勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

魔剣

 朝から災難な目に合い、起きたばかりなのに、
 既に疲れてヘトヘトになった俺は椅子に座り、
 テーブルに頭を付けぐったりとしていた。

 それを見て心配してくれたのか、
 エキサラは急いで朝食作りに取り掛かった。

「朝から嫌なものを見せてしまったね。
 ごめんね。」

 そんなぐったりとしている俺の向いの席に
 死体の処理を終わらして来たヘリムが謝りながら座って来た。
 そんなヘリムの事を頭は上げずに目だけで見て、
 ぐったりとしたまま、

「大丈夫だ。寧ろ助かったよ。
 あそこでヘリムが来てくれなかったら今頃どうなっていたか。」

 ヘリムが来て居なかったら今頃は、
 女騎士に一方的にやられ俺は復活し、
 再びやられ、復活し、反撃できる隙があれば攻撃する。
 その繰り返しになっていただろう。

 本当にヘリムが来てくれた助かった。
 負けもしないが勝てもしない……これってかなり辛いよな。
 耐久戦みたいなもんだし。

「そうかい、なら良いんだけどね。」

「ああ。」

 会話が一旦途切れたかと思うと、
 何故だかぐったりとしている俺の事を
 ヘリムが真剣な眼差しでジーと黙視してくる。

「何だ?」

「んとね、今日は魔法の練習休んだ方が良いと思うんだ。
 ――いや、休みなよ。」

「どうして?」

 あまりにもぐったりしている俺の姿を見て
 心配してそういってくれているのだろうか、
 と一瞬思ったがヘリムの事だから別な理由がありそうだ。

「ソラ君は気付いていないかと思うけど、
 今のソラ君の魔力はほぼ無に近い状態なんだよ。」

「魔力は無に近いだと?」

 今日は一度も魔法を使っていないのにも関わらず
 魔力が無に近いという事に疑問を抱いた。

「うん、たぶんだけどさっきの女騎士の魔剣のせいだろうね。」

「魔剣?どんな?」

 魔剣という名前は知っているが、
 実際に見た事も無く、ましてはどんな能力を持っているのかも知らない。
 一体どんな魔剣を使っていたのかを知るために俺はヘリムに質問した。

「相手の魔力を奪う魔剣かな。
 相手に触れただけで魔力を奪い自分の物にする。
 あの女騎士は結構な魔力を奪ってきたのだろうね、
 魔力が溢れだしていたよ。」

 魔力が溢れだしていたのか……全然分からなかったぞ。
 にしても触れただけで魔力を奪う魔剣か。
 でも俺一度でも魔剣に触れたか?――あっ、
 そういえば執事服が切り裂かれたな。
 おいおい、服に触れただけでも奪い取れるのかよ、強すぎだろ。

「なるほどね……分かった、今日は大人しく休むことにするよ。」

「うん、良い子だね。
 練習の代わりに僕の話を聞かせてあげるよ。」

「おぉ、じゃあどうして直ぐ此方に来れなかったのかを
 聞かせてほしいな。」

「うぅ、いきなりかい……まぁ、いいよ。
 じゃあ朝飯が終わったら話してあげよう。」

 豪華な朝食を食べ、少しは体が楽になった気がする。
 だが、本調子とは程遠い。

「ご主人様、この後ちょっとソラ君と話しをしてくるけど
 一緒に来るかい?」

 食器を片付けながらさらりとエキサラの事を誘った。
 そんな光景を椅子に座りながらボケーと眺めている俺。
 決して片付けをサボっている訳ではない。

 自ら片付けようとしたが、
 エキサラとヘリムにほぼ強制的に座らされた。
 大人しくしてないとお仕置きらしい。

 エキサラのお仕置きは間違いなく数回死ぬ。
 ヘリムは良く分からないがきっとお仕置き(拷問)だろう。

 流石にそんな恐ろしいお仕置きは御免、
 俺は大人しく椅子に座って片付けが終わるのを只々待っていた。

「勿論行くのじゃ。」

「やったね!」

 どうやらエキサラも一緒に話を聞くらしい。
 色々と過去の話もするつもりの為、
 エキサラにとっては俺が居た異世界の事を多少は知れるいい機会だろう。

「ちなみに話ってどんな話をするのじゃ?」

「ん~色々とあるけど、
 主に僕がソラ君の下に直ぐ行けなかった理由かな。」

「ふむふむ。そうだ、後でソラの事を色々と教えてくれないかのう」

「うん、いいよ!
 その代わりに僕に料理を教えてくれないかい?」

「うむ、良いぞ!」

「交渉成立だね。」

 二人で仲良く片付けをしながら
 楽しそうに会話をしている。
 これが女の子同士の会話か……久しぶりに聞いたな。

「よし、片付け終わり!」

「うむ。」

 俺が会話を聞いている内に片付けが終わった様で
 エキサラとヘリムが椅子にボケーと座っている俺の近くまで来た。

「さて、いくかのう。」

「行くって何処に?」

 これから話をするんじゃなかったのか?

「寝室じゃ。妾なりの気遣いじゃ。」

 ぐったりしている俺の事を気遣い、
 寝ながら話をした方が良いと判断しわざわざ寝室に行こう何て言いだしたのか。
 確かに横になっていた方が楽な気がする……ありがたい。

「ありがと。」

「うむ」

 次にエキサラは椅子の前で立ち膝になり
 背を向けて来た。

「ほれ、」

「ん?」

「おんぶして連れて行ってやるのじゃ。」

「いや、そこまで――」

 そこまでしてくれなくても良いよ。

 と言おうとしたが、

「折角のおんぶを台無しにしちゃだめだよ。」

 ヘリムの謎の発言によって遮られた。

 折角のおんぶって何だよ……

 ヘリムは顎でくいくいとやり、
 さっさとおんぶされろと言う感じだ。

 ここで断ったら後が怖いな。

「……わかったよ。」

 俺はエキサラに身を任せた。
 身長はあまり変わらないが、
 何故か物凄く背中が大きく感じる。

「よし、行くかのう。」

「うん!」

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