天下界の無信仰者(イレギュラー)
話し合い
ガブリエルはそう言うとラファエルと対面になる位置に座った。
「話を始めるって、そのミカエルっていうのから話を聞くんじゃなかったのか?」
俺は疑問に思って聞いてみるがガブリエルは即答した。
「やつは遅れているらしい。ならばすぐに始めて終わらせる。ここにいないやつが悪い」
「ええ、そうしましょう」
「賛成!」
一致団結した!?
ガブリエルは嫌そうに眉間にしわを寄せていた顔から険しい表情へと変えた。
それで、この場の雰囲気が変わった。
「ここに集まってもらったのは他でもない。監視委員会委員長、ラグエル暗殺の件だ」
ガブリエルのするどい視線が全員に向けられる。真剣な空気に体が痺れるほどだ。
「ねえガブリエル、どうしてラグエルが……?」
そこで恵瑠が聞いていた。その顔は悲しそうで、今にも泣きそうだった。
「おかしいよ、ラグエルが誰かに殺されるなんてッ。誰がそんな酷いことをしたの?」
「犯人は現在調査中だが我々を襲撃してきた者たちであることは間違いないだろう」
「さっきの連中か……」
俺は呟いた。学校からここに来るまで派手な襲撃を行なった集団。やつらはいったい何者なんだ?
「今更な警告だが、恵瑠。お前はラグエルと親交があった身だ。犯人がなにを目的に行動しているかは不明だが、再びお前が標的にされる可能性がある。十分に警戒しろ」
「そもそもだ、やつらはなんなんだ? 銃をぶっ放したり武装したヘリまで使ってきたんだぞ。そんなの誰でも出来ることじゃねえ」
「その通りだ」
俺の言い分にガブリエルが頷いた。
「目的は依然不明だが、犯人の目星はついている」
「なに?」
その言葉に食いついた。
「だれだ? いったいどこの馬鹿がこのアホを狙ったんだ!?」
「神愛君ひどい!」
俺の隣に座っている恵瑠から声が上がるが無視する。
恵瑠を襲い、慈愛連立の高官たちを狙う犯人。それをガブリエルは重苦しい空気で口にした。
「教皇、エノクの一派だ」
「教皇、エノク?」
その言葉に俺は顔が少し前に出てしまった。ガブリエルは今なんて言った? ちょっと待って!
「ちょっと待てくれ、教皇って、あの教皇!?」
「そうだ」
俺は戸惑うが反対にガブリエルはどこまでも平静だった。
「どうして教皇がお前らを狙うんだ? 同じ慈愛連立なんだろ? それに教皇ってここのトップじゃねえのかよ」
「立場が違う」
「立場?」
「神愛君、実は慈愛連立には二つのグループのようなものがあるんですよ……」
「二つのグループ?」
俺は隣に振り向いてみると恵瑠は悲しそうな顔をしている。二つのグループというのになにか問題があるらしい。
ガブリエルが続きを話した。
「派閥と言っていい。それが我々神官長派と教皇派だ」
「なんだよそれ、なにが違うんだよ」
「簡単に言えば、我々神官長派はこのゴルゴダ共和国の政治に携わっている。そして教皇派は総教会庁の連中であり教会の運営をしている」
「なんだ、教皇っていうのがぜんぶ指揮してるんじゃないのか? 一番偉いんだろ?」
俺には国や政治の仕組みなんてちんぷんかんぷんだ。それで恵瑠とは反対側の横に座っているミルフィアが教えてくれた。
「主。教皇というのはあくまで慈愛連立のシンボルなんです。そのため信仰者からの人気を一番受ける人物ですが、一人の人間に権力が集中するのは問題があるとして教皇の仕事は教会の運営のみとなっています」
「そうだったのか」
初めて知った。でも確かに一人の人間がなんでも出来るようになってしまうと、その人物が暴走した時止めることが出来なくなるからな。
「その教皇がお前らを襲撃したって?」
「あれほどの装備と規模、お前の言う通り誰もが真似できることではない。教会庁の私設兵のものだろう。教皇庁にはそうした戦力がある。なにを血迷ったかは知らんが我々が邪魔になったらしい」
「それって」
ガブリエルの話を聞きながら俺は怒りが湧いてくるのを感じていた。
俺は知らないが、そのラグエルって人を殺したのも、学校に襲撃を仕掛けたのも、なにより、恵瑠を襲ったその理由が――
「もしかして、お前ら神官長派を消して自分が一番偉くなりたいってことか?」
「可能性の話だ」
「ふざけんな!」
俺は勢いよく立ち上がった。
「そんな身勝手な話があるか! それでこいつを襲っただと?」
どんな理由でも許す気などなかったが、そんなわがままでそいつは恵瑠を殺そうとしたことに怒りが爆発する。
「神愛君落ち着いてください、まだそうと決まったわけではないですから!」
「でもだぜ恵瑠」
恵瑠が俺を見上げ宥めてくる。それでもすぐには受け入れられない話だ。
「いいんです。それに、ボクには思えないんです」
「思えない?」
恵瑠の言っていることが分からず聞き返す。恵瑠は表情を暗くして視線を下げた。
「教皇が、そんなことをするなんて」
神官長派と教皇派。立場は違えと同じ信仰、同じ仲間だ。なのに争うわけがない。しかし状況はそうだと言っている。それが恵瑠も分かっているのか悲しそうだ。
けれど、恵瑠は元気よく顔をあげた。その目は輝き表情は明るい。
恵瑠は諦めていない。まだ信じている。この場で誰よりも。
仲間を。
人を。
慈愛連立という信仰を。
「ボクたちは同じ慈愛連立です! みんなで助け合って笑顔になる。それがボクたちの信仰じゃないですか! なら、教皇派の人たちとだって仲良くなれますよ。みんなで笑顔になるんです!」
「お前……」
まっすぐとそう言う恵瑠はまぶしいほどだった。さきほどあんな目に遭ったのに、それでもこんなことが言える人が何人いるだろう。それだけ恵瑠は前向きで、本当に誰とも仲良くなれると信じているんだ。
「まったく」
そう呟いて俺は座った。
そんなことを大声で言うこいつに呆れるが、同時に嬉しかった。
うん、これがこいつだ。栗見恵瑠という女の子だ。
恵瑠の宣誓のような言葉にガブリエルが応える。
「お前の意向は分かった。しかし襲撃があった事実は変わらない。恵瑠、お前には護衛をつける」
「そんな、大げさだよガブリエル」
「いや、それには俺も賛成だ」
「神愛君まで~」
ガブリエルの提案は俺もいいと思う。恵瑠は抗議の目で見上げてくるがこれは譲れない。
「あのな恵瑠、お前は甘く考えてるかもしえないがまた襲われた時のことを考えてみろ」
「でも」
「でもじゃねえ。それで傷つくのはお前なんだぞ?」
こいつの思いは素晴らしいと思う。でも、どれだけみんなと仲良くなりたいと思っていてもそうはならないのが世の中だ。言うのは辛いが、いざ襲われた時優しさなんてあてにならない。
「そうかもしれないですけど、やっぱりボクに護衛なんて、いいですよ」
しかし恵瑠(える)は頑なに断る。いきなり護衛と言われても戸惑いの方が大きいんだろう。それは分かるがこの状況だぞ。
はあ、どうするかな。俺は考える。
その後俺はやれやれと思ったが、顔を引き締めてガブリエルに聞いてみた。
「ガブリエル、俺から一つ頼みがある」
「なんだ」
俺の真剣な声にガブリエルも真剣な眼差しで応えてくれる。
「その護衛、俺がやるわけにはいかないか?」
「神愛君?」
「本気か?」
恵瑠とガブリエルが聞いてくる。それに一切動揺することなく俺はまっすぐに見つめていた。
そんな俺にミルフィアまでも心配そうに聞いてきた。
「主、それは本気で言っているのですか? それでは主も危険な目に遭ってしまいます」
恵瑠の護衛につくこと。そうすれば当然俺だって命を狙われるかもしれない。
「分かってる。でもだ、こいつだって知らない誰かより知ってる誰かの方が緊張しなくていいだろ。第一、恵瑠が危険な目に遭ってるのに俺だけ安全な場所でなにしてろって言うんだ。こいつが無事でいられますようにって祈れってか? するわけねえだろ。祈るくらいなら俺は行動する」
ミルフィアの心配する気持ちは分かるが俺に退く気はなかった。
「誰かがじゃねえ、俺がこいつを守ってやる」
決意があった。あんな襲撃見せられて、実際に襲われて。それで恵瑠を一人になんて出来ない!
「友達だからな」
「神愛君!」
俺は恵瑠を見ながらそう言った。それで恵瑠は嬉しそうに俺の名前を呼んでくれた。
「はい、主がそう言うのでしたら」
俺の覚悟が伝わったのかミルフィアは目を瞑りながら小さく頷いた。その表情はどこか嬉しそうだ。きっと俺ならこう言うだろうとミルフィアも分かっていたんだろうな。
「祈るくらいなら行動する、か。さすがは無信仰者だな」
そこでガブリエルが呟いた。天下界の無信仰者。神理が広がり信仰するのが当たり前となった天下界でこんな言葉を口にするのは俺くらいのものだろう。
「無信仰者?」
ガブリエルの言葉にラファエルが驚きながら俺を見てきた。俺が誰だか今知ったようだ。
「じゃあ、あなたが宮司神愛君?」
「ああそうだよ、問題か?」
「あ。いえ、ごめんなさい。ただ驚いてしまって」
「いいさ、いつものことだ」
無信仰者で驚かれるのは慣れっこだ。それに悪気はなかったようでラファエルは素直に謝っている。それなら気にする方が小っちゃいってもんだ。
「…………」
その間ガブリエルは無言で俺を見つめていた。しかしその目が少しズレミルフィアを見つめた。
「…………」
「…………」
「……?」
ガブリエルとミルフィアが見つめ合っている。いや、睨み合っているのか? 二人は出会った時からなにかあるみたいだったが、もしかして二人も顔見知りなのだろうか。
「分かった、護衛の件はお前に任せる」
おお!
「まかせろ、あんなやつらに指一本触れさせねえよ。恵瑠、お前も襲撃してきたらちゃんと逃げるんだぞ」
「それはそうなんですけど……」
「まったく、お前ってやつは」
甘いというかなんというか。とりあえずそんなこんなでこいつの護衛は俺がすることになった。
「ま、そういうことなら私もやるわ。あんただけだと心配だしね」
「私も」
「お前ら」
すると加豪と天和もそう言ってくれた。
そして、
「私も。全力で主と恵瑠をお守りします」
ミルフィアも力強い眼差しでそう言ってくれた。
「いいのか?」
護衛というのはミルフィア自身が言ったように危険が伴う。最悪命だって落としかねない。それに言い出したのは俺の我がままなのに。
だけど加豪と天和は頷いて、ミルフィアは笑顔で言ってくれた。
「当然です。主を守るのは本来の務めですし、それに恵瑠は『友達』ですから」
その一言に、驚きに似た喜びが広がる。
「……ああ、そうだな」
ミルフィアの言葉に俺は力強く頷いた。彼女が言ってくれた言葉に胸が熱くなる。
友達、か。
ミルフィアが学校の生徒になってから、少しずつ彼女も変わってきている。こうして友達だと言ってくれる。
それが、俺には嬉しかった。
「ありがとな、ミルフィア」
そんな風に思いながらミルフィアを見ている時だった。
入口の扉が開けられたのだ。
「やあ、全員集まっているのかな?」
「話を始めるって、そのミカエルっていうのから話を聞くんじゃなかったのか?」
俺は疑問に思って聞いてみるがガブリエルは即答した。
「やつは遅れているらしい。ならばすぐに始めて終わらせる。ここにいないやつが悪い」
「ええ、そうしましょう」
「賛成!」
一致団結した!?
ガブリエルは嫌そうに眉間にしわを寄せていた顔から険しい表情へと変えた。
それで、この場の雰囲気が変わった。
「ここに集まってもらったのは他でもない。監視委員会委員長、ラグエル暗殺の件だ」
ガブリエルのするどい視線が全員に向けられる。真剣な空気に体が痺れるほどだ。
「ねえガブリエル、どうしてラグエルが……?」
そこで恵瑠が聞いていた。その顔は悲しそうで、今にも泣きそうだった。
「おかしいよ、ラグエルが誰かに殺されるなんてッ。誰がそんな酷いことをしたの?」
「犯人は現在調査中だが我々を襲撃してきた者たちであることは間違いないだろう」
「さっきの連中か……」
俺は呟いた。学校からここに来るまで派手な襲撃を行なった集団。やつらはいったい何者なんだ?
「今更な警告だが、恵瑠。お前はラグエルと親交があった身だ。犯人がなにを目的に行動しているかは不明だが、再びお前が標的にされる可能性がある。十分に警戒しろ」
「そもそもだ、やつらはなんなんだ? 銃をぶっ放したり武装したヘリまで使ってきたんだぞ。そんなの誰でも出来ることじゃねえ」
「その通りだ」
俺の言い分にガブリエルが頷いた。
「目的は依然不明だが、犯人の目星はついている」
「なに?」
その言葉に食いついた。
「だれだ? いったいどこの馬鹿がこのアホを狙ったんだ!?」
「神愛君ひどい!」
俺の隣に座っている恵瑠から声が上がるが無視する。
恵瑠を襲い、慈愛連立の高官たちを狙う犯人。それをガブリエルは重苦しい空気で口にした。
「教皇、エノクの一派だ」
「教皇、エノク?」
その言葉に俺は顔が少し前に出てしまった。ガブリエルは今なんて言った? ちょっと待って!
「ちょっと待てくれ、教皇って、あの教皇!?」
「そうだ」
俺は戸惑うが反対にガブリエルはどこまでも平静だった。
「どうして教皇がお前らを狙うんだ? 同じ慈愛連立なんだろ? それに教皇ってここのトップじゃねえのかよ」
「立場が違う」
「立場?」
「神愛君、実は慈愛連立には二つのグループのようなものがあるんですよ……」
「二つのグループ?」
俺は隣に振り向いてみると恵瑠は悲しそうな顔をしている。二つのグループというのになにか問題があるらしい。
ガブリエルが続きを話した。
「派閥と言っていい。それが我々神官長派と教皇派だ」
「なんだよそれ、なにが違うんだよ」
「簡単に言えば、我々神官長派はこのゴルゴダ共和国の政治に携わっている。そして教皇派は総教会庁の連中であり教会の運営をしている」
「なんだ、教皇っていうのがぜんぶ指揮してるんじゃないのか? 一番偉いんだろ?」
俺には国や政治の仕組みなんてちんぷんかんぷんだ。それで恵瑠とは反対側の横に座っているミルフィアが教えてくれた。
「主。教皇というのはあくまで慈愛連立のシンボルなんです。そのため信仰者からの人気を一番受ける人物ですが、一人の人間に権力が集中するのは問題があるとして教皇の仕事は教会の運営のみとなっています」
「そうだったのか」
初めて知った。でも確かに一人の人間がなんでも出来るようになってしまうと、その人物が暴走した時止めることが出来なくなるからな。
「その教皇がお前らを襲撃したって?」
「あれほどの装備と規模、お前の言う通り誰もが真似できることではない。教会庁の私設兵のものだろう。教皇庁にはそうした戦力がある。なにを血迷ったかは知らんが我々が邪魔になったらしい」
「それって」
ガブリエルの話を聞きながら俺は怒りが湧いてくるのを感じていた。
俺は知らないが、そのラグエルって人を殺したのも、学校に襲撃を仕掛けたのも、なにより、恵瑠を襲ったその理由が――
「もしかして、お前ら神官長派を消して自分が一番偉くなりたいってことか?」
「可能性の話だ」
「ふざけんな!」
俺は勢いよく立ち上がった。
「そんな身勝手な話があるか! それでこいつを襲っただと?」
どんな理由でも許す気などなかったが、そんなわがままでそいつは恵瑠を殺そうとしたことに怒りが爆発する。
「神愛君落ち着いてください、まだそうと決まったわけではないですから!」
「でもだぜ恵瑠」
恵瑠が俺を見上げ宥めてくる。それでもすぐには受け入れられない話だ。
「いいんです。それに、ボクには思えないんです」
「思えない?」
恵瑠の言っていることが分からず聞き返す。恵瑠は表情を暗くして視線を下げた。
「教皇が、そんなことをするなんて」
神官長派と教皇派。立場は違えと同じ信仰、同じ仲間だ。なのに争うわけがない。しかし状況はそうだと言っている。それが恵瑠も分かっているのか悲しそうだ。
けれど、恵瑠は元気よく顔をあげた。その目は輝き表情は明るい。
恵瑠は諦めていない。まだ信じている。この場で誰よりも。
仲間を。
人を。
慈愛連立という信仰を。
「ボクたちは同じ慈愛連立です! みんなで助け合って笑顔になる。それがボクたちの信仰じゃないですか! なら、教皇派の人たちとだって仲良くなれますよ。みんなで笑顔になるんです!」
「お前……」
まっすぐとそう言う恵瑠はまぶしいほどだった。さきほどあんな目に遭ったのに、それでもこんなことが言える人が何人いるだろう。それだけ恵瑠は前向きで、本当に誰とも仲良くなれると信じているんだ。
「まったく」
そう呟いて俺は座った。
そんなことを大声で言うこいつに呆れるが、同時に嬉しかった。
うん、これがこいつだ。栗見恵瑠という女の子だ。
恵瑠の宣誓のような言葉にガブリエルが応える。
「お前の意向は分かった。しかし襲撃があった事実は変わらない。恵瑠、お前には護衛をつける」
「そんな、大げさだよガブリエル」
「いや、それには俺も賛成だ」
「神愛君まで~」
ガブリエルの提案は俺もいいと思う。恵瑠は抗議の目で見上げてくるがこれは譲れない。
「あのな恵瑠、お前は甘く考えてるかもしえないがまた襲われた時のことを考えてみろ」
「でも」
「でもじゃねえ。それで傷つくのはお前なんだぞ?」
こいつの思いは素晴らしいと思う。でも、どれだけみんなと仲良くなりたいと思っていてもそうはならないのが世の中だ。言うのは辛いが、いざ襲われた時優しさなんてあてにならない。
「そうかもしれないですけど、やっぱりボクに護衛なんて、いいですよ」
しかし恵瑠(える)は頑なに断る。いきなり護衛と言われても戸惑いの方が大きいんだろう。それは分かるがこの状況だぞ。
はあ、どうするかな。俺は考える。
その後俺はやれやれと思ったが、顔を引き締めてガブリエルに聞いてみた。
「ガブリエル、俺から一つ頼みがある」
「なんだ」
俺の真剣な声にガブリエルも真剣な眼差しで応えてくれる。
「その護衛、俺がやるわけにはいかないか?」
「神愛君?」
「本気か?」
恵瑠とガブリエルが聞いてくる。それに一切動揺することなく俺はまっすぐに見つめていた。
そんな俺にミルフィアまでも心配そうに聞いてきた。
「主、それは本気で言っているのですか? それでは主も危険な目に遭ってしまいます」
恵瑠の護衛につくこと。そうすれば当然俺だって命を狙われるかもしれない。
「分かってる。でもだ、こいつだって知らない誰かより知ってる誰かの方が緊張しなくていいだろ。第一、恵瑠が危険な目に遭ってるのに俺だけ安全な場所でなにしてろって言うんだ。こいつが無事でいられますようにって祈れってか? するわけねえだろ。祈るくらいなら俺は行動する」
ミルフィアの心配する気持ちは分かるが俺に退く気はなかった。
「誰かがじゃねえ、俺がこいつを守ってやる」
決意があった。あんな襲撃見せられて、実際に襲われて。それで恵瑠を一人になんて出来ない!
「友達だからな」
「神愛君!」
俺は恵瑠を見ながらそう言った。それで恵瑠は嬉しそうに俺の名前を呼んでくれた。
「はい、主がそう言うのでしたら」
俺の覚悟が伝わったのかミルフィアは目を瞑りながら小さく頷いた。その表情はどこか嬉しそうだ。きっと俺ならこう言うだろうとミルフィアも分かっていたんだろうな。
「祈るくらいなら行動する、か。さすがは無信仰者だな」
そこでガブリエルが呟いた。天下界の無信仰者。神理が広がり信仰するのが当たり前となった天下界でこんな言葉を口にするのは俺くらいのものだろう。
「無信仰者?」
ガブリエルの言葉にラファエルが驚きながら俺を見てきた。俺が誰だか今知ったようだ。
「じゃあ、あなたが宮司神愛君?」
「ああそうだよ、問題か?」
「あ。いえ、ごめんなさい。ただ驚いてしまって」
「いいさ、いつものことだ」
無信仰者で驚かれるのは慣れっこだ。それに悪気はなかったようでラファエルは素直に謝っている。それなら気にする方が小っちゃいってもんだ。
「…………」
その間ガブリエルは無言で俺を見つめていた。しかしその目が少しズレミルフィアを見つめた。
「…………」
「…………」
「……?」
ガブリエルとミルフィアが見つめ合っている。いや、睨み合っているのか? 二人は出会った時からなにかあるみたいだったが、もしかして二人も顔見知りなのだろうか。
「分かった、護衛の件はお前に任せる」
おお!
「まかせろ、あんなやつらに指一本触れさせねえよ。恵瑠、お前も襲撃してきたらちゃんと逃げるんだぞ」
「それはそうなんですけど……」
「まったく、お前ってやつは」
甘いというかなんというか。とりあえずそんなこんなでこいつの護衛は俺がすることになった。
「ま、そういうことなら私もやるわ。あんただけだと心配だしね」
「私も」
「お前ら」
すると加豪と天和もそう言ってくれた。
そして、
「私も。全力で主と恵瑠をお守りします」
ミルフィアも力強い眼差しでそう言ってくれた。
「いいのか?」
護衛というのはミルフィア自身が言ったように危険が伴う。最悪命だって落としかねない。それに言い出したのは俺の我がままなのに。
だけど加豪と天和は頷いて、ミルフィアは笑顔で言ってくれた。
「当然です。主を守るのは本来の務めですし、それに恵瑠は『友達』ですから」
その一言に、驚きに似た喜びが広がる。
「……ああ、そうだな」
ミルフィアの言葉に俺は力強く頷いた。彼女が言ってくれた言葉に胸が熱くなる。
友達、か。
ミルフィアが学校の生徒になってから、少しずつ彼女も変わってきている。こうして友達だと言ってくれる。
それが、俺には嬉しかった。
「ありがとな、ミルフィア」
そんな風に思いながらミルフィアを見ている時だった。
入口の扉が開けられたのだ。
「やあ、全員集まっているのかな?」
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