天下界の無信仰者(イレギュラー)
信じよ、信じよ、信仰こそ我が力
ヨハネは全神経を集中させた。視界だけではない、聴覚まで使い敵の出現を察知する。なによりもそこは感、戦場で培ってきた戦士としての第六感が明暗を分かつ。
ヨハネは動いた。右からくるヤコブの上段斬りを横にずれて躱し、左からくる横薙ぎを屈んだ。
 すぐに上空からヤコブが振り被って下りてくるのを射撃する。ヤコブは消えるが右、背後、前と場所を変えて現れる。
その瞬間、ヤコブが現れると同時にヨハネは射撃した。唯一攻撃を与えられるカウンター。ヤコブが現れる瞬間を狙って撃ち、ヤコブはすぐに消える。
 瞬発的な攻防は間合いを無くした高速戦だ、剣風と銃声が鳴り響く。
ヤコブは出現すると盾を前に突き出しヨハネは体勢が崩された。その隙にヤコブは蹴り上げヨハネはガードしたものの地面を引きずられてしまった。
二人の距離が開ける。ヨハネは銃口を、ヤコブは盾と剣を構える。銃士と騎士の戦いはヤコブがやや有利なもののほぼ互角。どちらが勝ってもおかしくない勝負だった。
「腕は鈍っていないようだな」
「あなたがそう言うのでしたらそうでしょうね。自分で言うのもなんですが、ここまで競り合えている自分に私自身驚いていますよ」
「だろうな」
ヨハネの動きにはブランクを感じさせない。ここまでヤコブとやり合い立っているのがその証拠。他の者なら即座に倒されている。それはヤコブも認めていた。
強い。楽には勝てない。ヨハネも。なによりヤコブだ。
伝統的な武装は時代遅れの骨董品、実戦では役に立たないと考える者もいるだろう。そもそも剣と銃では勝負は見えている。なるほど確かに。
 しかしそれは前時代の話だ、まだ神理がなかった頃の。それこそ時代遅れの発想だ。
位階オラクルまでなれば次元に干渉できる。空間を転移できれば間合いは存在しない。それならばむしろ銃より剣の方が強い。武器などしょせんは道具。重要なのは扱う信仰者の格だ。
その点ヤコブは敵としては最悪だろう。空間転移によって常に間合いを取られる上にあの盾が厄介だ。こちらの攻撃を無効にされ一方的に攻撃を受けている。
攻め手に欠ける。ヨハネの苦戦はそこに尽きた。
ならば、残された手は一つだけ。
ヨハネは静かにつぶやき始めた。
「全ての、疲れた者よ、苦しむ者よ、私のところへ来るがいい」
「ほう」
その言葉に険しい顔のヤコブがさらに眉間にしわを寄せる。なぜならそれがなんなのか知っている。
「争う者よ、剣を捨て、悩める者よ、責めるのを止めよ。私は、汝らの嘆きと悲しみがなくなくなることを、誰よりも願う者。この地上から、全ての痛みが無くならんことを祈る者」
一定の信仰心を持たなければ得ることの出来ない神の恩恵。
 神造兵器。物質も霊的存在であろうとも、果ては以前にはいた魔術師が作り出した概念存在であろうともこれには敵わない。
これこそは、神が贈る栄光たる証だからだ。
「故に我らが天主イヤスよ、我が祈りに応えたまえ。救済の光にて照らしたまえ」
それをヨハネは表す。信仰者の中でも高位者の証となる神の贈り物を。
「神託物、招来」
その名も――
「神を見つめる深紅の能天羽」
ヨハネの背後に光が集い、そして弾ける。
そこにいたのは一人の女性型の天羽だった。名をカマエル。白衣に身を纏い赤い髪はウェーブがかかっている。
 右手には大剣を。左手には盾を。その目は戦意に燃え悪と永劫戦うことを誓った瞳を輝かせていた。純白の翼を広げ、いつでも戦える覚悟で剣を構える。
これがヨハネの神託物。大きさは人とさほど変わらないもののその身は高位の存在だ。
その神託物に睨まれ、しかしヤコブは臆していなかった。鋭い目つきを乱すことなく対峙する。
そのヤコブが口を開いた。
「信じよ、信じよ、信仰こそが我が力」
声に神気が宿る。己の信仰を言葉に変えて届かせるのだ、天に向かって。
「恐れることはない。今こそは耐える時。いかなる迫害に遭おうとも、死が頭上に降りるまで叫ぶのだ。我は信じ、信じる者は救われるのだと!」
ここに二つ目の詠唱が上がる。天上の神々に轟かせるのだ、あなたを称え、あなたの教えを信じる者がここにいると。
「神託物、招来」
ヤコブは剣を頭上へ掲げた。雷を思わせる大声で叫ぶ。
「神を見つめる勝利の権天羽!」
ヤコブの背後に光が集い、そして弾ける。
そこにいたのは一人の女性型の天羽だった。名をハニエル。黒い髪は長く六枚の翼を背中から生やしている。
 白衣を身にまとい両手用の戦斧を構えていた。その瞳は鋭くヨハネと同じ神託物を見つめている。
「それがハニエル」
ヨハネはヤコブの神託物を見上げた。六枚の翼と鮮烈な闘志、そしてハルバートの刃。勝利を司るとも言われるのがヤコブの神託物だった。
ヨハネは動いた。右からくるヤコブの上段斬りを横にずれて躱し、左からくる横薙ぎを屈んだ。
 すぐに上空からヤコブが振り被って下りてくるのを射撃する。ヤコブは消えるが右、背後、前と場所を変えて現れる。
その瞬間、ヤコブが現れると同時にヨハネは射撃した。唯一攻撃を与えられるカウンター。ヤコブが現れる瞬間を狙って撃ち、ヤコブはすぐに消える。
 瞬発的な攻防は間合いを無くした高速戦だ、剣風と銃声が鳴り響く。
ヤコブは出現すると盾を前に突き出しヨハネは体勢が崩された。その隙にヤコブは蹴り上げヨハネはガードしたものの地面を引きずられてしまった。
二人の距離が開ける。ヨハネは銃口を、ヤコブは盾と剣を構える。銃士と騎士の戦いはヤコブがやや有利なもののほぼ互角。どちらが勝ってもおかしくない勝負だった。
「腕は鈍っていないようだな」
「あなたがそう言うのでしたらそうでしょうね。自分で言うのもなんですが、ここまで競り合えている自分に私自身驚いていますよ」
「だろうな」
ヨハネの動きにはブランクを感じさせない。ここまでヤコブとやり合い立っているのがその証拠。他の者なら即座に倒されている。それはヤコブも認めていた。
強い。楽には勝てない。ヨハネも。なによりヤコブだ。
伝統的な武装は時代遅れの骨董品、実戦では役に立たないと考える者もいるだろう。そもそも剣と銃では勝負は見えている。なるほど確かに。
 しかしそれは前時代の話だ、まだ神理がなかった頃の。それこそ時代遅れの発想だ。
位階オラクルまでなれば次元に干渉できる。空間を転移できれば間合いは存在しない。それならばむしろ銃より剣の方が強い。武器などしょせんは道具。重要なのは扱う信仰者の格だ。
その点ヤコブは敵としては最悪だろう。空間転移によって常に間合いを取られる上にあの盾が厄介だ。こちらの攻撃を無効にされ一方的に攻撃を受けている。
攻め手に欠ける。ヨハネの苦戦はそこに尽きた。
ならば、残された手は一つだけ。
ヨハネは静かにつぶやき始めた。
「全ての、疲れた者よ、苦しむ者よ、私のところへ来るがいい」
「ほう」
その言葉に険しい顔のヤコブがさらに眉間にしわを寄せる。なぜならそれがなんなのか知っている。
「争う者よ、剣を捨て、悩める者よ、責めるのを止めよ。私は、汝らの嘆きと悲しみがなくなくなることを、誰よりも願う者。この地上から、全ての痛みが無くならんことを祈る者」
一定の信仰心を持たなければ得ることの出来ない神の恩恵。
 神造兵器。物質も霊的存在であろうとも、果ては以前にはいた魔術師が作り出した概念存在であろうともこれには敵わない。
これこそは、神が贈る栄光たる証だからだ。
「故に我らが天主イヤスよ、我が祈りに応えたまえ。救済の光にて照らしたまえ」
それをヨハネは表す。信仰者の中でも高位者の証となる神の贈り物を。
「神託物、招来」
その名も――
「神を見つめる深紅の能天羽」
ヨハネの背後に光が集い、そして弾ける。
そこにいたのは一人の女性型の天羽だった。名をカマエル。白衣に身を纏い赤い髪はウェーブがかかっている。
 右手には大剣を。左手には盾を。その目は戦意に燃え悪と永劫戦うことを誓った瞳を輝かせていた。純白の翼を広げ、いつでも戦える覚悟で剣を構える。
これがヨハネの神託物。大きさは人とさほど変わらないもののその身は高位の存在だ。
その神託物に睨まれ、しかしヤコブは臆していなかった。鋭い目つきを乱すことなく対峙する。
そのヤコブが口を開いた。
「信じよ、信じよ、信仰こそが我が力」
声に神気が宿る。己の信仰を言葉に変えて届かせるのだ、天に向かって。
「恐れることはない。今こそは耐える時。いかなる迫害に遭おうとも、死が頭上に降りるまで叫ぶのだ。我は信じ、信じる者は救われるのだと!」
ここに二つ目の詠唱が上がる。天上の神々に轟かせるのだ、あなたを称え、あなたの教えを信じる者がここにいると。
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ヤコブは剣を頭上へ掲げた。雷を思わせる大声で叫ぶ。
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