天下界の無信仰者(イレギュラー)
そこにいるのは黄金を纏う男
「くっ」
ミカエルは確信する。こいつをなんとしなければこの戦い、負けるのは我々だと。そしてこのオーラ、感じたことがある。
「イレギュラー……!」
侮蔑を込めて、怒りを込めてその名を口にする。
イレギュラー、宮司神愛。間違いない、やつだ。どうやってこれほどの力を身に付けたかは分からないがあの男なのは疑いようがない。
五次元結界が破れた今、要の天界の門は無防備にその威容を晒している。このままではあの男に破壊までされてしまう。
もう、傍観しているだけで勝てる戦いではなくなった。
「残念だよ」
つぶやかれた言葉は本心だが皮肉った響きは一切ない。あるのは目前に控えた戦いに挑む全力の戦意だ。
ゴルゴダ美術館広場で立つ神愛は天界の門を見上げ浮上していった。足が地面から離れ猛スピードで目標へと飛んでいく。
ゴルゴダの美景を支える白い建物群を一瞬で抜き去り街の中央にて頭上、中心部へと現れた。
人々は見上げた。羽を持つ者たちでさえ驚愕の眼で彼を見る。彼が放つ黄金の粒子は今や街の全域へと降り注いでいたのだ。
まるで雪のように。気づかぬ者などいるはずがない。この光景に戦うことも忘れすべての者は見上げていた。
「これは、いったい……?」
街道の大通りで天羽と戦い続けていた聖騎士ペトロも困惑の表情で降り注ぐ黄金の粒子を見ていた。手をかざし粒子を手のひらに乗せてみる。
瞬間だった。光に触れた途端、傷は癒え痛みが退いていったのだ。
「これは?」
奇跡の光だ。勝利へと導く栄光の光が地上を満たしていく。
ペトロだけでない。天羽に囲まれながらも戦っているヨハネや彼と共に戦うヤコブもその恩恵に驚いていた。
「なんだ、これは?」
「この光は」
これに見覚えがあるヨハネは頭上を見上げるとその口元を持ち上げた。
その光は大勢の天羽の身動きを封じながら自身も戦っていた神愛の母、アグネスにも届いていた。
長年のブランクもあり心身疲れ果て、額には玉のような汗を浮かべ苦悶の表情を浮かべている。
もともと戦闘経験自体が少なく病み上がりの体だ。それを神愛への思いだけで奮い立たせてきたが限界がきていた。天羽の小隊が迫るが精神操作が間に合っていない。
やられる。アグネスは覚悟を決めた。
が、そこで彼女の体に黄金の粒子が舞い降りた。体の負担はなくなり気持ちまでもがフッと軽くなる。
「え」
突然の事態に驚くがそれも一瞬。力を取り戻し迫る天羽たちの動きを止める。疑問はあるがそれは後、今は目の前の戦いに集中しアグネスは戦闘を続けていった。しかし、頭のどこかで感じていた。
(神愛。あなたなの?)
関係性などどこにもないのに、アグネスは不思議とこの光に息子の気配を感じていた。
大通りで戦う加豪と天和も神愛の黄金の粒子に気づき頭上へと視線を上げていた。
「これは?」
「宮司君のね」
二人は一度体育館でこれと同じものを見たことがある。だからこそ分かる。この光が降ってくるということは、
「神愛、やったんだ」
彼は勝利した。成功したのだ。それを知って加豪は小さく笑みを浮かべた。
この戦場にいるすべての者が黄金の恩恵を受けていた。傷はなくなりそれどころか力すら上がっていく。
これがなんなのかほとんどの者は知らない。見上げる先に人がいるのは分かるがそれが何者であるかなど理解できるはずがない。
そこにいるのは黄金を纏う男。第四の神理を謳う異端者。天下界に生きるただ一人の男。
誰が知ろう。彼こそが、この無限に連なる次元の宇宙を創造した者など。誰も知らない。本人ですら。知っているのは彼の背後に控えるミルフィアだけだ。
知らなくていい。
しかしこの時、出会ったのだ。
神の中の神。
創造主と。
今やこの戦場の中心に立つ神愛は片腕を天に向け声を張り上げた。
「我が神造体、ミルフィアに命ずる。地上を侵攻する天羽へ、我が理を布教せよ!」
黄金を振りまく少年の命に少女も全霊で応える。
「はい! 主、あなたがそれを望むなら!」
ミルフィアも片腕を天に指す。すると天空に金色の波紋が円形に広がっていった。いくつもの波が空を走っていく。
それは真の神を称える紋様であり世界の書き換えだ。神理で得た強化すら打ち消していく。
それは天羽を狙い撃ちにし、地上で戦っていた天羽たちは弱体化、飛べないほどに弱まっていた。
次々に地上へと降りて膝をついている。如何に異能が通じない天羽といえど神愛のこれは格が違う。神理を作った神を作った創造主の法則。無効にできるはずがない。
戦況を覆すほどの強化と弱体化が戦場を覆っていた。これにより一気にゴルゴダ軍が盛り返す。
しかし、敵もそれを見逃すほど甘くない。
天界の門から現れる新手が一斉に神愛たちに向かってきた。まだ弱体化の影響が出ていない。しかもその数は開いた扉と相まって劇的に上がっており、神愛に殺到する数は十万を超えていた。
圧倒的な白、白、白。突如現れた強大な敵に天羽たちの猛攻が迫る。
しかし、神愛には驚きも不安もなかった。
「我が神造体ミルフィア、やつらを弾圧せよ!」
「はい、我が主!」
背後に控えるミルフィアが両手を左右に広げる。それにより生まれる黄金の光は周囲へと走り天羽の大軍すらも吹き飛ばしていった。
無限といえど有象無象。自ら手を下すまでもない。従者であるミルフィアの手により一掃され跡形もなく消えていった。
天羽から見れば悪夢だろう。ヘブンズ・ゲートから呼び出した十万もの軍勢、それが一瞬で、なにも成す前から消滅したのだ。
計画と違う。
想定と違う。
予想と違う。
イレギュラーだ。
紛うことなきイレギュラー。
彼らの思惑を根底から覆す、それは最大のイレギュラーだった。
「まったく、残念だよ」
そこへ、この計画の首謀者が現れた。
ミカエルは神愛の正面へ空間転移で現れた。揺れる空間をかいくぐり現れた彼の表情は苛ついている。目はつり上がりすでに八枚の翼が広がっていた。
「まさかこんなことになるとはね。お前は真っ先に始末しておくべきだったよイレギュラー」
この計画の大詰めでまさかの展開だ。ミカエルの焦りと怒りが伝わってくる。
それに対し神愛は指を突きつけた。
「勝負だミカエル! てめえとの決着を付けてやる!」
この戦いを終わらせるため、すべてに決着をつけるために。
「いいだろう。お前を倒しこの戦いを終わらせてやる!」
二人は同時に空間転移を行った。ここで戦っては周囲への被害が大きすぎる。そのため二人は場所を移動し、宇宙空間へと現れていた。暗黒の場所で白をまとった二人が対峙する。
神愛デュエット・モードと天羽長ミカエルの、決闘が始まった。
ミカエルは確信する。こいつをなんとしなければこの戦い、負けるのは我々だと。そしてこのオーラ、感じたことがある。
「イレギュラー……!」
侮蔑を込めて、怒りを込めてその名を口にする。
イレギュラー、宮司神愛。間違いない、やつだ。どうやってこれほどの力を身に付けたかは分からないがあの男なのは疑いようがない。
五次元結界が破れた今、要の天界の門は無防備にその威容を晒している。このままではあの男に破壊までされてしまう。
もう、傍観しているだけで勝てる戦いではなくなった。
「残念だよ」
つぶやかれた言葉は本心だが皮肉った響きは一切ない。あるのは目前に控えた戦いに挑む全力の戦意だ。
ゴルゴダ美術館広場で立つ神愛は天界の門を見上げ浮上していった。足が地面から離れ猛スピードで目標へと飛んでいく。
ゴルゴダの美景を支える白い建物群を一瞬で抜き去り街の中央にて頭上、中心部へと現れた。
人々は見上げた。羽を持つ者たちでさえ驚愕の眼で彼を見る。彼が放つ黄金の粒子は今や街の全域へと降り注いでいたのだ。
まるで雪のように。気づかぬ者などいるはずがない。この光景に戦うことも忘れすべての者は見上げていた。
「これは、いったい……?」
街道の大通りで天羽と戦い続けていた聖騎士ペトロも困惑の表情で降り注ぐ黄金の粒子を見ていた。手をかざし粒子を手のひらに乗せてみる。
瞬間だった。光に触れた途端、傷は癒え痛みが退いていったのだ。
「これは?」
奇跡の光だ。勝利へと導く栄光の光が地上を満たしていく。
ペトロだけでない。天羽に囲まれながらも戦っているヨハネや彼と共に戦うヤコブもその恩恵に驚いていた。
「なんだ、これは?」
「この光は」
これに見覚えがあるヨハネは頭上を見上げるとその口元を持ち上げた。
その光は大勢の天羽の身動きを封じながら自身も戦っていた神愛の母、アグネスにも届いていた。
長年のブランクもあり心身疲れ果て、額には玉のような汗を浮かべ苦悶の表情を浮かべている。
もともと戦闘経験自体が少なく病み上がりの体だ。それを神愛への思いだけで奮い立たせてきたが限界がきていた。天羽の小隊が迫るが精神操作が間に合っていない。
やられる。アグネスは覚悟を決めた。
が、そこで彼女の体に黄金の粒子が舞い降りた。体の負担はなくなり気持ちまでもがフッと軽くなる。
「え」
突然の事態に驚くがそれも一瞬。力を取り戻し迫る天羽たちの動きを止める。疑問はあるがそれは後、今は目の前の戦いに集中しアグネスは戦闘を続けていった。しかし、頭のどこかで感じていた。
(神愛。あなたなの?)
関係性などどこにもないのに、アグネスは不思議とこの光に息子の気配を感じていた。
大通りで戦う加豪と天和も神愛の黄金の粒子に気づき頭上へと視線を上げていた。
「これは?」
「宮司君のね」
二人は一度体育館でこれと同じものを見たことがある。だからこそ分かる。この光が降ってくるということは、
「神愛、やったんだ」
彼は勝利した。成功したのだ。それを知って加豪は小さく笑みを浮かべた。
この戦場にいるすべての者が黄金の恩恵を受けていた。傷はなくなりそれどころか力すら上がっていく。
これがなんなのかほとんどの者は知らない。見上げる先に人がいるのは分かるがそれが何者であるかなど理解できるはずがない。
そこにいるのは黄金を纏う男。第四の神理を謳う異端者。天下界に生きるただ一人の男。
誰が知ろう。彼こそが、この無限に連なる次元の宇宙を創造した者など。誰も知らない。本人ですら。知っているのは彼の背後に控えるミルフィアだけだ。
知らなくていい。
しかしこの時、出会ったのだ。
神の中の神。
創造主と。
今やこの戦場の中心に立つ神愛は片腕を天に向け声を張り上げた。
「我が神造体、ミルフィアに命ずる。地上を侵攻する天羽へ、我が理を布教せよ!」
黄金を振りまく少年の命に少女も全霊で応える。
「はい! 主、あなたがそれを望むなら!」
ミルフィアも片腕を天に指す。すると天空に金色の波紋が円形に広がっていった。いくつもの波が空を走っていく。
それは真の神を称える紋様であり世界の書き換えだ。神理で得た強化すら打ち消していく。
それは天羽を狙い撃ちにし、地上で戦っていた天羽たちは弱体化、飛べないほどに弱まっていた。
次々に地上へと降りて膝をついている。如何に異能が通じない天羽といえど神愛のこれは格が違う。神理を作った神を作った創造主の法則。無効にできるはずがない。
戦況を覆すほどの強化と弱体化が戦場を覆っていた。これにより一気にゴルゴダ軍が盛り返す。
しかし、敵もそれを見逃すほど甘くない。
天界の門から現れる新手が一斉に神愛たちに向かってきた。まだ弱体化の影響が出ていない。しかもその数は開いた扉と相まって劇的に上がっており、神愛に殺到する数は十万を超えていた。
圧倒的な白、白、白。突如現れた強大な敵に天羽たちの猛攻が迫る。
しかし、神愛には驚きも不安もなかった。
「我が神造体ミルフィア、やつらを弾圧せよ!」
「はい、我が主!」
背後に控えるミルフィアが両手を左右に広げる。それにより生まれる黄金の光は周囲へと走り天羽の大軍すらも吹き飛ばしていった。
無限といえど有象無象。自ら手を下すまでもない。従者であるミルフィアの手により一掃され跡形もなく消えていった。
天羽から見れば悪夢だろう。ヘブンズ・ゲートから呼び出した十万もの軍勢、それが一瞬で、なにも成す前から消滅したのだ。
計画と違う。
想定と違う。
予想と違う。
イレギュラーだ。
紛うことなきイレギュラー。
彼らの思惑を根底から覆す、それは最大のイレギュラーだった。
「まったく、残念だよ」
そこへ、この計画の首謀者が現れた。
ミカエルは神愛の正面へ空間転移で現れた。揺れる空間をかいくぐり現れた彼の表情は苛ついている。目はつり上がりすでに八枚の翼が広がっていた。
「まさかこんなことになるとはね。お前は真っ先に始末しておくべきだったよイレギュラー」
この計画の大詰めでまさかの展開だ。ミカエルの焦りと怒りが伝わってくる。
それに対し神愛は指を突きつけた。
「勝負だミカエル! てめえとの決着を付けてやる!」
この戦いを終わらせるため、すべてに決着をつけるために。
「いいだろう。お前を倒しこの戦いを終わらせてやる!」
二人は同時に空間転移を行った。ここで戦っては周囲への被害が大きすぎる。そのため二人は場所を移動し、宇宙空間へと現れていた。暗黒の場所で白をまとった二人が対峙する。
神愛デュエット・モードと天羽長ミカエルの、決闘が始まった。
「ファンタジー」の人気作品
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