【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

正妻戦争(14)




 石鹸により住民の避難が終わっている道を走りながら生活魔法を発動させる。
 手の中に作り出したのは無数の小さな火薬が詰まった玉。
 
 ――所謂、かんしゃく玉というやつだ。
 
 俺は走りながら、地面の上にかんしゃく玉をばら蒔きながら移動する。
 そして十分にばら蒔いたのを確認したところで、無人となった建物の窓から、建物の中へ飛び込む。

「餌は十分にばらまいた」

 俺は背中に背負っていたエアーガンと言う名のスナイパーライフルを取り出しBB弾を装填していく。
 用意が終わったところで、俺は建物の2階へと上がる。
 その際には、背を低くして移動していく。

「サバゲーの経験が役に立つとはな……」

 2階に上がったところで生活魔法を発動。
 手鏡を作りだし、木の窓の隙間から外を確認する。
 
「2人か?」

 近づいてくるのは山猫族の女性達だ。
 周囲を注意深く確認しながら一歩一歩確実に近づいてくる。

 ――そして……。

 彼女らは、俺が地面にばら蒔いたかんしゃく玉を踏んだ。
 踏まれたことで、かんしゃく玉は盛大な音だけを鳴らす。
 耳がいい彼女ら山猫族の女性達は「にゃあああああ」と、叫んでいる。
 しかも路地から、2人の山猫族の女性達が耳を押さえて転がり出てきた。
 どうやら、俺の居る位置を彼女たちは把握していたらしい。
 だが、それは無駄に終わったな。

「生活魔法発動! 墓場作成! スライム作成!」

 怯えて動けなくなった山猫族の女性達は4人とも俺が作り出した穴の中に落ちていく。
 さらに彼女らの頭上からパソコンの内部を掃除するスライムも大量に追加して落とす。
 これで、ぬるぬるぐちょぐちょになったはずだ。
 しばらくは動けまい。

 ――と、いうか人前には出ることは出来ないだろう。

 一息ついたところで、山猫族が近づいてきようとした道の反対側から、かんしゃく玉が破裂する音が聞こえてきた。

「――なっ!?」

 スコープ越しで確認すると、鎧を着た兵士たちが突っ込んできている姿が見えた。

「くそっ! 卑怯だろ! 自領の兵士まで導入するとか聞いてないぞ!?」

 兵士たちは、次々と足元のかんしゃく玉を踏み潰して音を鳴らしながら確実に近づいてくる。
 正直、鎧を着ていられると困るが……。

「そんなこと言っていられるか! 墓場作成! さらにスライムも作成だ!」

 射程に入ると同時に生活魔法を発動。
 鎧を着ていることで俊敏な行動が取れない兵士たちは次々と穴の中へと落ちていく。
 落ちていく際に「うああああ」とか「おすなよ! 絶対におすなよ!」とか聞こえてくるが、一度動き出した落下は止まらない。
 物の数秒で鎧を着込んだ兵士たちは全て俺が作り出した穴の中へと落ちた。
 もちろん獣人族よりも多くのスライムを投入してある。
 怪我をしないようにという俺の配慮だ。

「――さて、時間まで篭城でもいいんだが……」

 俺は、屋根の上に昇ったあと銃口をニードルス伯爵が居るであろう建物のほうへと向ける。
 するとスコープ越しにエルナと、ニードルス伯爵の姿が見えた。
 ニードルス伯爵も簡易的な女性的な鎧を着込んでいるが、動きやすさを重視しているのだろう。
 男が着るようなナイトアーマーではなく、ドレスのような形をした見栄えのいい白銀に光るドレスアーマーを着ている。
 
「ふむ……、武器はランスってところか? とりあえず……、威嚇だけしておくか?」

 俺は銃口を、ニードルス伯爵が携えているランスの柄へと向ける。
 数度息を吐いたあと、トリガーを引き絞った。

 数瞬遅れて、スコープに移るニードルス伯爵が尻餅をつく。
 その表情は蒼白になっていた。

 ――そして、それと同時にスコープ越しにエルナと視線が合った。
 その瞬間、俺のサバゲーで培った本能が告げた。
 
 理由は知らないがエルナは俺の敵であると――。

 

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