天下界の無信仰者(イレギュラー)
予感
ミルフィアの攻撃が終わった後、メタトロンの足元には教皇エノクとペトロが立っていた。神愛とミルフィアが逃走したことによりエノクはメタトロンを消す。
全長百メートルの巨体は光の粒子となり天へと帰っていった。残されたのは教皇と聖騎士、そして建物の瓦礫だけだ。
「やりますね、あの少女。三次元ですが超越者です。それにこの火力、侮れない」
ペトロは街の惨状を見渡す。辺りは壊滅状態だ。この場も余熱で本来なら息をすることも出来ない高温だがそこは信仰者。物理耐性を持つ彼らには通用しない。
「迅速に対処しなければ」
「そうだな。だが先にすべきことがある」
さきほどまで歓声に満ちていた場所の有様に、しかし二人は悲観することなく気丈としている。
それは異常なことと言えた。本来なら絶望に唖然とするか狂乱してもおかしくない光景だ。ここはまるで崩壊した世界のようで、犠牲者がいないとしてもこの有様は変えられない。
これでは住居はもちろんのこと経済にだって打撃を受ける。戦略兵器を使用されたのと変わらない。
そんな惨状であるというのにエノクは動揺すらしていなかった。静かに数歩進み焦げ付いた大地を踏みしめる。そして見る影もなくなった街の残骸に向け手を翳した。
するとエノクの足元から光が広がっていった。円形に、それは水面に小石を落としたように広がっていく。
そして、街が復元していったのだ。
それは時間の逆行か。いいや、そんなものではない。復元でもない。書き換えているのだ。この世界そのものを。
気づけば目の前に広がるのは破壊前の街並みだった。十階建てにもなる建物が並び道路にはヒビ一つない。街路樹の葉の一枚の誤差なく世界は元通りとなっていた。
「お見事です」
「なに、もともと直す気だった。最初は私が壊していたしな」
焦土と化した街を瞬く間に修復するその神業にペトロは頭を下げる。エノクの返事に顔を上げた。
「全力を挙げやつらの検挙に当たります」
「うむ」
ペトロは強い意志で教皇に告げる。誕生祭のパレードを阻止されただけでなく都市を壊滅させられたのだ。ここまでのことをされて黙っていることなど出来ない。
そんなペトロの視線に軽く頷き、エノクは神愛たちが転移した場所を見た。数十キロ離れた場所の屋上だ。
「それにしても、あの少女」
その場所を、まるで懐かしむかのように見つめていた。
「……まさかな。『もう六十年も経っている』」
そのつぶやきは名残惜しさを感じさせる響きがあって、言うとエノクは踵を返した。
「宮殿に戻るぞ」
「はい」
エノクの言葉にペトロは返事をし、二人の姿は瞬時にこの場から消えた。
残されたのは新品の街。
そこに、彼らの激闘を残すものはなにもなかった。
全長百メートルの巨体は光の粒子となり天へと帰っていった。残されたのは教皇と聖騎士、そして建物の瓦礫だけだ。
「やりますね、あの少女。三次元ですが超越者です。それにこの火力、侮れない」
ペトロは街の惨状を見渡す。辺りは壊滅状態だ。この場も余熱で本来なら息をすることも出来ない高温だがそこは信仰者。物理耐性を持つ彼らには通用しない。
「迅速に対処しなければ」
「そうだな。だが先にすべきことがある」
さきほどまで歓声に満ちていた場所の有様に、しかし二人は悲観することなく気丈としている。
それは異常なことと言えた。本来なら絶望に唖然とするか狂乱してもおかしくない光景だ。ここはまるで崩壊した世界のようで、犠牲者がいないとしてもこの有様は変えられない。
これでは住居はもちろんのこと経済にだって打撃を受ける。戦略兵器を使用されたのと変わらない。
そんな惨状であるというのにエノクは動揺すらしていなかった。静かに数歩進み焦げ付いた大地を踏みしめる。そして見る影もなくなった街の残骸に向け手を翳した。
するとエノクの足元から光が広がっていった。円形に、それは水面に小石を落としたように広がっていく。
そして、街が復元していったのだ。
それは時間の逆行か。いいや、そんなものではない。復元でもない。書き換えているのだ。この世界そのものを。
気づけば目の前に広がるのは破壊前の街並みだった。十階建てにもなる建物が並び道路にはヒビ一つない。街路樹の葉の一枚の誤差なく世界は元通りとなっていた。
「お見事です」
「なに、もともと直す気だった。最初は私が壊していたしな」
焦土と化した街を瞬く間に修復するその神業にペトロは頭を下げる。エノクの返事に顔を上げた。
「全力を挙げやつらの検挙に当たります」
「うむ」
ペトロは強い意志で教皇に告げる。誕生祭のパレードを阻止されただけでなく都市を壊滅させられたのだ。ここまでのことをされて黙っていることなど出来ない。
そんなペトロの視線に軽く頷き、エノクは神愛たちが転移した場所を見た。数十キロ離れた場所の屋上だ。
「それにしても、あの少女」
その場所を、まるで懐かしむかのように見つめていた。
「……まさかな。『もう六十年も経っている』」
そのつぶやきは名残惜しさを感じさせる響きがあって、言うとエノクは踵を返した。
「宮殿に戻るぞ」
「はい」
エノクの言葉にペトロは返事をし、二人の姿は瞬時にこの場から消えた。
残されたのは新品の街。
そこに、彼らの激闘を残すものはなにもなかった。
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