り向いた。
白い長髪が揺れる。着ている服も純白のワンピースだった。清楚さと品を併せ持ち、しかしその内向的な性格のせいだろうが、彼女は落ち着いた、弱気のような印象がある。
それはその通りらしく、ルシフェルを遠慮がちに見つめていた。
「いえ、私は」
「これから用事でもあるのか?」
「そういうわけでは」
「では少しだけつき合ってくれ。そう時間は取らせないさ」
「……はい」
天羽長からの頼みとあれば断るわけにはいかない。ウリエルは渋々といった感じで受け入れた。
乗り気ではないのはルシフェルも知ってはいるが、こうでもしなければ親しくなれないのならば強行もやむなしだ。
相手が誰であれ、ルシフェルは仲良くなりたいと思っていた。
「なにを見ていたんだい?」
「いえ、その」
ルシフェルはウリエルの隣に立つ。緊張しているのかつき合いが苦手なのか、ウリエルは顔を下げ口ごもっている。
しかしいつまでも質問に答えないというのは失礼だ。ウリエルは躊躇いがちに、今は透明な水が揺れる水面を見て言った。
「人の暮らしを」
ウリエルは恥ずかしそうだった。一人で人の暮らしを見つめていたことが後ろめたそうに。暗い趣味だと思われるのが嫌なのだろう。
そんなウリエルに、ルシフェルは明るく話しかけた。
「いいじゃないか。恥ずかしがるようなことじゃないさ」
「しかし」
ルシフェルは微笑みながら水面に手をかざした。すると水面に天下界の様子が映し出された。そこには昼の時間、街の中に並ぶ露店を行き交う人々がいた。
「大勢の人が暮らしているな」
そこに映る人々には活気があった。賑やかで、元気な姿がある。人々が平和に暮らしている光景に二人の表情は柔らかくなるが、ウリエルは少しだけ残念そうに歪めた。
「はい。ですが、ここから探し出すのが大変で」
あくまでも今は全体を目で撫でているだけだ。それも一部に過ぎない。ここからピックアップしようとすればかなりの労力になる。
ルシフェルが来るまでは、きっと一人で四苦八苦していたことだろう。
その苦労はルシフェルにも分かる。
「なら、これでどうだい」
ルシフェルはさらに手をかざした。
すると、池の水に動きがあった。
「これは……」
その変化に彼女から驚きの声が出る。
池の水が山のように盛り上がったのだ。どんどんと水が上がり、空中に集まっていく。池の水は球体となり宙に浮かんでいた。
さらに、ミラーボールのような多角面になり、その一面一面に人々が映し出されたのだ。三六〇度、そこには別々の場所が映し出されている。
水の投影機はゆっくりと回転を始める。映像の一部は画面から飛び出し、空間に映し出されていた。
ルシフェルは整理された道を歩いていき、洞窟の中へと入っていった。ごつごつとした固い地面を進んでいく。
遠見の池と呼ばれるこの島には小さな池が一つある。それはただの池ではなく、そこの水面では天下界の様子を見ることができるのだ。
そのため地上に降りることなく人々の姿や暮らしが見える。仕事で使うこともあるが、今回はあくまで気分転換だ。人々の幸せな暮らしを見て重くなった気分を晴らすことにしよう。
そうしてルシフェルはしばらく歩いていくと遠見の池が見えてきた。洞窟は行き止まりとなり、ドーム状の洞窟の中央に池はあった。
ここなら変なトラブルに見舞われることなく落ち着けるだろう。
だが、そこには先客がいた。ルシフェルが来たことに気づいた天羽がこちらを見てくる。
「天羽長?」
天羽は遠見の池に映っていた映像を消し、彼に会釈した。
「すみません、今退きますので」
天羽はそのままこの場を立ち去ろうとする。
「いや、構わないよ。よければ一緒に見ていいかな?」
そんな彼女をルシフェルは呼び止めた。一人でなければならないという理由はない。それにせっかく出会ったのだ、相手さえよければ、このまま二人で水面に映る光景を見ていたい。
ルシフェルは立ち去ろうとする天羽を止め、その名を呼んだ。
「ウリエル」
呼ばれ、白髪の彼女は振り向いた。
白い長髪が揺れる。着ている服も純白のワンピースだった。清楚さと品を併せ持ち、しかしその内向的な性格のせいだろうが、彼女は落ち着いた、弱気のような印象がある。
それはその通りらしく、ルシフェルを遠慮がちに見つめていた。
「いえ、私は」
「これから用事でもあるのか?」
「そういうわけでは」
「では少しだけつき合ってくれ。そう時間は取らせないさ」
「……はい」
天羽長からの頼みとあれば断るわけにはいかない。ウリエルは渋々といった感じで受け入れた。
乗り気ではないのはルシフェルも知ってはいるが、こうでもしなければ親しくなれないのならば強行もやむなしだ。
相手が誰であれ、ルシフェルは仲良くなりたいと思っていた。
「なにを見ていたんだい?」
「いえ、その」
ルシフェルはウリエルの隣に立つ。緊張しているのかつき合いが苦手なのか、ウリエルは顔を下げ口ごもっている。
しかしいつまでも質問に答えないというのは失礼だ。ウリエルは躊躇いがちに、今は透明な水が揺れる水面を見て言った。
「人の暮らしを」
ウリエルは恥ずかしそうだった。一人で人の暮らしを見つめていたことが後ろめたそうに。暗い趣味だと思われるのが嫌なのだろう。
そんなウリエルに、ルシフェルは明るく話しかけた。
「いいじゃないか。恥ずかしがるようなことじゃないさ」
「しかし」
ルシフェルは微笑みながら水面に手をかざした。すると水面に天下界の様子が映し出された。そこには昼の時間、街の中に並ぶ露店を行き交う人々がいた。
「大勢の人が暮らしているな」
そこに映る人々には活気があった。賑やかで、元気な姿がある。人々が平和に暮らしている光景に二人の表情は柔らかくなるが、ウリエルは少しだけ残念そうに歪めた。
「はい。ですが、ここから探し出すのが大変で」
あくまでも今は全体を目で撫でているだけだ。それも一部に過ぎない。ここからピックアップしようとすればかなりの労力になる。
ルシフェルが来るまでは、きっと一人で四苦八苦していたことだろう。
その苦労はルシフェルにも分かる。
「なら、これでどうだい」
ルシフェルはさらに手をかざした。
すると、池の水に動きがあった。
「これは……」
その変化に彼女から驚きの声が出る。
池の水が山のように盛り上がったのだ。どんどんと水が上がり、空中に集まっていく。池の水は球体となり宙に浮かんでいた。
さらに、ミラーボールのような多角面になり、その一面一面に人々が映し出されたのだ。三六〇度、そこには別々の場所が映し出されている。
水の投影機はゆっくりと回転を始める。映像の一部は画面から飛び出し、空間に映し出されていた。
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