【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
おっさんの異世界建国記
ニードルス伯爵領の首都であったソドムの町は、炎に包まれ灰燼と化して人々の命を奪う前に、俺が全魔力を使い作りだした膨大な水により鎮火されて、現在は湖面の下に存在している。
おかげで、死人は一人も出ることは無かったが代わりに居住地を失った1万人以上もの難民が生まれてしまった。
そこまでは、規定路線であったが、そこからが問題であった。
何と、ソルティが作り出した塩が水に溶けてしまいカスピ海顔負けの塩湖に変わってしまう。
おかげで、ソドムの町が壊滅してから2ヶ月近くは不眠不休で生活魔法を使い水を調達している有様だ。
「――エイジ、起きるの。仕事の時間なの」
「そういえば、昨日の夜の当番はリアだったな……」
俺は、欠伸を噛み締めながら布団から出ると囲炉裏の前にはソフィアが座っているのが見える。
「おはようございます。昨日はお楽しみでしたね?」
「お楽しみって……。ソフィアも途中から参加しただろうに」
俺は小さく溜息をつきながら囲炉裏の前に座る。
すぐにソフィアがスープを差し出してくるのを受け取りながら口をつけた。
「そういえば、リルカとエルナは?」
「お二人は、もう仕事をしているみたいですよ?」
「そうか……」
リルカは、妊娠が認められてから別の女性に対してかなり寛容になっていて、ハーレムに近い状態になっているというのに、「そうですか! 私の子供を大事にして下さるなら何も言いません」と、リアやソフィアやソルティとの婚約に対して簡単に同意してきた。
「それにしても最近、カンダさんはお疲れ気味なの」
「ああ、お疲れ気味だ」
リアの言葉に俺は溜息をつく。
正妻戦争に参加していた女性全員が俺の妻になったのだから、若い時ならいざ知らず中年の体には毎日はかなり堪えるのだ。
特に夜の営みなどが――。
「そういえば、スザンナは?」
「はい。朝方から建物の建築を行う建築ギルドや、街道の準備などを兵士たちに指示を出しているようですけど?」
「そうか……」
「はい、さすがに塩湖の影響がある元・ソドムの町近くに新しく町を作るよりも、ソルティさんが荒野を開拓して作った大森林の近くに町を建設するほうが、ずっと現実味がありますから……」
「そう……だな」
俺は、ソフィアの言葉に答えながらスープを口にした。
開拓村エルの周辺は、見渡す限り荒野であったが自称・塩の女神であり大地母神であるソルティの力により緑豊かな大森林に変貌を遂げている。
そして、膨大な塩を作り出すために北の森から全ての塩を移動して盾として使ったため、北の湖は澄んだ飲料に適した湖となっていて、1万人近くの飲み水を確保するには十分であった。
「それにしても、ソドムの町が湖面に沈んでから3ヶ月経過しているがエルダ王国は何も言ってきていないな。一応、かなり広大な領地が塩湖を挟んで孤立しているから、エルダ王国にも痛手だと思うんだが……」
「そうですね。普通なら何かしら書簡が届いてもいい頃なのですけど」
ソルティは、俺の言葉に同意してくる。
正直言うと自分で国を興したりするのは俺の性には合っていないと思う。
とりあえずは、ニードルス伯爵の肩書きを持つスザンナと婚約しているから、彼女になんとかしてもらいたい。
つまり、現状を簡単に説明するなら紐状態。
「まぁ、エルダ王国が何も言って来ないなら伯爵領や爵位も継続だから、国からの援助も受けられるだろ。援助が受けられなかったら何のためにソドムの町の住民を総動員して塩湖から石鹸を拾い上げて王族に賄賂として送ったのか分からなくなるからな」
「カンダさん、せこいの」
「せこいって……、1万人以上の人口を食わせていくのは大変なんだぞ? ベックが奴隷を購入した際の販促路を利用して、食料を他国から購入してきているから何とかなっているとして、石鹸だって行き渡ったら食料を買い換えるお金が無くなるからな。金になる塩だって、湖に溶け出してしまったから塩にするためには一手間かかるし……、そういえば、ソルティは?」
「ソルティさんは、ソルティ教を作って信者を増やすとか言っていました」
「あいつは何をしているんだか……」
「ソルティは、ソルティコインというのを作って将来、価値が上がると言って販売すると言っていたの」
「どこかで聞いたような商売方法だな。あとで、注意しておかないと暴動に発展しそうだ」
俺は大きく溜息をつきながらパンを口に運びスープで胃の中に流し込む。
そして、立ち上がり服を着るとログハウスから出ようとしたところで、扉が開く。
「カンダさん!」
そこには息を切らせたスザンナが立っていた。
「どうかしたのか?」
「はい! エルダ王国の王宮の使者が来て、これを――」
「手紙か?」
スザンナから手紙を受け取った俺は、書簡の内容に目を通していく。
そこには、塩湖により街道が塞がれているために食料を送るためには莫大なコストが掛かるため、コストの負担を俺達にするようにと書かれていた。
そして西方領地に関しては街道が使えないため、エルダ王国では統治は不可能と書かれており、ニードルス伯爵家に関しては一度、貴族籍を剥奪すると書かれていた。
「これは、無茶苦茶だな」
「はい。どうやらエルダ王国は、維持費に莫大な費用がかかる西方領地の切捨てを決めたようです。それと食料や貿易に関しては、他国と同じ税率をかけると――」
「――ん? つまり、それは……」
「はい。どうやら、エルダ王国側は私達を一国として扱う気のようです」
「なるほど……」
「それと、エルダ王国の第二王女ザビーネ様が、カンダさんに嫁ぐという話になっているようです」
「……は?」
「一体、どうしてそんなことになっているんだ? 一応、領地の実質的最高責任者はスザンナだろ?」
「現状は、そうなっていましたが……、エルダ王国が私達の西方領地を一国として扱う条件にカンダさんを国王として即位させるという条件があるのです」
……俺の紐生活が――。
「ですが! 丁度、良かったです!」
「――え?」
何が、良かったというのか?
スザンナは少なくとも伯爵位を剥奪されたのだから大問題だろうに。
「だって、カンダさんが国王になれば親族が起こした貴族は公爵家になるのですから!」
「あ――。そ、そうだな……」
そう考えると、ニードルス伯爵家からニードルス公爵家になるのだから悪いことではないのか?
「でも、あれだろ? 国王になったら仕事とか……」
「はい! 国が出来たばかりの時は、設備もそうですが、町や他国要人との外交など多くの問題ごとに晒されますので寝る時間は殆どないとおもいます」
「……」
異世界に来てまでなんというブラックな環境だろうか?
「ですけど、これで大手を振るって多くの女性と関係が持てますね!」
「……」
「そうでした。あと数時間でザビーネ様が来られるそうです」
「やっぱり、あれだよな? 后位の順位とかも決めないといけないんだよな……」
「はい。やはりザビーネ様が、后位1位が妥当かと思われますが……、おそらくですがリルカさんなどは納得しないと思うで――」
「正妻戦争が、また始まると?」
「いえ、今回は後宮戦争になると思います」
「……急に膝が痛くなってきた――」
俺は、自分の膝に手を当てながら座り込む。
最近では、膝の痛みに苛まれている。
以前にソルティが中和してくれていた膝の痛みだが、彼女が女神の力を殆ど失うと同時に呪いは再発してしまっていたのだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だが……」
「そうですか。良かったです。それでは、私はエルダ王国のザビーネ様を迎える準備をして参りますね」
「……ああ」
――色々と問題が山積みになっていて溜息しかでない。
たしかに、俺が起こした問題というか借金は、ソドムの町が塩湖に沈んだことで無かったことになったが、それを差し引いても国王になって建国して1万人以上の人口を食べさせていくために行動しないといけないのは罰ゲームというには、あまりに酷いものだろう。
「大丈夫なの?」
リアが話かけてくる。
「大丈夫だが、少し冒険に出たいなと……」
「カンダさん。それはダメですよ? リアも私も――」
「ま、まさか……」
「そのまさかなの!」
「一生懸命、建国をがんばってくださいね! カンダさん!」
ソフィアの言葉に「あ、はい……」と、しか俺は言葉を返すことが出来なかった。
……もう40歳過ぎのおっさんなのに異世界で建国をするとは思わなかった。
将来、建国秘話が本になるとしたらタイトルはおそらくだが……。
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コメント
なつめ猫
感想ありがとうございます。
つい出来心でやってしまったのです(・ω・)!