勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

見送り

 五人のグループは彼女、イシアを含め妖精族が二人、
 人獣族が三人という構成のグループだ。
 イシアの横に居る妖精族の子は三つ編みハーフアップの
 綺麗な青色の髪をしていて、目がキリっとしており、
 赤ぶちメガネをかければ最強だろう。

 身長は俺よりも少し大きいと思われ、
 イシアよりもかなり小さい。
 他のグループにいる妖精族の姿を見渡すが、
 やはり身長は大小バラバラで、中には俺と同じぐらいの身長もいる。

 見た目が小さくても中身は大人……合法おっと、
 変な事は考えないで置こう。

 三人の人獣族の中にはロン毛でへらへらしている
 あのチャラ男もいた。
 他の二人は何方かと言うと物凄く怖い。
 目がとても鋭く片方はスキンヘッドで厳つく、
 もう片方は白髪で物凄いオーラを放っている。

 チャラ男も中々濃いキャラをしているのだが、
 その二人に囲まれると物凄く薄く感じてしまう。
 チャラチャラしている奴は好きではないが、
 三人の中では唯一彼が話し掛けやすいだろう。

「さて、」

 グループの観察を終えた俺は帰るであろう捕虜達を
 何事もなく無事に此処から出すために動きだした。
 俺が歩き出すと後ろから小さな足音が後を追ってくる。

「少しお前達にも頼みがあるんだが」

 大勢のグループの前に立ちそう発言すると、
 少し警戒するように此方を見て来たが仕方がないことなので気にしない。

「そう警戒しないでくれ。俺が今から言うのは命令では無く、
 俺がお前達に頼み事をするんだ。
 別に断ってくれても構わないぞ」

 出来ればきいて欲しい程度の頼み事なので
 別に断られても何の問題も無い。
 俺がそう口にすると、少し困惑の表情を浮かべつつも頷いた。

「よし、俺からの頼み事は、国に帰るなら王に伝えて欲しい事があるんだ。
 これは人獣族、妖精族何方の王にもだ」

 俺からの頼み事は控えめに言って王に対する宣戦布告。
 妖精族の王は民の為に頑張った故の結果がこれだが、
 人獣族の王、お前は許さない。
 殺人予告を伝えてもらおうと思っていたのだが、

「?」

 頭の上にクエスチョンマークが浮かび上がる様に
 皆一斉に首を傾げた。

「え?」

 何故皆して首を傾げるのか、
 俺には理解できずに思わず声を出してしまった。
 すると、捕虜の中から声が聞こえてきた。

「あ、あの、私達は傭兵としてこの戦いに参加していたので、
 負けてしまった以上、王国には帰らずにそのまま村に帰る予定なのです……」

「あー、そういえばそうだったな」

 負けて国に戻ったりしたら絶対に無事には居られないだろう、
 ましてや人獣の王はあんなことをする王なんだ。
 戦死した事にして村でひっそりと暮らした方が身のためだろう。

「もしかして、全員そうなのか?」

 俺の問いかけに誰一人も首を横に振らずに
 皆一斉に縦に首を振った。
 余りにもシンクロした動きに俺は数秒固まってしまった。

「あー、そう、ならいいや」

 残念だが俺の殺害予告は届かないらしい。
 仕方が無い事だが、このままだと暗殺の様になってしまう。
 まぁ、そんなのはどうでも良いんだが。

「じゃあ、見送るとするか」

 それから俺はエキサラと二人で捕虜達を
 此処から無事に出すために護衛しながら道を進んだ。
 ちなみにエキサラとポチは留守番だ。
 本当はヘリムと一緒に行こうとしたのだが、
 あまりにもエキサラが暇暇うるさいので連れてきたのだ。

 エルフの村を通る時、捕虜達の事を見て警戒の眼差しを向けて来ていたが、
 エキサラの姿を確認したとたん目を逸らしてくれた。
 此方としてはスムーズに進められる為非常にありがたいのだが、
 何だかエキサラには申し訳なくなる……

「んじゃ~」

「……」

 そんな事は無かった。
 ちらりとエキサラの顔を見てみると
 エルフ達の事など眼中になく大きな欠伸をしていた。
「何じゃ~」と言ったのだろうが丁度欠伸と被ってしまい、
 な、が消えてしまい凄く幼い感じに聞こえてしまった。

「安心した」

「何じゃ……その顔はのう」

 こう見えてエキサラはちょっとした事で
 落ち込んでしまう性格なので、
 能天気に欠伸をしている姿を見て安心したのだ。

「別に~」

 村を抜け暫く森の中を歩き続け、 
 大分離れた所に着き捕虜達と別れる事にした。
 頭を下げられ、何とも言えない気持ちになりつつも
 来た道を戻り始めた。

「本当にあれで良かったのかのう」

「ん、どういう事だ?」

「だって奴らは敵なのじゃぞ、
 慈悲を与える必要などないのじゃ」

「まぁ、そうなんだけどさ、約束は約束だ。
 俺は危害を加えないとあいつ等に言っちゃったからな」

 バーゼルドの時の俺だったら何の慈悲も無しに
 サクッとやっていただろうが、
 今の体は大魔王の加護が無いため、
 そういった行為に抵抗があるのだ。

 やるときはやるが、
 出来るだけ無意味な殺生はしたくない。
 今の俺は心もまだ弱いのだ。

「優しいのじゃな」

「違う、俺は弱くて逃げてるだけだ」

「そうなのかのう?
 まぁ、逃げるのも悪い事じゃないのじゃ、
 妾は一生ソラのご主人様なのじゃ、
 一生掛けて強くなっていけばいいのじゃぞ」

 今まではあまり深くは考えていなかったが、
 エキサラの力を手に入れた以上、
 俺は一生死なないのだろう。
 たとえ世界が滅びようとも肉体は不滅。

 一生、一体どの位なのだろうか。
 無限、一体どの位なのだろうか。
 きっと、それは誰も分からない。
 唯一言えるのはそれは物凄く長いと言う事。

 そんな莫大な時間を掛けてゆっくりと強くなっていく。
 本当ならそれでも良いのかもしれない。
 だが、俺は急がなければ行けない理由があるんだ。

「そうだな……神を倒したらそうしたいな」

「くははは、やはりソラはもう十分に強いのじゃ」

 ニカリと綺麗な歯を輝かせて笑いかけてくるエキサラ、
 そんな顔を見て自然と笑みがこぼれる。

「そうだと良いな」

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