勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

一旦の別れ

 特別なスキル、それは一度使ったきり封印していた狂気というスキルだ。
 使うと我を忘れて暴れてしまう為非常に危険だが、
 今、目の前にいる人獣の王にそれを使って、無残に殺したい
 そんなどす黒い感情が俺の心の中を渦巻いていた。

「ヘリム、この部屋から全員出してくれないか?」

 狂気と言うスキルを知っているのはこの中で俺含めヘリムの二人しかいない。
 内容を知っているヘリムなら言葉の意味を理解し
 直ぐに行動に移してくれると信じている為ヘリムにそう頼んだのだ。

「分かったよ、僕はどうすれば良いんだい?」

 俺がポチの上から降り首の下ら辺をごしごしと撫でていると
 ヘリムからそう問いかけられた。

「ヘリムは俺の事を正気に戻す役目を頼んでも良いか?」

 我を忘れた状態では第三者の介入が無ければ
 恐らく永遠と暴れ続ける可能性があるので
 誰か一人には残ってもらう必要があり、
 一番俺の事を理解しているヘリムが適役なのだ。

「うん、任せて!」

「なんじゃ、妾はダメなのかのう?」

 元気よく返事するヘリムとは違い
 エキサラは少し不満気にそう尋ねて来た。

「ごめんご主人様、これは俺の事を詳しく知っている
 ヘリムにしか任せられない事なんだ。
 ご主人様の強さなら居ても大丈夫だと思うけど
 傷つけたくはないんだ」

 一応奴隷と言う立場であり、
 大切な仲間のエキサラの事を我を忘れた状態で
 傷つけてしまう可能性がある為それだけは防ぎたいのだ。
 勿論ヘリムも大切な仲間だが、ヘリムは特別な存在なのだ。

「うむ、そういう事なら仕方が無いのじゃ。
 妾は嬉しいぞソラ、しかしな無理だけはするのではないのじゃぞ」

 真剣な眼差しで此方に向けられ、
 それに応えるように向き合い、

「大丈夫、ご主人様の事は悲しませないって約束したからな
 安心して待っていてくれ、あいつの事をぶっ飛ばして帰って来るから」

 もう誰も悲しませない、それはあの包帯野郎にも言われたことだ。
 忘れたりはしていたない、誰もと言うのは無理なのかも知れない、
 だが、せめて仲間だけでも俺は絶対に悲しませないと決めている。

「うむ、分かったのじゃ!行ってくるがよい!」

「ああ、行ってきます。ポチもごめんな、
 あとで一杯なでなでしてやる――いやさせてください」

 なでなでして嬉しいのは何方かと言うと俺の方だ。
 ポチも嬉しいと言っていたのだが、それ以上に俺の方がうれしい。

『あぁ、沢山撫でろ』

「うん、ありがとな。最後にイシア達、
 その王様――いや王女様には色々と話があるから頼んだぞ、
 その護衛らしき人達も絶対に死なせない様に」

「分かったわよ」

 何だか全員に別れを告げると物凄く死亡フラグが立っている様な気がするが、
 そんなフラグ如きに左右されるほど俺は弱いつもりはない。
 フラグなんて気にせずに突き進んでやる。
 そんな事を思っている間にヘリムは全員を外に押し出し、
 ゆっくりと扉を閉め部屋の中に居るのは俺とヘリムそして人獣の王。

「さて、わざわざ待っていてくれてありがとな――
 といっても動けないっていうのが正解か、
 さっきから震えてそんなに骸骨さん達が怖かったのか?」

 俺は先ほどから一歩も動かずに小刻みに
 震えている人獣の王の姿を見てあざ笑いながらそう煽った。

「ふざけるな、誰が――」

「まぁ、そんな恐怖まだまだ序の口だがな、
 お前にはこれからもっと恐怖し絶望し苦しみ死んでもらうからな」

 人獣の王の言葉を遮り俺は殺気を向けながらそう発した。
 全力の殺気をぶつけているのだが、
 流石は王と言ったところだ、顔色は真っ青になっているが、
 気絶したりすることは無くまだ正気を保っていた。

「何を言っている、それはお前の方だ!」

「さて……あとは頼んだよヘリム」

「うん、いってらっしゃい」

 わーわー騒いでいる王の事をガン無視して
 俺はヘリムに後の事を任せて狂気のスキルを発動した。

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