天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

翌日

 それから時間が経って翌朝。

「うーん、ふぁ~あ……」

 日差しの光を感じて俺は目を覚ました。瞼を擦り窓の方を見てみると開けっ放しの窓から青空が見えた。いい天気だ、上空ではふわふわと雲が流れている。

「おい恵瑠える、起きろ。朝だぞ~」

 俺は体を起こし恵瑠えるに声をかけるが返事がない。まだ寝てんのか?

 それで俺は振り返って見下ろした。が、

「え!?」

 驚いた。というのもそこにいたのは、

「うーん、むにゅむにゃ、チューリップは食べないで、それは飲み物ですよ、むにゃむにゃ」

「なに言ってんだこいつ!?」

 そこにいる恵瑠えるは昨夜までの姿とは違い、いつもの恵瑠えるの姿だったのだ。白いワンピースは学生服に変わっている。

「おい恵瑠える、どの道チューリップを口に入れようとすんな、起きろ」

「あれ……?」

 恵瑠えるの肩を揺らしてやる。それで目を覚ましたようで、まだ眠そうな表情のまま恵瑠えるが体を起こした。ボーとした顔をしているが、その目が俺を見た。

「んー……あ! 神愛君おはようございます!」

「おお、おはよ」

 元気だけはいいなホント。

「それでお前、その格好は」

「え、ボクの服がどうかしました?」

「いや服がじゃなくて」

 この感じ、やっぱり恵瑠えるだ。そしてなんか懐かしい。

「姿だよ姿。なんか戻ってるからさ」

「え……、あ、ホントだ! 神愛君、ボク気づいたんですけど、元に戻ってますよ!」

「うん。だからそれを今言ったんだろうが」

 このアホなやり取りは間違いない、いつもの恵瑠えるだ。

 でも、なんかホッとした。普段のこいつに会えて嬉しく思ってる俺がいる。

 昨夜までの美人なお姉さんもいいけど、なんだろな、今の方が接しやすいというか。まるで旅行先から帰ってきたような安心感がある。

「にしてもどうして元に戻ったんだ?」

「うーん、よく分からないですけどー……。起きてたらこうなってました。……神愛君は、前の方が好きなんですか?」

 恵瑠えるはなんだか寂しそうというか不貞腐れた顔で聞いてきた。

「いいや、今の方が絡みやすいよ」

 そう言って俺は恵瑠えるの額にデコピンする。「アイテ!」と大袈裟なリアクションで恵瑠えるがのけ反った。

「昨日のお前じゃこんなこと出来ないしな」

「うーん、それはそれで納得出来ないんですけどぉ~!」

 額を両手で押さえて恵瑠えるが睨んでくる。だけどぜんぜん怖くない、むしろ可愛らしいくらいだ。

「はっはっはっはっ!」

 そんなこいつを見ていて笑ってしまった。恵瑠えるはやっぱりこうでなくっちゃな。そんな当たり前を改めて自覚した途端笑えてきた。

「ん? ふふふ」

 それで恵瑠えるも口許に手を当てながら笑っていた。理由はよく分かんねえけど、なんかウケる。

「よーし、今日も一日がんばるぞー!」

 恵瑠えるはベッドに立つと拳を天井へと突き上げた。こいつの元気は青天井だな。

 恵瑠えるは笑っている。明るくいつも通りに。

 それをやれやれと、だけどどこか嬉しく俺は見つめていた。

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