天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

行ってきなさい。今回はあんたに花持たせてあげるわ

 神愛は走る。こうなれば恐れるものなどなにもない。だが敵も必死だ。

 東広場から一部が妨害に流れ神愛の前に立ちはだかる。

「まだいるのかよッ」

 まだ目的地は先だ。建物に挟まれた通りが続く。壁のように立ち塞がる天羽は本当にきりがない。

 天羽たちは陣形を組み矢を構える、その時――

「雷切心典光!」

 目の前に広がる敵を雷撃が襲っていた。

「加豪!?」

「私もいるわよ」

「お前もいたのか」

 天和もいた。

 加豪は路地裏から飛び出しその手には雷切心典光が握られている。

 天和はいつの間にか神愛の背後に立っておりボーとした顔で見上げていた。

「神愛、無事!?」

 天羽を退け加豪も神愛へと駆け寄る。

「お前ら、無事だったか」

「あんたも無事でよかったわ」

 加豪たちの姿を見れてホッとする。二人も支点を守護する天羽打倒のために戦っていた。

 もしかしたら取り返しのつかないことになっていたかもしれない。

 それがこうして再会できたことが素直にうれしかった。

「ええ」

 そのことに天和も同意する。

「神愛、残る支点はあと一つ、この先だけよ」

「そうか」

 神愛は道の先を見た。この戦いも終盤、すべてを終わらせるためにはここを突破しなくてはならない。

 神愛は真剣な顔で加豪に振り返った。

「まかせていいか?」

 この場にいる天羽を引き留めること。並大抵のことではない。困難であるしなにより危険だ。

 多勢に無勢、不利なのは言うまでもない。

「フッ」

 けれど、加豪は笑った。

 神愛の頼みを聞くと雷切心典光を肩に乗せながら道の中央へと歩いていく。天羽たちを前にして立った。

「行ってきなさい。今回はあんたに花持たせてあげるわ」

 神愛に振り向いてそう言う顔は、不敵に笑っていた。

 天和も歩き出し加豪の隣に並ぶ。

「宮司君、がんばってね」

 天和も応援してくれる。

 はじめてできた友人。その二人が自分を励まし、道を作ろうとしてくれている。

 その思いに感謝した。そして応えないわけにはいかない。

「ああ!」

 神愛は加豪と天和と一緒に走り出した。天羽も迎い打ってくる。

 神愛の拳と加豪の刀身で敵を倒しながら進み道を開いていく。

 接近戦ではこの二人を止められない。

 天羽たちは一度距離を取り弓矢で応戦する。

 その隙を逃さず神愛は一点突破。強化した力を溜めた一撃で正面の敵を三十体同時に吹き飛ばす。

 矢を構える周囲の天羽は加豪が跳躍すると雷切心典光を回し全体に電撃を放った。

 神愛、天羽たちを突破する。神愛の背中に天羽たちも目を向けるが、そのまま追おうとして彼女に背中を見せた者から感電するか斬り伏せられていった。

「行かせないわよ、あいつは約束を守るために向かってる。それを、邪魔するな!」

 加豪は雷切心典光を振るった。気合は衰えない。むしろ上がっている。この場面にきて、一番戦意が昂っていた。

 神愛が生きていた。そしてまだ諦めていない。

 交わした約束を。

 なら、それができるようにしてあげたい。彼女は加豪にとっても大切な友人だけれど、あいつに比べたら敵わない。

 あの男にとって、友達とは命の恩人みたいなものだから。

 馬鹿もした。まさに無謀。ゴルゴダ共和国に喧嘩を売って、パレードに乱入して、檻に入れられて。

 それでもまだ――

「あいつはまだ、諦めてなんかいない!」

 だから、ここが正念場。この場にいる天羽は一体たりとも追わせはしない。

 加豪の気迫に触発されてか、天和は隣で佇みながらも天羽を見て言った。

「そう、天羽の使命だがなんだか知らないけど、私たちにはどうでもいいことだもの」

 二千年の使命と名誉? 天羽の存在意義? 知ったことじゃない。そんなことよりももっと分かり易く単純なことがある。

「彼、泣いてたから」

 二人の友人が喧嘩して、別れてしまった。だから仲直りしなくてはならない。

「笑ってる方が、私はいいと思う。だから退いて。邪魔なのはあなたたちの方よ」

 天和は言い切った。

 共通の友人のために加豪と天和は天羽と対峙する。相手はまだ百体以上はいるが怯えはない。

 それを上回る熱が胸で燃えている。

 加豪は雷切心典光を構え切っ先を天羽に向ける。そして隣に立つ天和に言い掛けた。

「いい天和? もう一度言うけど絶対離れないでね? フリとかじゃないから。本気だからね!?」

「大丈夫、今度は消えないわ。…………たぶん」

 彼女の答えに加豪は一抹の不安を覚えつつ、それもすぐに切り替えて。

 加豪と天和は走り出し、天羽たちと戦った。

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