天下界の無信仰者(イレギュラー)
まるで服を着るように人を殺すかのような感性
対して五十鈴と呼ばれた彼女は何食わぬ顔で応えると、ビシ、ビシっとポーズをきめ出した。
「無我無心の上忍くノ一五十鈴、常に天和殿の護衛としてお傍に控えているでござる。にんにん」
最後には両手を合わせ印を結び目を瞑っていた。どことなく満足気である。
ここは戦場だ。にも関わらずポーズを取っている辺りずいぶんと緊張感に欠けた忍だが、しかし空間から出てきたというその事実。
それだけで彼女が超越者なのは確実だ。
上忍というのがエリートを指す言葉なのは容易に想像がつくがどうやらその通りの実力者らしい。
そんな五十鈴にも普段通りに天和は聞いていた。
「護衛っていうならなんでさっき助けてくれなかったの?」
「いや、護衛というのはあくまで建て前であって、本当は監視が任務でござる。ていうか、天和殿より強い人いるんですか?」
五十鈴の言う通り、ラファエルを瞬時に倒せる天和に護衛は必要ないだろう。であれば目的は監視しかない。
「そう言うなら護衛なんて止めてサボっちゃえばいいのに」
「そういうわけにはいかぬでござるよ~。天和殿のことでなにかあれば拙者が半蔵殿から叱られてしまうでござる。お叱りは嫌でござるぅ~」
そう言いながら五十鈴は頭を突き出すと両目から涙を流した。
どういう理屈か涙は瞳と繋がっており振り子のように左右に揺れていた。器用なものである。
「ふーん」
しかし天和、これをスルー。
「いや、ふーんではござらぬよ。いきなり四大天羽を倒してしまって、天和殿のことが露呈したらどうするでござるか」
「それよりも、こうして天界の門が半分開いてるわけだけど、毘沙門天はなにしてんの?」
「いえ、別段なにも?」
天和は真剣な雰囲気で聞いていたのだが、五十鈴はあっけらかんに言う。天和がじと目で見つめるも両肩を下ろすだけだった。
「するわけないではござらぬか~。もともと無我無心は世界がどうなろうと知ったことじゃない、っていう人間のクズみたな方が役職上になっていくんですから。毘沙門天殿はそれに比べて責任感が強いので全般の指示を任されていますが、役職自体はそんなに高くないですからねあの人」
天界の門という人類全体に関わる問題だが、それを把握しておきながら無我無心は静観を決め込んでいるようだった。
無我無心の性質上、強くなればなるほど感情や関心が希薄になるのだから当然なのかもしれないが、それにしても悠長すぎる。
天和は五十鈴から目を離すと、曇天の空を見上げていた。
「無我無心って、強いのに使えないのが痛いわね」
「……それ、天和殿が言います?」
今日のおまいうである。
「そう言うなら天和殿がなんとかしてくださいよ。天和殿なら一瞬でござろう?」
「めんどくさい」
「……いや、めんどくさいって。さきほどあなたが――」
「五十鈴」
「はい」
「めんどくさい」
「分かりましたよもう~」
この人のマイペースには同じ無我無心といえどお手上げだ。どうすることもできない。
次の瞬間、五十鈴の目は鋭く細められ教会を見上げていた。視線のさきには倒したはずのラファエルがいた。
「……まだ生きてますね、あの天羽」
そう言うと五十鈴の手にはいつの間にかクナイが握られており慣れた手つきで逆手に持つ。
おどけていた彼女から静かな殺意が漏れる。まるでスイッチが切り替わったように、自然なまでの意識の移り方だった。
まるで服を着るように人を殺すかのような感性。
間違いなく、彼女は殺人に身を置いた闇の住人だった。
「無我無心の上忍くノ一五十鈴、常に天和殿の護衛としてお傍に控えているでござる。にんにん」
最後には両手を合わせ印を結び目を瞑っていた。どことなく満足気である。
ここは戦場だ。にも関わらずポーズを取っている辺りずいぶんと緊張感に欠けた忍だが、しかし空間から出てきたというその事実。
それだけで彼女が超越者なのは確実だ。
上忍というのがエリートを指す言葉なのは容易に想像がつくがどうやらその通りの実力者らしい。
そんな五十鈴にも普段通りに天和は聞いていた。
「護衛っていうならなんでさっき助けてくれなかったの?」
「いや、護衛というのはあくまで建て前であって、本当は監視が任務でござる。ていうか、天和殿より強い人いるんですか?」
五十鈴の言う通り、ラファエルを瞬時に倒せる天和に護衛は必要ないだろう。であれば目的は監視しかない。
「そう言うなら護衛なんて止めてサボっちゃえばいいのに」
「そういうわけにはいかぬでござるよ~。天和殿のことでなにかあれば拙者が半蔵殿から叱られてしまうでござる。お叱りは嫌でござるぅ~」
そう言いながら五十鈴は頭を突き出すと両目から涙を流した。
どういう理屈か涙は瞳と繋がっており振り子のように左右に揺れていた。器用なものである。
「ふーん」
しかし天和、これをスルー。
「いや、ふーんではござらぬよ。いきなり四大天羽を倒してしまって、天和殿のことが露呈したらどうするでござるか」
「それよりも、こうして天界の門が半分開いてるわけだけど、毘沙門天はなにしてんの?」
「いえ、別段なにも?」
天和は真剣な雰囲気で聞いていたのだが、五十鈴はあっけらかんに言う。天和がじと目で見つめるも両肩を下ろすだけだった。
「するわけないではござらぬか~。もともと無我無心は世界がどうなろうと知ったことじゃない、っていう人間のクズみたな方が役職上になっていくんですから。毘沙門天殿はそれに比べて責任感が強いので全般の指示を任されていますが、役職自体はそんなに高くないですからねあの人」
天界の門という人類全体に関わる問題だが、それを把握しておきながら無我無心は静観を決め込んでいるようだった。
無我無心の性質上、強くなればなるほど感情や関心が希薄になるのだから当然なのかもしれないが、それにしても悠長すぎる。
天和は五十鈴から目を離すと、曇天の空を見上げていた。
「無我無心って、強いのに使えないのが痛いわね」
「……それ、天和殿が言います?」
今日のおまいうである。
「そう言うなら天和殿がなんとかしてくださいよ。天和殿なら一瞬でござろう?」
「めんどくさい」
「……いや、めんどくさいって。さきほどあなたが――」
「五十鈴」
「はい」
「めんどくさい」
「分かりましたよもう~」
この人のマイペースには同じ無我無心といえどお手上げだ。どうすることもできない。
次の瞬間、五十鈴の目は鋭く細められ教会を見上げていた。視線のさきには倒したはずのラファエルがいた。
「……まだ生きてますね、あの天羽」
そう言うと五十鈴の手にはいつの間にかクナイが握られており慣れた手つきで逆手に持つ。
おどけていた彼女から静かな殺意が漏れる。まるでスイッチが切り替わったように、自然なまでの意識の移り方だった。
まるで服を着るように人を殺すかのような感性。
間違いなく、彼女は殺人に身を置いた闇の住人だった。
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