【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

ソフィアside (3)

 エルリダ大陸に存在する三国の一つであるエルダ王国の南方に位置する港町カルーダから出立した私とリアは、開拓村エルに向かう最初の村で後悔していた。
 
 ――今、私たちがいるのは、リンゼントの町。

 リンゼント男爵が治める町で、エルダ王国の玄関口である港町カルーダから近いこともあり、ある程度は栄えている。
 人口としては1万人ほど。
 リアと私が住んでいた村とは反対方向だったけど、それは別に問題ではない。
 問題なのは、港町カルーダから、リンゼントの町が隣同士だったとしても2日かかる距離だったことだ。
 道中は、盗賊や夜盗に気をつけないといけないし重い荷物を背負って日中は歩かないといけないことから、私とリアは肉体的にも精神的にもかなり疲弊してしまっていた。
 おかげでリンゼントの町で、一番安い宿を探そうと最初は思っていたけど、体の疲れには勝てず仕方なく町の入り口近くで営業していた宿屋を借りたのだ。
 
 一室借りると金貨3枚だった。
 港町カルーダで私たちが借りていた宿の3倍の価格だったけど、二人で一部屋を借りるということにして部屋に荷物を置いてから1階の食堂に足を運んだ。

 そして現在に至る。
 今は、夕飯を頼んで寛いでいる。
 そして、寛いで心に余裕が出来ると色々と思ったことが口に出てしまうのだ。
 パーティメンバーであるリアが、テーブルの上でうつ伏せになったままピクリとも動かず「疲れたの……」と、力なく私に話かけてきた。
 
 私もリアの意見に賛同する。

「私も……、足がパンパンだわ」

 2日間歩き通しだったこともあり、足が痛いし背中も荷物を背負って長時間というか2日間歩いていたので痛い。

「カンダさんが、居た頃が懐かしいの」
「私たちって、カンダさんと出会ってから、ずっと依存しているわね」
 
 私とリアもカンダさんと出会うまでは、荷物を背負って冒険者として活動してきた。
 だから、失念していた。
 カンダさんとパーティを組んでから、彼が私たちの荷物も一緒に運んでいてくれたことを……。
 そして、荷物を運んでいなかったことで自分たちの体力が低下していることを。
 彼は、男だから女性の荷物を運ぶのは普通だと言っていた。
 カンダさんが暮らしていた国は、男性が女性の荷物を持つのが普通らしいけど、そんな国を聞いたことがない。

「そういえば、カンダさんは言っていたの。回復魔法を掛けながら歩いているから疲れを感じないって……」
「すごいわね……」

 改めて回復魔法というのは、とんでもないということに私は気がつく。
 
「でも、回復魔法は制限があるって別の教会勤めの神官から聞いたことがあるの」
「へー……、あれ? 私、カンダさんが回復魔法を使えなくなった時を見たことがないのだけど?」
「私も見たことないの。たぶんカンダさんは特別なの」

 リアの言葉に、カンダさんはまるでこの世界の人間ではないような気もしてくる。
 無尽蔵に使える回復魔法に生活魔法。
 一瞬、神様なのか? とすら思ってしまうけど……、それはすぐには無いと否定できる。
 神様なら膝に受けた矢を何とかできるはずだから。
 そう考えると、カンダさんは私たちと同じ人だと思えて安心できる、

「でも、カンダさんは変なの。あんなに女を大事にする人は見たことないの」
「たしかに……」

 リアの言葉に私も同意する。
 エルリダ大陸では、昔から男児が生まれにくく育ちにくい。
 基本的に、男と女では成人するまで男は生まれてから3割も生きられない。
 代わりに女は生まれれば、9割は成人できる。
 おかげで、エルリダ大陸では、一夫多妻制が普通で……どこの町も村も女ばかりが多いのだ。
 
 おかげで夫を探すのは、とっても大変。
 
 王族や貴族や大商人や教会関係者の子どもとして生まれないかぎり男の子は、とても貴重なのだ。

 カンダさんは、女性が多いなくらいしか言っていなかったけど、カルーダの町は他所の大陸から男性冒険者や商人が大勢くるから、男女比率が半々より少し女性が多いくらいでバランスが取れていたのだ。

 それが最近では、獣人融和政策などを国が取ると言い出して辺境開拓依頼を冒険者ギルドの掲示板に貼ってしまう。
 一番、危機感を抱いたのは人間の女性陣だった。

 ただでさえ、男の数が少ないのに獣人融和政策なんて取られたら大変なことになってしまう。

 なのせ獣人は一回で3人から4人の子どもを生む。
 そして、獣人の子どもは1000人いたら男児が生まれる確立は一人か二人なのだ。
 つまり1000人いたら996人は女性で、そんな獣人と融和政策を取ったら大変なことになるのは簡単に想像できる。

「でもカンダさんが獣人融和政策の中心地、開拓村エルに向かってから一週間近くたっているの。とても心配なの」

 リアが、運ばれてきた果実酒を口にしながら私に語りかけてきた。

「どうだろうね? 私とリアがアプローチしていたけどカンダさんは気がついていなかったから、たぶん大丈夫だと思うけど……」

 そう、カンダさんの朴念仁レベルは神格クラス。
 冒険者ランクで言うとSランクを超えている。
 あのカンダさんが女性と仲良くなるなんて考えられない。
 10年も一緒にいた私たちが男女の仲になっていないのだ。
 リアは心配しているようだけど、私はカンダさんを信じている。
 きっと、開拓村エルで一人、さびしく暮らしていると――。

「ソフィア」
「何?」
「さっき、町に入るときに聞いたけど朝一番に、宿場町エンパスに向かう馬車があるらしいの」
「本当?」

 リアの情報は、とても有用だった。
 宿場町エンパスまで行ければ開拓村エルまでは、すぐらしいからカンダさんに会えるのも時間の問題。
 
「リア、今日は早く寝ましょう」
「お風呂に入りたいの……」
「体を拭くだけにしましょう」

 私の提案にリアが小さくため息をつく。
 本当は私もお風呂に入りたい。
 でも、お風呂の料金は高いのだ。
 カンダさんがお風呂屋からの依頼で毎日、生活魔法でお湯を作っていたときは無料で入れていた。
 だけど、いまはそれが出来ない。
 一応、冒険者の時に稼げたお金はある。
 でも、資金に限りがある以上、節約できるところは節約しておきたい。
 これから何が起きるか分からないから。
 
 その日、私とリアは早めに寝ると翌朝、宿場町エンパスに向かう馬車へと乗り込んで東へと進路を進めたのだった。




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