【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

ソフィアside (2)



 私の名前はソフィア。
 リアと一緒に先日までペアで冒険者をしていた。

「リア、そろそろ起きなさいよ」

 私は、一緒のベッドで寝ているリアに体当たりしながら起こそうとする。
 ただ、彼女はまるで動く様子がない。
 私より背丈が低いのに魔法師らしからぬ筋力を持っているのだ。

「まだ、眠いの……」

 リアの言葉には多分に眠気が混じっているかのように感じられる。
 私だって、数日前に無理してお金を稼ごうとした後遺症が体に残っているから動きたくない。
 外壁工事という男の仕事で、私の体はボロボロだ。
 体を動かそうとしただけで、節々が痛む。
 ちなみに回復魔法でも、回復させることは出来る。
 だけど、回復魔法を掛けてもらおうとすると教会に寄付をしないといけない。
 その金額が金貨1枚で高いのだ。
 そして先日、仲間になったカンダさんは、魔法を習うために教会の講習に行っている。

 教会が行う回復魔法の講習は、回復魔法が使えるようになったら数日間の実務を手伝うという約束をすれば無償で受けられる。
 そこで、回復魔法師に教会に所属しないかとアプローチを掛けていると思うけど……カンダさんの話だと教会というか宗教があまり好きではないようなので、そのへんは聞いていて問題ないと私とリアは判断した。
 貴重なパーティメンバーを取られるくらいなら、肉体労働をして講習代金金貨10枚を捻出する予定だったけど……。

 たぶん、していたら物理的に筋肉痛から二人して死んでいたかも知れない。

「私だって眠いけど……カンダさんは今日、講習終わるんだよね?」
「そうなの……?」

 どうやら、リアは大衆浴場を維持管理するために、かなりの魔法力を消費していて色々と意識が飛んでいるらしい。
 大衆浴場の魔法師は火の魔法と水の魔法を発動させることが出来て、尚且つ正確無比な威力のある魔法発動が条件らしいから、かなり精神的にくると聞いたことがある。
 きっと、いまのリアは、そんな状態だろうと思う。

「わかったわよ……私がカンダさんを迎えにいくからリアは寝ていていいわよ」
「助かるの」

 リアの言葉に小さく溜息をつきながら私は、体の節々が痛む身体を動かして部屋を出た。
 今、借りている宿というか代金も含めてカンダさんが全額負担してくれている。
 彼の話によると仲間だから当然だと言っていたけど……お人よしも、度が過ぎると私やリアも思っていた。
 もしかしたらカンダさんは、この大陸の人ではないのかも知れない。
 着ていたスーツという服を売った金額も私やリアでは稼ぐのに半年は掛かるほどの額だったから。

 カンダさんの名前で借りた宿の階段を下りていく。
 階段は、軋む音を響かせる。

「――ッ!」

 最後の階段を下りたところで、筋肉が悲鳴を上げた。

「大丈夫か?」
「――えっ?」

 カンダさんが言っていた筋肉痛という痛みでその場に蹲っていると頭上から話かけられた。
 顔を上げると、私を見下ろしていたのはカンダさんだった。

「ずいぶんと、お帰りが早いのですね……」
「まぁ……、そうだな――」

 彼は、頭を掻きながら私に向けて手を差し伸べてきた。
 たぶん引き起こしてくれるのかと思い、私も手を差し伸べるとカンダさんは「ヒール」と小さく唱えていた。
 一瞬で、身体中の痛みが霧散していく。
 
「どうかし……」
「えっと……」

 私とカンダさんは気まずい雰囲気を作ってしまっていた。
 カンダさんは回復魔法を掛けるために私に手を差し伸べてきたのに、私は起こしてくれるのかと思い手を伸ばしていたから。
 お互い、そのことに気がつくと無言になってしまっていた。

「ああ、すまないな」

 カンダさんは、私が伸ばしていた手を掴むと引き起こしてくれたけど……。

「あっ……」

 彼の引く力が強かったこともあり、私の身体はカンダさんの胸に飛び込むような形になってしまっていた。
 男性特有の汗や匂いを感じ取れてしまいドキドキしてしまう。

「すまない!」

 彼は慌てて私から距離を取って謝罪してきた。
 すぐに温もりが消えてしまったことに、若干の寂しさを感じながらも彼は、あくまでも紳士的に振舞おうとしてくれる。
 そこは、とても好印象。

「だ、大丈夫です! リアも待っていますから!」
「そ、そうか……」
「はい、リアにも回復魔法を掛けてもらうことはできますか?」
「問題ないと思うが、リアの場合は魔法の使いすぎだろう? 回復魔法が効果あるとは思えないんだけどな……」

 カンダさんは、まだ回復魔法を覚えたばかりで自信無さげに答えてきた。
 たしかに魔法師は魔法を酷使したあと、酷い頭痛に苛まれ魔力が枯渇することがあると昏睡状態に陥ることだってある。
 それでも少しでもリアの頭痛が取り除ければいいと、カンダさんを部屋に誘った。

「あれ? そういえば……カンダさん?」
「なんだ?」
「カンダさんって触媒というか詠唱も杖も使っていないようでしたけど……どこにあるんですか?」
 
 部屋に入る前に、ふと気になって彼に聞くと「ああ、なんだか知らないが俺の回復魔法って触媒も詠唱も必要ないみたいなんだよな」と、非常識なことを言っていた。

 


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