天下界の無信仰者(イレギュラー)
変わってきている
「はあ、はあ。なんとか逃げ切れたな」
「サイテー。まさかこんなことになるなんて」
「大丈夫って言ったろ?」
「いきあたりばったりのどこが大丈夫なのよ」
加豪は不満そうに吐き捨てる。まあ分かるけど。でも分かって欲しい。
するとミルフィアからも心配した顔をして俺に近づいてきた。
「主。私からもいわせていただきますが、あまり無茶な行動は控えてください。心配です」
「んだよ! そんなに俺の行動が無茶だってか?」
「……はい」
くそ!
「そもそもな、お前らが昨日先に襲撃受けるなんてヘマするからこうなってんだろうが!」
「!?」
俺は三人に向かって叫ぶが、その瞬間ミルフィアの肩がビクッと震えた。
「ん? ミルフィアどうした?」
「いえ、なんでもありません」
なんで顔を背けるんだ?
「それで。こうして宮司君と合流出来たわけだけど。これからどうするの?」
そこで天和が聞いてきた。こいつは相変わらず無表情だな。
「そうだな。まずは今後のこと話し合わないと」
「ねえ宮司君。栗見さんだけど途中まで一緒にいたんでしょう。今どこにいるか知らないの?」
「わりい。恵瑠は聖騎士のペトロってやつに持っていかれた。一瞬で恵瑠を捕まえるとそのまま消えちまったんだ。どこに行ったかは分からねえ」
ペトロと二度目に出会った時、あいつは俺の背後にいたはずの恵瑠を自分の腕の中に出現させすぐに消えてしまった。いきなりのことに防ぐのも追いかけることも出来ない。早業だった。
「そもそもあいつらなんなんだ? いきなり現れたり消えたりしたぞ」
ペトロは出現した時も帰る時も空間からだった。それも自分だけでなく他の人も空間を移動させている。あんなのめちゃくちゃじゃないのか。
「超越者です、主」
「オラクル?」
なんのことだか分からない、初めて聞く言葉だった。
「それについては後で説明します。それよりも恵瑠の居場所をなんとかしないと」
オラクルというのがどういうものか気になるが今話すことじゃない。脱線してしまったが恵瑠の居場所についてなんとかしないと。
「なあ、ラファエルやガブリエルは知らないのか? 調べてるんだろ?」
「むこうでも探してくれてるみたいだけど、まだ見つかってはいないようね」
俺は地面を蹴った。その場を回りなにかいい案がないか考えるが出てこない。
「どうするんだよ、時間がないぞ! あいつらは容赦なく恵瑠を襲ってた。今も無事だって保証はないんだ」
焦る。時間がない。でも場所が分からないんじゃ助けようがない。
「くそ、知ってる奴はいないのかよ」
居ても立ってもいられないのに、もどかしい思いだけが溜まっていく。
その時だった。壁に貼られた広告紙が目に入った。
『教皇誕生祭パレード! 午前十時半から開始! 進行通路はこちら』
「…………」
そこには今日が教皇の誕生祭であることとパレードの道順が地図で書かれていた。さらにはあのペトロも参加すると写真が載ってある。
恵瑠のことですっかり忘れていたが今日は教皇の誕生祭だ。当然そこには教皇もいるし、あのペトロも出場する。
それで俺はある覚悟を決めた。
「ミルフィア、加豪、天和。お前たちはさきにサン・ジアイ大聖堂に戻って恵瑠の居場所が見つからないか聞いてきてくれ」
「主は?」
ミルフィアが聞いてくるが、俺は三人に背を向けた。
「俺はちょっと野暮用だ」
「こんな時に?」
背中から加豪の声が聞こえてくる。
「トイレだよ。すぐに戻るさ」
そう言って俺は歩き出した。三人から離れていく。
一人で道を歩きしばらくしてだった。
「なにも言わず、お一人で行くつもりですか?」
背後からミルフィアに声をかけられ足が止まった。どうやら一人だけついてきたらしい。
「別になんでもねえよ。心配すんなって。お前はあいつらと一緒にさき帰ってろ」
背後から足音がする。ミルフィアは俺を追い抜くと前に回り込んできた。
ミルフィアの小さな顔。そこにある青い瞳が、俺を真剣な眼差しで見上げていた。
「なりません主。危険すぎます」
「ミルフィア、俺はさきに帰ってろって言ったはずだぜ」
「はい。主はそう言いました。ですが」
ミルフィアが一歩前に出る。不安そうな顔で俺に近づいてくる。
それは、前からでは考えられないことだった。
「お願いです、主」
かつてのミルフィアなら、俺の言うことなら一言返事で従っていた。それが本人の意思とは反することでも。
そう、どんな命令でもだった。
『命令だ。もう、二度と俺の前に出て来るな』
泣くほど辛いことでも。泣くほど悲しいことでも。
『……はい。我が主……、あなた、が……、それを望むなら……ッ』
ミルフィアは、はいと言っていた。
だけど、今のミルフィアは違う。前と同じように俺と接してくれるのに、ちゃんと自分の意見を言ってくれる。ただ従うだけの奴隷じゃない。
ちゃんと自分の意思のある、女の子に変わってきている。
そんなミルフィアが、心配そうな顔で俺に言ってくるのだ。
「私を、主の傍にいさせてください。もう、主と離れたくないんです」
「ミルフィア……」
きれいなミルフィアの目が俺をまっすぐに見つめている。その声に彼女の想いが伝わってくる。きっと別れてから俺のことを心配してくれてたんだと思う。俺が捕まったと聞いてもっと心配かけさせたと思う。
ミルフィアは俺の前に立って引き下がらない。
ミルフィアは、こんなにも俺のことを思ってくれていたんだ。
「分かったよ」
そんなミルフィアの気持ちを裏切れない。こいつの変化を誰よりもうれしく思ってる俺だから、ここでいいえなんて言えなかったんだ。
「よし」
俺は表情に気合を入れた。そして見つかった行き先に顔を向けた。
「いくぜ」
「はい」
二人揃って、俺たちは走り出した。
「サイテー。まさかこんなことになるなんて」
「大丈夫って言ったろ?」
「いきあたりばったりのどこが大丈夫なのよ」
加豪は不満そうに吐き捨てる。まあ分かるけど。でも分かって欲しい。
するとミルフィアからも心配した顔をして俺に近づいてきた。
「主。私からもいわせていただきますが、あまり無茶な行動は控えてください。心配です」
「んだよ! そんなに俺の行動が無茶だってか?」
「……はい」
くそ!
「そもそもな、お前らが昨日先に襲撃受けるなんてヘマするからこうなってんだろうが!」
「!?」
俺は三人に向かって叫ぶが、その瞬間ミルフィアの肩がビクッと震えた。
「ん? ミルフィアどうした?」
「いえ、なんでもありません」
なんで顔を背けるんだ?
「それで。こうして宮司君と合流出来たわけだけど。これからどうするの?」
そこで天和が聞いてきた。こいつは相変わらず無表情だな。
「そうだな。まずは今後のこと話し合わないと」
「ねえ宮司君。栗見さんだけど途中まで一緒にいたんでしょう。今どこにいるか知らないの?」
「わりい。恵瑠は聖騎士のペトロってやつに持っていかれた。一瞬で恵瑠を捕まえるとそのまま消えちまったんだ。どこに行ったかは分からねえ」
ペトロと二度目に出会った時、あいつは俺の背後にいたはずの恵瑠を自分の腕の中に出現させすぐに消えてしまった。いきなりのことに防ぐのも追いかけることも出来ない。早業だった。
「そもそもあいつらなんなんだ? いきなり現れたり消えたりしたぞ」
ペトロは出現した時も帰る時も空間からだった。それも自分だけでなく他の人も空間を移動させている。あんなのめちゃくちゃじゃないのか。
「超越者です、主」
「オラクル?」
なんのことだか分からない、初めて聞く言葉だった。
「それについては後で説明します。それよりも恵瑠の居場所をなんとかしないと」
オラクルというのがどういうものか気になるが今話すことじゃない。脱線してしまったが恵瑠の居場所についてなんとかしないと。
「なあ、ラファエルやガブリエルは知らないのか? 調べてるんだろ?」
「むこうでも探してくれてるみたいだけど、まだ見つかってはいないようね」
俺は地面を蹴った。その場を回りなにかいい案がないか考えるが出てこない。
「どうするんだよ、時間がないぞ! あいつらは容赦なく恵瑠を襲ってた。今も無事だって保証はないんだ」
焦る。時間がない。でも場所が分からないんじゃ助けようがない。
「くそ、知ってる奴はいないのかよ」
居ても立ってもいられないのに、もどかしい思いだけが溜まっていく。
その時だった。壁に貼られた広告紙が目に入った。
『教皇誕生祭パレード! 午前十時半から開始! 進行通路はこちら』
「…………」
そこには今日が教皇の誕生祭であることとパレードの道順が地図で書かれていた。さらにはあのペトロも参加すると写真が載ってある。
恵瑠のことですっかり忘れていたが今日は教皇の誕生祭だ。当然そこには教皇もいるし、あのペトロも出場する。
それで俺はある覚悟を決めた。
「ミルフィア、加豪、天和。お前たちはさきにサン・ジアイ大聖堂に戻って恵瑠の居場所が見つからないか聞いてきてくれ」
「主は?」
ミルフィアが聞いてくるが、俺は三人に背を向けた。
「俺はちょっと野暮用だ」
「こんな時に?」
背中から加豪の声が聞こえてくる。
「トイレだよ。すぐに戻るさ」
そう言って俺は歩き出した。三人から離れていく。
一人で道を歩きしばらくしてだった。
「なにも言わず、お一人で行くつもりですか?」
背後からミルフィアに声をかけられ足が止まった。どうやら一人だけついてきたらしい。
「別になんでもねえよ。心配すんなって。お前はあいつらと一緒にさき帰ってろ」
背後から足音がする。ミルフィアは俺を追い抜くと前に回り込んできた。
ミルフィアの小さな顔。そこにある青い瞳が、俺を真剣な眼差しで見上げていた。
「なりません主。危険すぎます」
「ミルフィア、俺はさきに帰ってろって言ったはずだぜ」
「はい。主はそう言いました。ですが」
ミルフィアが一歩前に出る。不安そうな顔で俺に近づいてくる。
それは、前からでは考えられないことだった。
「お願いです、主」
かつてのミルフィアなら、俺の言うことなら一言返事で従っていた。それが本人の意思とは反することでも。
そう、どんな命令でもだった。
『命令だ。もう、二度と俺の前に出て来るな』
泣くほど辛いことでも。泣くほど悲しいことでも。
『……はい。我が主……、あなた、が……、それを望むなら……ッ』
ミルフィアは、はいと言っていた。
だけど、今のミルフィアは違う。前と同じように俺と接してくれるのに、ちゃんと自分の意見を言ってくれる。ただ従うだけの奴隷じゃない。
ちゃんと自分の意思のある、女の子に変わってきている。
そんなミルフィアが、心配そうな顔で俺に言ってくるのだ。
「私を、主の傍にいさせてください。もう、主と離れたくないんです」
「ミルフィア……」
きれいなミルフィアの目が俺をまっすぐに見つめている。その声に彼女の想いが伝わってくる。きっと別れてから俺のことを心配してくれてたんだと思う。俺が捕まったと聞いてもっと心配かけさせたと思う。
ミルフィアは俺の前に立って引き下がらない。
ミルフィアは、こんなにも俺のことを思ってくれていたんだ。
「分かったよ」
そんなミルフィアの気持ちを裏切れない。こいつの変化を誰よりもうれしく思ってる俺だから、ここでいいえなんて言えなかったんだ。
「よし」
俺は表情に気合を入れた。そして見つかった行き先に顔を向けた。
「いくぜ」
「はい」
二人揃って、俺たちは走り出した。
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