【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
ニート
朝食を摂った後、尻尾の手入れを俺にしてくださいと懇願してきた。
一体、どうしたのだろうか? と思いつつもリルカとエルナのために購入してきた櫛で尻尾を梳くと満足な顔をして「リルカが塩を取ってきますね!」と言ったあと、ログハウスから出ていった。
窓口から外を見ると家から出ていったリルカは、狼族の獣人を全員連れて北の森に入っていってしまった。
冒険者ギルドが物資を入れて運んできた麻袋を10袋、持って行ったのだが大丈夫なのだろうか? 
一袋で40キロ近く塩が入ると思うんだが……。
「それにしても……」
内心、小さく溜息をつきながら隣に座っているエルナに視線を向ける。
「カンダしゃん、どうかしたでしゅ?」
「いや、リルカが、自分が家に戻ってくるまで家から出るなと言っていたのがきになっているんだ」
俺の問いかけにエルナがニコリと微笑んでくると手を伸ばしてきた。
手のひらが上に向いているのでお手かな? と思い手を載せると「違うでしゅー!」と怒っていた。
金色の艶のある毛並を持つ狐尻尾を左右に揺らしていることから本気で怒っていないのは分かる。
「わかったよ……」
俺は部屋の隅に置いてある麻袋の中から干し肉を取り出すとエルナに渡す。
すると彼女は「肉でしゅ! 干し肉でしゅ!」と言いながら頬張ると、リスのように頬を膨らませてすぐに食べてしまった。
「カンダしゃんに、教えておくでしゅ! 獣人は、基本的に雌が狩りをして雄に貢でしゅ!」
「――ん? つまり……それって俺にニートになれってことか?」
「ニートってなんでしゅか?」
「つまり簡単に言うと、リルカが獲ってきた食事を食べて寝て一日、家の中で時間を費やすってことでいいのか?」
「でしゅ! 雄の仕事は子供をたくさん作ることだけでしゅ! 獣人は、ほぼ雌しか生まれないでしゅ!」
「……つまり男が貴重ってことか?」
「雄はすぐに病で死ぬでしゅ」
「そ、そうか……」
「――でも、少し過保護すぎじゃないのか?」
「カンダしゃん、雌の序列は子供を早く作ると入れ替わるでしゅ! つまり、お姉ちゃん以外とカンダしゃんが別の雌と先に子供を作ったら一番目の番から降格するでしゅ!」
エルナは、そこまで言うと手の平を差し出してきた。
俺は溜息をつきながら干し肉を与える。
そしてエルナは干し肉を食べて満足な表情を見せてくると「狼族の獣人を連れていったのも、カンダしゃんを奪われないようにするためでしゅ!」と話てきた。
「なるほど……」
エルナの話から大体の流れは理解できたが、正直、俺は自分がそんなにモテるとは思っていない。
しかもエルナの話が本当だとすると、まるで――物語のハーレム主人公みたいじゃないか! と思ってしまう。
まぁ、モテるのは悪くはないが正直、強制はしたくないし他の女性が言い寄ってきたら、1分くらいは耐える自信はある。
そもそも、浮気はよくないことだ。
リルカには、お前だけだと言ったからな。
俺は、神田栄治。
多少は我慢ができる男。
「だから、カンダしゃんを狙っている獣人の雌は多いでしゅ!」
リルカが、干し肉を食べ終わったあと俺の膝の上に載ってくると金色のしっぽを俺の体に擦りつけながら体を預けてきた。
「おいおい。なんだか、今日のエルナはおかしいぞ?」
「おかしくないでしゅ! 第二の番として尻尾の匂いをカンダしゃんの体につけるのは当然の権利でしゅ!」
「ちょっと待てええー……」
「何でしゅか?」
「よく考えろよ? リルカが俺の妻になったということはだ……、エルナは俺の義理の妹になるってことだ。――と、いうことはだ! つまり家族だということだ。家族同士で、そういうのはマズイだろう?」
「大丈夫でしゅ! 血は繋がってないでしゅ!」
「いや、そういう意味じゃ……なくは……ないのか?」
俺は頭を振るう。
さすがに30歳近く歳が離れていて尚且つ、幼女を手篭めにしたら大問題だ!
きっと、俺が物語の主人公とかだったら、このクズ田が! とか言われるに違いない!
「カンダしゃんは、私のことが邪魔でしゅか? 嫌いでしゅか? ふえ――」
瞳に涙を一杯に溜めたエルナが泣き出そうとしたのを見て、俺はすぐに行動に移すことに決めた。
「エルナ、よく聞いてくれ!」
「……」
「今のお前では、俺にはふさわしくない!」
「いまのでしゅか?」
「ああ、いつかエルナが大きくなったら、その時なら問題ないはずだ!」
そう、エルナも大人になれば好きな異性が出来ることだろう。
それまでに村を発展させて人を呼び込もう!
「大きく……」
エルナは、自身のまな板ではなくて無い胸を何度か触ると「たしかにでしゅ……」と小さく呟いていた。
その落ち込み具合は、「どよーん」と、背景が黒塗りされるほど酷いモノのように見えたが、きっと目の錯覚だろう。
それにしても獣人の高校生くらいの女性は全員、胸が大きいが……、やばり色々と成人の基準があるのだろうか?
とても気になる点だが、そこには突っ込みを入れないほうがいいだろう。
何となくだが、聞いたらやばそうな気がした。
「分かったでしゅ……、がんばって大きくなるでしゅ!」
「そうか! 分かってくれたか!」
やれやれ、やはり幼女だな。
幼女が、父親と結婚する! と言っているとのと同じで成長すれば考えも変るだろう。
あとは……、リルカにも妹のエルナが変なことを言っていたぞ? と相談しておかないといけないな。
妹が第二婦人と言っていたと相談したら、彼女も怒るかも知れないが健全な家族計画のためには必要なことだ。
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