【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
農耕を始めよう(10)
城壁を潜ると、左手には石造りの建物が建っていた。
大きさは、俺が建てたログハウスよりも、ふた回りは大きいだろうか?
「あれは、先々代のニードルス伯爵様が命じられて作られた建物になります。いまは、ニードルス伯爵様のお屋敷の警護をする兵士達の詰め所ですね」
「なるほど――」
俺が作ったログハウスも、かなり大きく作ったつもりだったが所詮は素人が作ったものに過ぎない。
それと比べて、目の前に存在する建物は――、職人が作ったと思わせる立派な建物であった。
「エイジさん――」
「どうした?」
「私は、エイジさんが建てた家が最高だと思いますよ?」
リルカは、俺の手を強めに握りながら笑顔で語りかけてくる。
どうやら、少なからず顔に出ていたのだろう。
俺の機微を察した彼女は、少なからず思うところがあったのだろうが、フォローしてくれていた。
その行動が、とても愛おしく感じてしまうと同時に、村の建築を頼める人材を集めないと、自然と、リルカの頭を撫でながら思う。
「あの、よろしいでしょうか?」
案内をしてくれていた兵士が小さく溜息をつきながら俺に話かけてくる。
「ああ、すまない」
以前、日本に居た時には男女が公衆の中で、周囲を気にせずに二人の世界を作っているのを見て、こいつら何を考えているんだ? とかTPOを弁えろとか思ったものだが……。
実際、自分が同じ立場になると気がついたら二人の世界を作っていることが多い。
何と言うか――。
立場が変わると……、世界が変わって見えるというのは不思議なものだ。
兵士に促される形で、城壁を潜った場所から、なだらかに続く未舗装の道を歩いていく。
「町の中は煉瓦で舗装されていたが、ニードルス伯爵邸への道は踏み固められた土のままなんだな……」
「はい。煉瓦などで舗装していますと色々と問題がありますので」
独り言のつもりで呟いた言葉に兵士が答えてくる。
俺は思わず「問題ね……」と、兵士に問いかけるように言葉を紡ぐ。
「神田栄治様は、回復魔法が得意と言うのは知っておりますが魔法に関しては?」
「いや、魔法に関しては普通の魔法師が使う魔法くらいしか知識はないな」
「そうでしたか」
俺が知っている魔法は、リアが使う攻撃属性の魔法くらいだ。
「それなら、大丈夫でしょうか?」
「――ん?」
何か言い難い秘密があるなら別に言わなくてもいいと思うが……。
むしろ聞いてから、面倒ごとに巻き込まれるのは困る。
俺が、「いや、別に言いたくないことは言わなくても――」と、言おうとしたところで、「実はですね。刺客が姿を消す魔法を使って暗殺に来たときに分からないと困るという配慮からです。水を流せば足跡はくっきりとわかりますからね」と、兵士が一息に語ってきた。
この流れはよくない。
何かのフラグが立ちそうな気がしてならない。
俺が聞いてないふりをしようとしたところで「へー、そうなのですか?」と、リルカが感心したように何度も頷いている。
「付き添いの獣人――、コホン。リルカ様もご存知で?」
「はい。一応は――」
「そうでしたか……。ですが、ご安心してください。ここ百年、暗殺に来るような者は居りませんでしたので」
リルカの言葉に兵士は大丈夫だ! と太鼓判を押しているが、俺としては、それはフラグを立てているのではないのか? と心の中で突っ込みを入れていた。
まぁ、口に出すことはしないが――、口に出したら、それこそ襲撃事件が起きそうだ。
なだらかな坂を上ること2分ほど。
ようやく目の前に、立派な建物というか――、洋館が存在していた。
遠めで洋館に似ているなとは思ったが、近づいてみて分かる。
左右非対称な塔を構えており、屋根の色は黒く壁などは白の大理石で作られており、一目で相当なお金を使い建てられた建造物というのが分かってしまう。
「それにしても……」
俺は途中で口を閉じる。
この建築様式は、以前に会社のイベントで見た事があった。
明治29年に建てられた岩崎邸に細部までは同じとは言えないが、それでも似ている。
「どうかなさいましたか?」
案内してくれている兵士が、俺の方を見ながら声をかけてきた。
俺はすぐに不審に思われないように「――いや、なんでもない」と、答える。
どんな些細なことでも貴族相手には弱みになりそうな予感がしたからだが――。
それにしても、俺が転移してきたアガルタの世界は妙なところで地球の文明を感じるんだよな。
まるで、地球の人間が何人も転移しているようにすら思える。
一度も会ったことは無いが、俺が異世界に転移してきたのだ。
ゼロとは言えないだろう。
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