かわいい俺は世界最強〜俺tueeeeではなく俺moeeeeを目指します〜

ヒイラギ ソラ

20話 女子会

 モブ子Cのあっさりとした話の後、私はトイレに席を立った。普通にトイレをしたかったというのもありますが、話を次に持っていくために私が一時撤退する必要があったのです。

 適当な時間を見計らって席に戻ると、モブ子ズは静かに落ち着いていて、どうやら私の思惑通りになってくれていました。
 それに気がつかないふりをして席に着き、挑発の意味も込めてアレンに少しよって座りました。それにピクッと素直な反応を示してくれたのはモブ子Aで、BとCはあくまで平静を装っています。
 モブ子Aの扱いやすさはダントツで、子供に負けるってどういうことでしょうか……。チョロ子のようです。
 チョロ子もといモブ子Aが切り出しました。

「ねえ」
「どうかしましたか?」
「あんたがアレンとどういう関係なのか、まだ聞いてないんだけど」
「私達だけ話して終わりでは、不公平ですもの」

 敵の敵は味方とは言ったものなのか、手取り早く団結させるのは敵ということなのか、どちらかはわかりませんが狙い通り訊いてくれました。喧嘩も一時休戦といった様子で、これで3対1という構図が誕生です。

「私はそうでもないんですけどぉ……」
「「黙りなさい」」
「うぅ」

 ……そうでもありませんでした。全然団結してませんでした。が、方向性はかろうじで同じ方向を向いています。向いていることにします。モブ子Cもなんだかんだ言いながら立ち去らないわけですから、そう理解します。問答無用です。

「はっ! また脱線するところだったわ」
「策士ですわね」
「お二人の所為じゃ……」

 今度は有無を言わせない視線をモブ子A BはCに送りました。モブ子Cも怖かったのか一際小さくなり、身を守っています。
 モブ子A Bは改めて私に向き直り、そして問いました。

「話してくれるわよね」
「話してくれますわね」
「もちろん構いませんが……」
「俺から話してやろう」
「ということですが、どうしますか?」

 アレンが隣でこと構えていたのは気がついていました。だから私から話すことはなさそうです。だって、私から話を聞くより当人から聞いた方がよっぽど明確な答えになりますから。
 案の定モブ子A Bは快く了承し、アレンの話へと移りました。

 アレンはこれまでの事を大まかに話してくれました。
 果物をぶち撒けた事。次の日には再会しお茶をご一緒したこと。屋敷に招かれたこと。そこで手作りスイーツを披露したこと。そして、今日デートをしていること。

 ところどころでモブ子A Bが食いかかってきそうではありましたが、アレンがそれを許さず、終始聞きに徹してくれました。徹していただきました。

 モブ子A Bにとっては圧倒的な敗北感を味わうことになる話でした。事実、もう2人の顔が、目が死んでいます。動揺をしていますし、なんか呪詛みたいにぶつぶつと呟いています。怖い。

 しかし私にとっては作戦の最終段階に入る前のいい状況確認となりました。アレンが私の事をどう思っているのか、気にする必要がありましたから。

 それよりも、いい加減モブ子A Bに声をかけますか。本当に呪われそうで怖いです。

「大丈夫ですか?」
「う、うぅ。なによ、あんたに何言われても憐れみにしか聞こえないのよ〜」
「そうですわ。傷口に塩を塗るなんて卑劣なマネを……」
「重傷ですね……」

 ですがしかし、彼女たちには頑張ってもらわないといけません。モブ子ズにはモブ子ズの仕事をしてもらいたいのです。してもらわなくても構いませんが。
 さしあたったとりあえずは、

「アレンさん。少しの間、女子だけでお話しをさせてもらえませんか?」
「なに?」
「お時間はかけませんので」
「……わかった。フィアナがそう言うなら、それがいいんだろう」
「ありがとうございます」

 アレンは余計なことはするなよとモブ子ズに釘を刺すと、店の外に出て行ってくれました。
 私は一気に広くなった席で姿勢を正します。

「な、なによ。まだあるの」
「私たちにまだ何か言いますの?」
「何か、気がついたことはありませんでしたか?」
「「……は?」」

 あはは、見事に間抜け顔になりました。けど、私は引きません。もう少しヒントを出しましょう。

「私達4人に共通することはなんですか?」
「共通すること?」
「はい。なんでもいいですよ」
「そうではなくて。関係があるんですの?」
「もちろんです」

 私がそういう言うと、今度は真面目に考えてくれました。質問はごく曖昧なもの。ですが明確に答えは存在していますし、目にすることも出来ます。なによりも、モブ子Cを除いて私含めた残る3人は、さらに深い答えを用意する事が出来るのです。深い答えというのは、奥深いというわけではなく核心を突くという意味です。

 しかしながら、私の意図する深い答えが出ることはなく、浅いとはいえ満点の答えを出したのは、なんとモブ子Cでした。これまで黙っていたのに、あっと声を上げるとぽつりと言ったのです。本人は思いつくがままといったところのようでしたが。

「容姿が似てる?」
「正解です」
「はあ? そんなこと?」
「確かにそうですわね。それがなにか?」

 確かにそうなるのは無理もありません。ですがやはり、モブ子A Bにはわかるはずなのです。2人とも見る限りアレンとは同年代そうですから。

「わかりませんか? 私達はアレンさんの関係者なんです。この容姿でアレンさんの関係者といえば、確実に思いつく方がいると思うのですが」
「あ、そういう、ことですの……」
「もったいぶらないで教えてよ」
「アシュレイ様の事ですのね」
「ああ」
「誰ですか?」

 唯一アシュレイさんを知らないモブ子Cが疑問を呈しました。

「アレン様のお母様のことですわ。もう、随分と前に亡くなられたましたが」
「確かに似てるわね私達、アシュレイ様に」
「そうなんですか?」

 はい、と私は答えました。

 色素の薄い金髪、青い目。どちらもどこにでもいる町娘の特徴ではありましたが、顔の造形がそれぞれどこかしら似ているのです。
 モブ子Aは目の大きさ位置。
 モブ子Bは鼻の高さや口の形。
 モブ子Cは顔のパーツの全体的な位置関係。
 それぞれアシュレイさんの特徴をある程度持っていて、だから似ていました。

「フィアナさんの様なお方でしたわ」
「そうね。凄い似てる」
「へぇ」

 私が似ているのは言わずかもな、です。

「アシュレイさんに似ているのは嬉しいことです。とてもお綺麗な女性でしたから。けど、だからこそ問題があります」
「何よ」
「アレンさんが、私達をアシュレイさんに重ねて見ているだけということです。つまり、女性として意識されていません」
「はあ?」
「皆さん、そう感じることはありませんか?」

 少なくとも私にはありました。例えば、胸に視線を感じない。一線を超えそうな雰囲気がない。そんな小さな事がたくさんありましたが、塵も積もれば山となるで、確信になるわけです。

「ありますわね」
「私も」
「私はーー」
「ないですわね」
「ない」
「なんでですか!?」

 いや、見た目が若干ロリで、実年齢もまだ成人していないのに女性として見ていたら、私はもうアレンに近づけません。

「アレンさんは女性をよく口説くと聞きます。それは多分アシュレイさんの面影を探す為だと思うんです。だから、ここにいる人達はその中でも特に話す機会があった」
「じゃあフィアナは」
「はい。私は瓜二つというくらい似ていますから。それにぴったりだと思います」
「わかっていているのは、辛くありませんの?」
「辛くはないです。ただ、まだ過去に囚われているアレンさんを見ているのは少しだけ」

 重い沈黙が訪れました。
 きっと、どこかに感じていたことを突きつけられたからでしょう。でも、それでも、アレンを萌えさせるにはそれを乗り越えるしかないのです。

「それであなたは何が言いたいんですの?」
「私から言いたいこと一つだけ。私はアレンさんを過去から解放します。ですから、あとのことはご自由にしてください」
「どういうこと?」
「私は今日、アレンさんを過去に向き合いさせます。多分、それは私にしか出来ないことですから」
「そのあとは」
「私、もうじきにこの街を出なければいけなくて。だからアレンさんの側いる事ができないんです。
 だから、今日だけは邪魔をしないで欲しいんです。そうしたら皆さんの自由にしていただいて構いませんので」

 まあ、フィアナはいずれ消える運命です。アフターケアというか、下手に探されてはマズイのでこの対処にしましょう。それに、モブ子ズに対する対策も出来ました。一石二鳥です。

「わかりましたわ」
「はあ? あんたこの女の言うことを信じるの?」
「どうしようもないのですから仕方ありませんわ。それに、強行策に出てアレン様に嫌われるのは嫌ですもの」
「うっ。そっか、はあ。私もそれでいいわ」
「わ、私は孤児院に来てくれればいいので文句はありません」
「交渉成立ですね」

 私は満面の笑みで言いました。

 ああ、ようやく作戦に戻れます。どうでもいいところで、脱線し過ぎなんですよ……。

ともかく、アレンを萌えさせましょう。

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