勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

メイド服アルデンへ

 二人が宣言した通りにその日は何もされることは無く、
 無事に眠ることが出来た。取り敢えず一安心したい所なのだが、
 怖いのはなにもされなかった翌日の今日であり、
 俺は朝から何をされてしまうのか不安で堪らなかった。

「それにしても、このメイド服何気に凄くね」

 自分で脱ぐことは不可能の為仕方なくメイド服のまま寝たのだが、
 今見てみるとシワ一つ付いていないのだ。
 寝相が悪い事は自信あるのだが、シワ一つ付いていないと
 寝相が良くなったのではないか!?と錯覚しそうになる。

「ポチよ」

『何だ』

 朝起きてから早速モフモフを堪能する。

「今日俺は一体どうなると思う?」

『知らん、我が聞いたのはソラにメイド服とやらを着せるって所までだ』

「なるほど」

 ポチは眠そうに欠伸をしながらもそう答えた。
 そんな眠そうなポチの事を遠慮なく撫でながら
 俺はとある事を閃いてしまった。

「つまり、ポチがあっち側なのはそこまでってことだな?」

 ポチがあの二人から聞いた作戦は俺に
 メイド服を着せると言う鬼畜な事までであり、
 そこから先は何も聞かされておらず、
 あの二人だけが知っている模様だ。

『むぅ、確かにこれから先の事は何も聞いてないからな
 我としてはソラが困る所をもっと見たいのだが……
 これ以上やると本気で嫌われそうだからな』

「じゃあ、ポチよ、今日は俺の事を助けてくれるな?」

『仕方ない』

 こうして俺はポチを取り戻したのであった――めでたしめでたし。
 と言いたいところだがこれからが本番だ。
 俺はポチに乗って顔を洗ったりして一通り済ましてから
 いつも通り二人が料理を並べて待っている部屋に向かう。

「お、来たかのう」

「おはよ~」

 ニヤついた表情で出迎えられて今すぐにでも引き返したい気持ちになる。
 適当に挨拶を返して何時もの席に座る。
 席に着いても尚ニヤニヤと此方を見て来ているが
 そんなのはお構いなしにいただきますと言って料理を頂く。

「ソラちゃん~今日はね、買い物に行ってもらおうと思うの」

 このまま聞き流してしまおうと思ったが、
 内容が物凄く鬼畜な物であり思わず食事の手を止めてしまった。
 俺以外の人物が聞けば大した事ではないのだろうが、
 今の強制的にメイド服、女装をさせられている俺からしてみれば
 かなり鬼畜な事で、ニヤついている二人が悪魔に見えた。

 もし、買い物中に何かの拍子に女装をしている事がバレて、
 変態野郎だと叫ばれてしまったらどうしよう!?
 そんな事になってしまえば本当に俺の人生が終わてしまう……
 しかも死ねないから一生それを背負って……

「嫌だ!」

「ソラちゃんよ、拒否権はないのじゃ」

 ソラちゃんよってなんだよ!すっごく違和感ある!
 それよりも、何とかしてでもこの二人の作戦を止めなければ
 俺はそう思い先ほど取り戻したポチ(擬人化状態)に視線を送り助けを求めてみたが、

 ポチッイイイイ!!

 一瞬だけ目があったが気まずそうに逸らされ
 食事を再開してしまった。

「ソラちゃん、これはソラちゃん自身の為でもあるんだよ?」

「どこがだよ」

「ほら、ソラちゃんさ、毎日訓練してたでしょ?
 だからその成果を発揮するいい機会になると思わないかい?」

「思わんぞ」

 一体何が良い機会になると言うのだろうか。
 俺の新たな性癖開発の良い機会だとも言いたいのか!

「莫迦じゃのう……妾が説明するのじゃ!
 まず、ソラちゃんをのう街中を歩かせるのじゃ
 そしてのう、裏路地に入り――さぁ、質問じゃポチ、
 この先一体どうなると思うのじゃ?」

「間違いなく襲われるな」

「え」

 ポチが当たり前だろそんなものも分からんのかと
 言いたげの表情でそんな答えを口に出し
 俺は思わず震えあがってしまった。

「正解じゃ!
 こ~んな可愛いソラちゃんが人気の無い
 裏路地に入ったら善からぬ輩が付いてくるじゃろうな」

「魔法が使えないソラちゃんは、その輩達を実力で倒さないとね!」

 ニカッと眩しい笑みを浮かべて決め台詞の様に言っているが、
 俺からしてみれば死刑宣告の様な物だ。
 確かに魔法が使えないのならば身体能力でどうにかするしかないが、
 もう少し別のやり方があるだろ!
 ……魔法は使えないけどスキルは使えるんだろうなぁ

「あっ、スキルも駄目だからね!
 使ったら二度と男に戻れなくするから、気を付けてね」

「……」

 お見通しって訳か……男に戻れないのは困る。
 俺の顔が徐々に苦しんで歪んでいくのが分かったのだろう、
 ヘリムとエキサラは再びニタァとしながら憎たらしく此方を見て来ていた。

「まぁ、流石に僕達も鬼じゃないからポチの同行は認めるよ」

「!!」

「うむ、じゃが騎乗を使い、一定の距離を保ってもらうからのう
 そうでもしないと意味がなくなってしまうのじゃ」

 ポチの同行が許可されて心の曇りが一瞬にして消え去った。
 そばに居なくても近くに居てくれるだけで心強い。
 ましては魔力を繋げている状態なのだから更に心強い。

「もし、ソラが負けそうになった場合は好きにやらせてもらうぞ」

「うむ」

「俺の味方はポチだけだよ」

 あの二人はもう駄目だ。
 そんな目線を向けてやるが微動だにせず
 未だに憎たらしいニヤつき顔は健全だ。

「ちなみに、僕達は此処から観察してるからね。
 楽しみだな~ソラちゃんが襲われる姿見るの~
 あ、でも貞操の危機に陥ったら街ごと潰すけどね?」

「じゃあ最初からやるなよ!」

 そもそも何が貞操の危機だよ!
 ふざけるな女だと思って寄って来た男にやられるってのかよ
 絶対にそんなのは許されないし許さないしぶっ倒す。

「問題ない我が守る」

 頼もしいポチ。
 それから朝食を終わらせふてくされながら片付けを済まし、
 俺とポチは早速アルデンへと転移させられていた。
 一緒に転移してきたエキサラは

「楽しみじゃのう~くははっは」

 と言って速攻で帰って行った。
 この地獄の体験が終わったら一発ビンタを入れよう。
 そんな誓いを立てて俺はポチと
 一定の距離を保ちながら人混みの中に入って行った。

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