勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

御身の御心のままに

「ふむ、情報感謝する。
 次はこちらの番だな。」

「死体はあるかどうか分からないが、
 魂なら沢山彷徨っている場所を知っているんだが、
 外に出れるか?」

 軍を作るための魂は先日、
 エキサラが一瞬で滅ぼした人獣達の魂が
 沢山あそこにたまっているはずだ。

「ふむ、分かった。案内してくれ」

「ポチ、俺があのでっかい魔物を倒した所まで頼めるか?」

『容易い事だ任せろ』

 ポチの了承を得て、俺達は地下から上がった。
 ポチは軽々と穴から抜け出し、
 アルデラは魔法を使って軽々と抜け出した。

 極力音を立てない様にこっそりと城から抜け出し、
 夜道を誰にも気づかれる事なく忍者の如く
 村を通り過ぎて例の場所にやってきた。
 まだ俺が倒した魔物の死体は処理されておらず
 その場で禍々しいオーラを出しながら倒れていた。

「ほぉ、これは大量だな」

「おお、やっぱりそうなのか。んじゃ早速頼む」

 此処に魂が彷徨っていると言う確信は無かったが、
 どうやら此処には魂が大量にあるらしい。
 アルデラは両腕を宙に広げ何やらブツブツと呟き始めた。
 傍から見れば合唱やらの指揮者の練習に見えるかもしれない。

 異変が訪れたのは腕を振ってからわずか数秒後の事だった。
 今まで何もなかったのだが、虚無から沢山の光の玉が現れ始め、
 説明されなくてもあれは魂なのだろうな、と容易に判断できる。
 そして一部の魂達を覗き、皆形を変えて青白く不気味に光る骸骨に変わった。

 霊体のハズだがリッチ同様にカタカタと
 不気味な音を立ててその場に現れた。
 一部の魂達は姿を変えずにゆらゆらと飛んでいき
 放置してあった魔物の死体に吸い込まれる様にして入り込んでいった。

 グリャリと寒気がするほどの嫌な音を立てて
 死んでいた魔物の体がゆっくりと起き上がる。
 それだけならまだ良かったものの、
 その魔物の皮膚や肉がダラリと
 物凄い異臭と音を立て地面に溶け落ちて行った。

 突然、目の前で起こったグロテスクな光景に
 思わず目を逸らし吐き気を覚えたが、
 アルデラが折角作ってくれた軍にそれは失礼だと
 思い俺は必死に出さない様に堪えた。

『大丈夫か?』

「あぁ、大丈夫だ、ポチのモフモフがあれば即回復するぞ」

 ポチが心配の声を掛けてくれたが、
 モフモフの感触で気を紛らわせていたら
 何時の間にかに吐き気は何処かへと消えていた。

「ここにあるだけの魂で作れるのはこれが限界だ
 まだ足りなければ魂を分断させるが?」

「いや、十分すぎるぐらいだ」

 先ほどまでは誰も居なかった場所に
 数百の骸骨の軍が出来上がってきた。
 その光景は余りにも不気味でまるで
 悪役にでもなったかの様な気分に浸る。

「こいつ等は言葉を理解できるのか?」

 これだけ数がいても言葉が理解出来なければ只の骨だ。
 この骸骨達は命令が通って初めて力を発する。
 と言っても大した命令はするつもりはないのだが。

「問題無い、全員言葉を理解できるし、
 簡単な会話なら可能だ」

「おぉ、見た目に反して優秀だな」

「当たり前だろ誰が作り出したと思っているんだ?」

「そうだったな、大賢者さまよ」

 正直に言って会話まで出来るとは思わなかった。
 今更だけど骸骨ってどうやって声だしているんだろうか。
 神経も肉も何もない癖に立ったりしているし……
 今思えば骸骨って物凄く不思議だよな。

「なら、早速だがお前たちに命令を下す」

 アルデラには国を攻めると教えたが、
 実際には王様を懲らしめるだけなのだ。
 だから戦争をしに行く訳ではない。
 と言っても沢山の邪魔が入り
 そんな簡単に王の所までは行けないだろう。

 敵と話し合いでどうにかならない事ぐらいは
 スライムに足をやられたときに経験済みだ。
 確実に力ずくで通る羽目になるのは目に見えている。
 かと言ってエキサラ達にやらせてしまうと敵の方が可哀そうだ。
 イシア達にも戦わせるわけにはいかない。

 俺は糞雑魚なので論外だ。
 じゃあ誰がやるのか、そう、その時の為の
 この骸骨の軍勢だ。

「俺達はとある国の王を懲らしめに行く。
 当然だがあらゆる抵抗を受けるだろう。
 お前達にはその抵抗を無力化して欲しいのだ。
 命を取れまでは言わないが動けない程度に……
 そうだな、余りにも抵抗が激しい奴は両足とか粉砕する程度だ」

 話を聞いただけだが王が糞野郎な為、
 護衛達も嫌々やらされていると言う可能性が
 ゼロでは無い事を考えての命令だ。
 流石に無理矢理護らされた挙句に殺されるなど
 俺だったら死んでも嫌だね。

「殺さない程度にと言うのは難しいかもしれないが
 頼れるのはお前達だけなんだ、頼めるか?」

「「「「「御身の御心のままに」」」」」

 骸骨達は一斉に跪き頭を下げた。
 一体一体ではカタカタと騒がしいだけの音だったが、
 数百が同時に動き出すとそれは圧倒的な存在感を示していた。
 予想もしていなかった行動と圧倒的な存在感を目の前にして
 俺はどうして良いのか困惑していた。

『こいつらにとってはソラが王だ。
 ならば此処は王らしく振舞ってみたらどうだ?』

 ポチからの助言を頂いた。
 王らしく振舞う、そうは言われても王様になどなった事は無く、
 どのような行動をすれば良いのか分からない。
 ……取り敢えずそれらしい事を、

「俺はお前達がどれほどの力を持っているかは知らないが、
 生みの親が大賢者なのだからさぞかし強力なのだろうな。
 期待しているぞ。」

「「「「「有難きお言葉」」」」」

 チラリとアルデラの方を見ると
 ドヤっているのか表情は分からないが
 胸を少し張っていて偉そうに見えた。

「では、頼んだぞ」

「「「「「はっ!」」」」」

「……」

 命令はしたものの、
 この軍勢を引き連れて歩くのは
 かなり目立ってしまうし、邪魔になりそうだ。

「アルデラ、こいつ等――」

「大丈夫だ、命じれば姿を消すこと位容易い」

 流石は大賢者様だ。
 俺の言葉を先読みして欲しかった答えを言ってくれた。

「お前たち、時が来るまでは姿を消していてくれないか?」

「「「「「御身の御心のままに」」」」」

 スゥっと始めからそこには何もいなかったかのように
 瞬きをした瞬間に骸骨の軍勢は姿を消していた。

「見えないだけですぐそこに居るからな、
 何かあったら直ぐに助けを求めるがいい」

「本当にすごいな、アルデラ。
 正直に言って此処まで出来るとは思っていなかったぞ」

「甘いぞ、この程度では終わらない」

「まだ何かあるのか?」

 ふふふふ、と不気味な笑い声と同時に
 カタカタと騒がしい音を立てながらアルデラは
 邪悪な笑みを浮かべていた。
 実際には表所は分からないがそんな感じがする。

「それは、お楽しみだ」

「勿体ぶるのか、まぁ、楽しみにしてるよ」

 これでくだらない事だったら
 お前の事を大賢者(笑)って呼んでやるからな

「さて、戻るとするか」

「そうだな」

「ポチ、頼んだぞ」

『ああ』

 下準備は万全だ。
 後は時が来るのを待つだけ。
 俺達は城へ向かってゆっくりと
 まだ真っ暗な森の中を引き返し始めた。
 

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