天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

最高の友達

(これからは天下界の無信仰者 6巻の内容となります。また7巻、8巻がAmazonKindleで予約が開始しました。発売日は1/1となります。それでは長らくお待たせしました、本編をお楽しみください)



 ゴルゴダ美術館前の広場には神愛とウリエルがいた。ウリエルは入り口前、階段の上から神愛を見下ろし、神愛は広場の中央からウリエルを見上げている。

 二人はにらみ合う。ウリエルは鋭い中に炎の熱を込めて。神愛は真っ直ぐな気迫を宿し彼女を見据える。

 二人の決闘を前に周囲は興奮とうねりを見せていた。数千度にもなる火柱と輝く金色の柱がいくつも噴き出し、二人の戦意を表している。

 目の前には敵であり友。

 にらみ合う中で、二人には分かっていた。今目の前にいるのは、紛れもなく友なんだと。

 ずっと会いたかった。また話をしたかった。一緒に歩き、笑い合いたかった。

 その相手が今、目の前にいる。本当なら喜びたい。また会えて良かったと。本当の友人のように話したい。

 けれど、状況はそれを許してくれない。相手がそれを認めない。

 ならば、決着だ。

 ただ、大切な友を救いたい。

 これは、そのための戦いだ。

 ウリエルから言われた「君を倒して、ここから離脱してもらう」という言葉に神愛は負けじと言い返した。

「来いよ。俺が勝つ!」

「いいや、勝つのは私だ! 君だけは救ってみせる。それが!」

 ウリエルは階段から飛び神愛めがけ剣を振り下ろす。

「君に返せる、想いのすべてだ!」

 対して神愛も走り出し、黄金を纏う拳を突き出した。

 互いに相手を想うから。

 二人は戦う。二千年前の使命も名誉も関係ない。人類と天羽の決戦も関係ない。

 恵瑠を連れ戻すために。

 神愛を救うために。

 そのために。

 二人は全力を出して戦う。

 激闘が、始まった!

「うおおおおお!」

「はあああああ!」

 神愛の拳とウリエルの剣が衝突した。生まれる衝撃波は周囲の熱を帯びて熱風となり漂う金粉を吹き飛ばす。

 神愛とウリエルは力を押しつけ合った。

「どうした恵瑠、お前の力はこんなもんかよ!?」

漢字ふりがな「舐めるな!」

 ウリエルは後退し間合いを離した。白衣のドレスが揺れ、鎧が掠れる音が響く。白い長髪が風になびいた。その姿は王族の姫のように優雅であり、騎士のように苛烈であった。

「私には勝てない」

 それがウリエル、四大の天羽。神の炎。悪を焼き滅ぼす正義の剣。

「たとえ、君であっても」

 ウリエルは左手に炎を宿した。彼女の顔ほどもある燃え上がるほのお。それを神愛に向け打ち放った。鋼鉄すら蒸発させる圧倒的な熱が神愛に迫る。

 だが、それを見逃す神愛ではない。

「させるかよ!」

 神愛の正面に黄金の壁が現れる。周囲を漂う黄金の粒子が集まり障壁しょうへきとなって防いでいた。

「フン」

 ウリエルは左手を下ろす。

 神愛は本気だ。友人を救うために、取り戻すために今まで全霊で挑んできた。そして大勢の仲間が自分を支えてくれた。

 彼は誰にも止められない。そして絶対に諦めない。

 それはウリエルも同じ。彼に救われた。感謝した。大切な人だという想いは変わっていない。

 彼女はこの想いを絶対に諦めたりしない。

 二人は、一向に退かなかった。

「いくぞ恵瑠! 勝負はこれからだ!」

「来い!」

 神愛が仕掛ける。振り上げる黄金の拳を以て、超加速でウリエルに迫る。強化された肉体は多大な神化と同じ。物理法則を古い輪ゴムのように引き千切り、ウリエルに打ち付けた。

 彼女は、それを剣で軽く跳ね除ける。

「ち!」

 神愛は打ち付けた片手を軽く振るう。

 ウリエルは剣を振った姿勢で神愛を冷たく睨みつけていた。

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