【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
正妻戦争(25)レッドドラゴン強襲!
「そ、そうね」
俺の言葉にセフィが頷いてくるのを横目で見ながら俺はどうしたらいいのか考える。
俺の10年の冒険者経験から見て現在の状況は、あまりよろしくとは言えない。
「セフィ」
俺は、ソドムの町の住民が北へ避難していくのを確認しながらも、住民に聞こえないぎりぎりの声で言葉を紡ぐ。
「なんだい?」
「ドラゴンの件なんだが、マリーだと知っている人間は? 変身したのを誰かに見られたりしたか?」
「見られてはいないと思うわ」
「そうか……」
それなら、現状を何とかすれば日常に戻れるようになる可能性は高いか。
「――だが……」
問題は、どうやってマリーを元に戻すかなんだよな……。
セフィが知らないとなると今までのことからマリーを元に戻す術を考える必要が出てくる。
「セフィ。マリーはショックを受けてドラゴンになったんだよな?」
「ええ、そうだけど……」
「つまり、気持ちを落ち着かせれば元に戻るんじゃないのか?」
「そ、そんな話は聞いたことが……」
「試してみないと分からないだろ。こう見ても、交渉は得意な方なんだ」
「交渉?」
「ああ」
セフィが俺の言葉に首を傾げてくるが、異世界の日本でサラリーマンをしていたと言っても、きっと理解はしてくれないだろう。
すでにドラゴンになったマリーを恐れて、辺りは無人になっている。
これなら、マリーの名前を叫んでも大丈夫だろう。
「マリー!」
俺は、ドラゴンになったマリーに大声で語りかける。
すると、リルカに攻撃した後、行動を止めていたマリードラゴンがゆっくりと俺に近づいてきた。
「カンダさん……」
俺の近くに寄ってきたセフィが服の裾を掴んで語りかけてくる。
「大丈夫だ。リルカを攻撃してきた理由は分からないが、とりあえず落ち着いているように見え――」
途中まで言いかけたところで、俺は建物の壁に叩きつけられた。
ソドムの町の北は、遺跡を利用して作られている。
そのために壁は石だ。
衝撃がモロに体に伝わってくる。
「カンダさん!?」
何が起きたのか分からないと言った表情でセフィが近寄って来ようとするが、そんなセフィに向けてドラゴンと化したマリーが口を開く。
「――ま、まさか……」
俺は、嫌な予感を感じながらマリーの目を見る。
先ほどまで白い眼だったドラゴンの目が赤く染まっていて理性があるようには思えない。
淫魔王のときもそうだったが、力に呑まれた可能性が頭をもたげてくる。
「セフィ! すぐに逃げろ!」
石壁に叩きつけられた影響で体はふらつくが動かせない程ではない。
それでも間に合わ――。
「リア!」
「分かっているの! エクスプロージョン!」
どこかで聞いた声が耳に聞こえてくる。
それと同時に、セフィの前面に土壁が作られていく。
俺が見ている前で、ドラゴンが放った火の玉と攻撃魔法がぶつかりあい爆発を引き起こす。
爆風は、四方に広がりドラゴンと化したマリーだけでなくセフィや俺の方にも等しく向かってくる。
「――くっ!?」
体中に固定化の魔法と回復魔法をかけながら防御の姿勢をとると、前面に白い壁が作られていき爆風から俺の身を守る。
「カンダさん、大丈夫ですか?」
「ソルティか」
「はい。何やら強力な力の波動を感じて急いできました。あれは……、エンシェント・ドラゴンですね」
「エンシェント?」
「はい。普通のドラゴンよりも遥かに強力なドラゴンですが……、絶滅したと聞いておりましたが、まだ生き残っていたとは……」
ソルティは、好奇心に彩られた目でドラゴンとなったマリーのほうへと視線を向けている。
「そういえばセフィは!?」
さすがに自分の母親を、殺したとなったらどうなるか想像が出来ない。
「大丈夫なの」
小走りで駆け寄ってきたリアが指差す方向には、ソフィアとセフィの姿が見えた。
「無事だったか」
小さく溜息をつきながら俺は一つ気になっていたことを彼女らに聞くことする。
「それよりも戦っていたんじゃないのか?」
「うっ!? それは……」
「カンダさん、彼女らも冒険者ですし、私も元・女神ですので優先度の順位くらいはつけられます。今は、正妻戦争をしている場合ではないと判断したのです」
「そうか……」
俺としては、ソルティも何か裏があるのでは? と思ってしまっていたが勘違いだったことに少しだけ溜息をついてしまう。
ここ最近、俺の人生経験が生かせない問題に直面しすぎていて正直、俺って社会人失格なのではないのか? と、まで思っていたが、そうではないようで一安心だ。
「ソルティ。あれは俺の知り合いの娘がショックでドラゴンになった姿なんだが元に戻す術はないか?」
「あります」
「あるのか!?」
「はい。ドラゴンに変化したときに受けたショックを取り除くことです」
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