かわいい俺は世界最強〜俺tueeeeではなく俺moeeeeを目指します〜

ヒイラギ ソラ

エピローグ

 後日談、を展開する前に、デートの収集をつけなくてはいけない。まあ、予想はつくものだし、無駄な語りかもしれないが、語り部としての義務を全うしようと思う。

 あの時俺はアレンを萌えさせ、『萌え』ほもう一つの効果が使用可能になったのがわかった。感覚的もわかっていたし、あのタイミングで萌えさせにいこうと事前に決めていたりしたからだ。

 ともかくその時に俺は『萌え』のもう一つの効果を発動したわけだ。お忘れかもしれないが『虜』だ。萌えさせた相手を一時的にコントロールするという、洗脳に近い効果。犯罪的な効果だ。

 とは言っても、俺は今回その力をアレンを眠らせることにしか使わなかった。「おやすみなさい、アレン」の言葉には、『虜』の効果を込めたのだ。

 立ったままアレンが眠るものだから崩れ落ちそうになったのを、フィアナの一回り小さな体で抱きとめた。

 少し離れた場所で見守っていたエルバードさんと護衛も、その異変に駆け寄って来た。そんな彼らに俺は「もう行かなくてはいけないので、アレンさんをよろしくお願いします」とだけ言い残し、その場を去った。

 そのあとはあらかじめ決めておいた回収地点に向かった。リディアさんは常に俺を見守ると言っていたし、案の定先回りしていた。……ストーカーの素質があるのでは? 

 リディアさんのステルス性能には若干の怖さを感じたが、そんなこんなで俺はアレン攻略の任をやれるだけはやったのだ。

 そしてついさっき、納税義務の件の撤回が言い渡された。俺はホール担当として久しぶりに冒険者に顔を見せていたので気がつかなかったが、支部長に呼ばれてそれを聞いた。

 ……よし、よしよし。もうするべきことはしたし、すこーしくらい仕返ししに行ってもいいよな? ほら、もともと俺の目的ってそっちがメインだし。納税義務撤回はついでだし。

 今日は午後からはフリー。お休みをもらっている。ということで、行きますか!

「なんでリディアさんまでいるんですか?」
「カナデちゃんがいなくなったことに気がついたんだよ!」
「ああ、そうですか……」

 フンスッと鼻息荒く意気込むリディアさん。この一週間で、残念度がさらに増している。哀れだ……。まあ、俺が原因か。

 仕方ない、ご褒美をあげよう。

「このお店、リディアさんと来てみたかったんだあ」
「はうあっ。うん、うんうん。そうだよね! あんな奴より私の方がいいよね! いくらでも来ようっ! いくらでも頼んでいいよ!」
「ありがとうございまーす」

 ご馳走さまでーす。というわけで、着きました。ハルさんの店だ。

「いらっしゃいませー。お好きな席へどうぞ」

 出迎えはハルさんじゃない別の店員だった。まあ、このあいだと同じ席に座る。

 あとは座して待つのみ。アレンがこの店にほぼ毎日通っているのは確実だし、そのうち来るだろ……来た。

 注文を頼む暇もなく奴が来た。そしてこちらに向かってくる。まあなんとも不愉快そうな顔をしていることで。

「貴様は、生意気な女男……」
「おや? 好きな女に逃げられた甲斐性なしではありませんか」
「なっ!? なぜ貴様がそれを知っているっ!?」

 真っ赤っかになっていくなぁ。見事なもんだ。

「見ていたので。ぐっすりとお眠りになられたようでしたね」
「このッ!」
「ふっ」

 アレンは何か言って来たけど、鼻で笑ってやった。
 なにせ俺がアレンからフィアナの記憶を消さなかったのは、これが目的だったのだから。もちろんあの形が一番いい解決策だったのには変わらない。が、その終着点がどこに行き着くのかと言えば、それはもちろん俺のところだ。

 こうして、意中の女の子に事実上フラれたという事を、弄るためになぁ! 覚えておいてもらわないと困ったのだ! 

 主目的はアレンへの仕返し。そしてそのついでが支部長からの指令。あくまでもその前提は覆らない!

 この戦争、俺の勝ちだな! はっ! 俺のかわいさを貶すからこうなるのだ。
 かわいいものは愛でろと教えてやりくらいだ。

「まあ、その話の追求はここまでにしておく。が、その席はいつも俺が座っている席だ。どけ」
「はっ。先に俺が来て俺が座ってたんだ。なんで譲らなきゃいけないんだよ。どうしてもっていうなら、ほら、頼み方ってもんがあるだろう?」
「くっ」

 知ってて座ってんだよ。なら、易々と譲るわけがないだろう。
 アレンがその胸中で己のプライドと葛藤していると、見知った顔が入って来た。

「アレン、またナンパ?」
「そうですわ」
「あの、ほどほどにした方が……」

 全員が金髪青目の美人美少女。性格は異なるし立場もバラバラだが、似ている3人の女の子。

「モブ子ズじゃん」
「「「なっ!?」」」

 あ、つい本音が出てしまった。

「いきなり失礼ねアンタ!」
「そうですわ! 幾ら子供とはいえ、そのようなこと」
「そうですよ!」

 相変わらず仲のよろしいことで。というか、なんでこいつらここに来てんだ? いや、アレン目的なのはわかるんだが、簡単に居場所を特定しているぞ。
 しかしまあ、とりあえず怒りを鎮めるとしよう。

「ご、ごめ、ごめんなさい……ひっぐ」
「泣いてる?」
「あ、ああ。そんな泣かせてしまうなんて、私」
「もう、そんなに強く言ったらかわいそうですよ」
「あんたが言うな!」「あなたに言われたくありまけんわ!」

 涙を携えればあら不思議、立場は逆転してしまいます。かわいいって罪ですね。普通の子供だったらクソみたいな奴だけど、かわいいと大丈夫なんだから。

 まあ、それもネタを知っている奴がいれば、あっという間に看破されてしまうのだが。

「気にするな。そいつは成人した男だし、嘘泣きだ」
「「「……え?」」」

 俺を宥めようとあわあわしていたモブ子ズがぴたっと止まる。

「言うなよなー」
「ふんっ。貴様のくだらん遊びに付き合う必要がないからな」

 もう少し色々したかったのによ。

「はじめまして、冒険者協会職員のカナデです。18歳の正真正銘の男です」
「う、嘘だ……そんな、かわいいのに……」
「嘘ですわ嘘ですわ嘘ですわ」
「え、あの、え? な、男性?」

 狼狽えてる狼狽えてる。いやー、モブ子ズはやっぱりいい反応するな!

「本当ですよ。私、カナデちゃんの同僚ですから」
「ちゃん付けったことは男なのは」
「本当です。かわいいからちゃん付けしているだけですよ。かわいいでしょう、カナデちゃん。かわいいんです」

 リディアさんが加えて説明してくれた。……その勢いにやや怖さがあるけど。
 それでも納得出来ないのか、あるいはしたくないのか、モブ子ズは先程とは別の意味であわあわしていた。

「負けた……なんか負けたわ」
「複雑ですわ……」
「そんな……」
「貴様のおかげでこうなったぞ」
「かわいいことに罪はないな」

 はちゃめちゃな空間になってしまったが、ここだけアレンが打って出た。

「気にするな。俺はこんな奴よりお前たちの方が美しいと知っている」
「アレン」
「アレン様」
「アレンさん」

 ふむ、いい方向に進んでいるのか? 試しに一つ質問を。

「フィアナさんよりもか?」
「あれは、俺の幻想だ。俺の欲望が具現化した幻だ。だが、今、ここにいるこいつらの方が綺麗だ」

 亡き母を追憶して生まれた理想である似非清楚フィアナ。それも、役目を果たしたということだ。

 ……しかし、こうもきっぱり言われるとなんか悔しいな。仕方ない、ここは一つ言っておくとしよう。

「フラれた男の遠吠えだな」
「貴様ッ」

 結局、アレン達は俺とリディアさんとは離れた席に座った。俺はこの間食べられなかったメニューを頼み、満足して、リディアさんも満足して、店を後にした。

 いや、しようとした時に囁かれた。耳に馴染む優しい声は、エルバードさんのだ。

「此度の件、誠に感謝いたします。つきましては、謝礼金の方をご自宅へと送らせていただきます」
「な、なんのことですか?」
「カナデ様ーーいえ、フィアナ様」
「き、気がついていたんですか?」
「もちろんでございます。素性のわからない者をアレン様にお近づけにするわけにはいけませぬから」

 ばればれだった。ええ、そんな、ええ……。

「それならなんで」
「もちろんアレン様のためでございます。主人の過ちを但し導くのも執事の務めですから。使えるものは使おうという判断です」
「なるほど……。凄いですね」
「執事ですので」

 執事スゲー。執事tueeeeとか出来そうなの俺だけかな。

「カナデ様、ありがとうございました。僭越ながらメトカーフ家使用人の代表として、申させていただきます」
「いえ。はあ、大丈夫です」

 全てをお見通しだった老紳士。早く離れたい……。
 最後の最後にやられた俺は、リディアさんと店を後にした。


 ***


「カナデさーん、会いたかったですッ!」
「ゲファッ」

 い、痛いっ……。この野郎……、うん、聞き覚えのある、というかこの異様なテンション、まさか。

「汚女神か? 」
「あ、覚えていてくれたんですね!」

 女神って清廉なもの……でもないか。神の色恋沙汰なんて神話じゃ結構あることだし、なによりも目の前のがそれを証明してくれてる。
 俗物っぽいのが神みたいだ。

「まあな。貞操の危機を忘れるほど俺も間抜けじゃないからな」

 俺に抱きついてきたのは、俺をこの世界に送り込んだ張本人である汚女神エルだった。
 本気の本気で忘れていた、というかもう二度と会うとは思っていなかった。

「なんでお前がいるんだよ……。というかここは?」

 俺は寝ていたはずなんだけど。

「ここは精神とトって痛いッ! な、なにするんですか!」
「お前が俗物なのは知ってるが弁えろ」
「酷い……。わかりました、わかりましたのでそのフィギュア折らないでっ!」

 近くにあり手に取ったフィギュアーー美少女フィギュアを人質にした。その反応から、間違いなくこの女神のものなんだろうけど、何故ここに?

「うぅ、酷いです……。一から作ったんですよ、それ」
「で、ここは?」
「私の空間です」
「私室か」
「はい」
「……なんか、凄いな」

 10畳ほどの部屋、その壁一面には美少女ポスター。棚にはラノベ漫画、美少女ゲーム等がびっしりと。美少女フィギュアも専用の棚に飾ってある。
 本当に俗世に浸かった女神だなこいつ。コタツもあるし。

「ふふふ、自慢のコレクションなんですよコレ!」
「ああ、はいはい。それでなんで俺をここに?」
「そうでしたそうでした。カナデさん、もっと冒険してくださいよ! 他の参加者達はもうだいぶ活躍してますよ! 詳細はルール違反になるのだ無理ですが」

 あ、そういえばそうだった。

「忘れていたんですね……」
「まあな。いや、俺も結構活躍してるだろう。セレントの冒険者の間じゃ、天使って呼ばれはじめてるし。もう、いっそ宗教化でもしようかな」
「カナデさんがかわいいの知ってます。ぶっちゃけ私もその宗教に入りたいです……。けど、それとこれとは別で」
「わたしが怪我してもいいの?」
「ごめんなさいそうですよね無理です駄目です。む、無理のない活躍をしてください」
「ま、冒険者というのも楽しそうだし、気が向いたらするよ」

 と、俺はそこで話をいったん切り、ふと聞いてみる。

「なあ、お前達神様がやってるこのゲーム、今回が初めてじゃないだろう」
「え、はい。私は今回から参加しますけど、以前にも数回あったみたいですよ。でもどうして?」
「いや、有名な文学の作者のエピソードが、まんま夏目漱石だったから。なんとなくな」
「そうなんですか、へぇ」

 だとしたら、もしかしたら地球の文化がいくつか伝わってるかもな。なにが伝わってるかはわからないが。

「まあいいや。で、どうしたら帰れるの」
「私が戻すだけですから、すぐにでも」
「じゃあ早速……ん? おい、これはなんだ」
「へ?」

 俺の目に留まったのは棚にしまってあった一冊のファイルの背表紙。普通のファイルなのだが、なにが気にかかるかっていうと。

「『色式 奏・写真集1』だと?」
「あ、あのですね、これは」
「どれどれ……」

 あっ、という声もしたが、俺はそのファイルを手に取り開いてた。するとそこは俺の写真がずらりと、丁寧に保管されていた。
 見進めども全て俺の写真だ。どこから撮っているんだとあうアングルもたくさんあって、なぜ俺は気がつかなかった? 俺、こんなナリをしてかわいいから視線には敏感なんだけど。

「これは?」
「あの、その、カナデさんの写真です」
「盗撮写真集だろうが。はじめて知ったわこれ」
「おっしゃる通りです。すいませんでした」
「……はあ。いいけど、これどっから撮ってるの」
「この部屋の隣が執務室ーーカナデさんを以前迎えた場所なんですが、あの部屋はどこでも見ることが出来るんです。人間の観察の為に」
「神の特権を、なんてことに使ってんだお前は……」

 それから『色式 奏・写真集2』やそれにさらに続く3・4と見た。呆れたというか、ここまで来ると少し尊敬してしまう。……やっぱり尊敬の方が大きいわ。

「はあ、疲れた。帰る」
「わ、わかりました。では、頑張ってください」

 最初に異世界へと降り立った時と同じく、視界が白く染まっていき浮遊感が訪れると俺はベットの中にいた。

 翌日、睡眠不足のせいでイライラしていた俺は、協会職員に本当に女の子の日が来たの!? と、性別を超越した心配をされた。というか、本当にってなんだよ本当にって。

 幾ら可愛くても女の子の日は来ないからね。


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