ノスタルジアの箱

六月菜摘

空回り


自分の心に ぽっと灯る言葉たちが いとしくて
なんとか その あるがままの形で
表現したい 掴まえたいと 想った瞬間から
零れ落ちていってしまうのは なぜなんだろう。

私の中にいたはずなのに、形が変わってしまう。
私が綴った時には、とっくに 君を 裏切ってしまう。

言葉を書くくせに、言葉たらずで 相手を傷つける。
なんだか 空しくなって、空回って 元通り。



発した言葉は、もう私に背を向けて
郷愁の彼方に 踏み入ってしまった。 追いつけないまま。
郷愁界に 殿堂入りした 想い出なんかを
時折、引き出しては 語り尽す。 誰に語りたいのか、私は。
一体、私が書くことなんて、何なのだろう。

誰に聞かせるでもなく 誰かの答えを待つでもなく

誰かに気付いてほしくて 誰でもいいわけじゃなくて

意味がないことをしていくことに
あとから意味が付け加えられて、マコトシヤカに語られ
自分を飾る言葉たちが、勝手に 飛び出していく。

それでも、そんなかけらが 愛おしくて
打ち捨てられれば 拾い上げ、海岸に並べていく。
そんな作業がずっと続いていく。

さみしさが止まらない。
ひとり時間が甘やかで 今日も せつなく生きていた。



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