【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

ソフィアside (1)



 エルリダ大陸は、世界の中心と言われるローレンシア大陸から船で2ヶ月の距離に存在する。
 元々は、人とは違う種族である亜人だけが住む場所であった。
 そんな場所に踏み込んだのは、海洋国家ルグニカの王族。
 彼らはローレンシア大陸で国を私物化し、その結果追い立てられて各地を転々とした結果、その子孫はエルリダ大陸に辿り着き国を建てた――と、いうのが現在は有力とされている。
 海洋国家ルグニカは、現在でも存在してはいるが、王族が追放されたのは千年前。
 それほど昔の情報なんて、とても曖昧で子孫も何十世代にも渡っていて、現在のエルリダ大陸の王族が海洋国家ルグニカの元、王族だと示したところで古すぎて役に立たないし判別もつかないのだ。
 ただ、国を建てたことに関しては未開の新たなる領土を作ったと評価され、エルリダ大陸の国々は、一応はローレンシア大陸の国々からは国家として認められている。

「――で、実際のところローレンシア大陸の国家が、エルリダ大陸の小国を国家として認めた大きな理由は……」
「魔物の素材とダンジョンから産出される魔石を効率よく手に入れるためよね?」
「正解なの!」
「もう、耳にタコが出来るくらいリアに聞かされたからね――」

 私は溜息をつきながら、シードルを水で割った飲み物を口にする。
 爽やかな酸味と、水で薄められた喉ごしが絶妙で口の中を爽やかに潤してくれる。

「ソフィアは、シードルが好きだよね?」
「リアだってリンゴの果実酒は好きでしょう?」
「――好きというか、ここにはそれしか置いてないの……」

 リアは、私の言葉に肩を落としながら水で薄めたシードルを口にしている。
 
「……でも、ここまで厳しいとは思わなかったの」
「そうよね……」

 私とリアは二人揃って冒険者ギルドに併設されている酒場で同時に溜息をつく。

 リアは、魔法師だけど駆け出しもいい所。
 攻撃魔法だって殆ど使えないし詠唱も長い。
 そして私は、武器は弓だけど遠距離という事と消耗品である矢を使っているから見入りがよくないし、魔物に近づかれたら、それだけで危険だったりする。
 事実、二人とも生傷が絶えない。

「はぁ……、ねえ? ソフィア――」
「何? リア」

 田舎では天才と呼ばれていたリアと私。
 意気揚々と都会のカルーダに来てから3ヶ月経つけど思い知ったのは自分には才能がないという事。

「今週の宿代どうしようなの……」
「うっ!?」

 私とリアは、一人部屋の宿屋を二人で借りている。
 それは、冒険者として稼げないから苦肉の策で、本来はあまり推奨とされていないというか……よくはない。
 ただ、宿屋のご主人というか女将さんが田舎から出てきた私達が女性で可哀想だからと、優しさから貸してくれている。

「――リア、今は幾らお金があるの?」
「……んっと――、銀貨3枚と銅貨6枚と銭貨3枚……ソフィアは?」 
「私は、銀貨2枚と銅貨7枚と銭貨1枚……」
「私とソフィアあわせて銀貨6枚と銅貨3枚に銭貨4枚……」

 リアが絶望的な数字を語ってくる。
 宿屋は一日銀貨4枚。
 7日で金貨2枚と銀貨8枚が必要。
 どう考えても金貨2枚と銀貨2枚くらい足りない。

 私はリアの言葉に「どうしよう……、村まで一週間くらいかかるし借りられる人いないよ?」と、頭を抱える。
 そんな私にリアがクエストボードではなく受付から貰ってきたと思われる書類をテーブルに置いて見せてくる。

「こうなったら手段は選べないの。雑務の仕事をするしかないの」

 リアの持ってきた書類に目を落とす。
 そこには城壁を改築する工事現場――つまり町中での雑務の仕事がかかれていた。
 日当は一人金貨1枚。
 つまり2人なら……。
 銀貨2枚足りないけど、女将さんにごめんなさいして何とか宿を追い出されないように頼める。

「リア、こうなったら仕方ないわ! 今は、冒険者としての地位と名誉を守るために私はこの雑務を受けるわ!」
「さすがはソフィア、がんばって!」
「――え? どういうこと?」
「私は、公衆浴場での雑務があるから……」
「それって、水を継ぎ足す仕事?」
「うん……」

 魔法で制御したまま水を出すのは、とても精神的に磨り減る作業だとリアは、冒険者に成り立てのときに、雑務の仕事をしたあと言っていた。その仕事を引き受けるということは彼女も、それなりに危機感を分かっている。
 まぁ私も、工事現場の雑務だから肉体労働的にかなりきついと思う。

「お互い! 3ヶ月も冒険者をしてきたんだから大丈夫よ!」
「そうなの! がんばるの!」

 私とリアは、水で薄めたシードルの一気に飲んで、お互い別々の雑務に向かった。
 そして、私は違う意味で死んだ。

「ううっ……レンガって何であんなに重いのよ。舐めていたわ。どうりで給料がいいと思ったわ。鍛え抜かれた冒険者の私でも数時間仕事をしただけで……」

 私は、生まれたての動物のように足を震わせながら町中を歩く。
 周りの人が、「そろそろ田舎に帰ればいいのに――」と言ってくるのを耳にしながら冒険者ギルドに向かう。
 そして、冒険者ギルドに到着すると、いつも定位置に座っているリアの姿が見えたけど……真っ白に燃え尽きていた。

 私は震える足でテーブル席に座ると、リアの肩を揺すりながら「リア、大丈夫?」と話掛けた。
 するとリアは、うつ伏せになったまま「もう、ゴールしてもいいの」と言ってきた。
 どうやら、リアもかなり大変だったみたい。

「――と、とりあえずカウンターに行ってお金をもらいましょう」
「わかったの」

 私とリアの憔悴しきった姿は、周囲の冒険者にはどう見えているのだろう?
 周りを見る余裕さえ、今はない。

「はい、それでは二人ともクエストを達成されましたので金貨2枚と銀貨2枚になります」
「「おおー……」」

 私とリアの言葉が重なった。
 これで、なんとか生きていける。
 宿代が後払いだったから、これで何とか払えば――。
 たぶん、追い出されることはないはず……。
 ――と、思っていた時期が私とリアにもありました。



 ――まだ日が沈むには早い。
 でも、あと数時間もしたら日が暮れてくると思う。
 そしたら、宿を追い出された私達が住まうところがない。

 あの後、宿にお金を払いに行ったら、一人部屋さえまともに料金が払えない冒険者に部屋を貸すのは無理だと主人に反対されたらしく、部屋を貸せなくなったと女将さんに言われたのだ。

 現在、私とリアは街中を歩きながら残った銀貨1枚でどうしようと途方に暮れていた。
 そんな私の視線の先に見たこともない服装をした男性が立っているのが見えた。
 
「ソフィア、あの人っておかしくない?」
「リアもそう思う?」

 いくら田舎から出てきたと言っても、貴族からの依頼だって1回くらいは受けたことはある。
 まぁ、失敗したけど――。
 問題は、そこじゃなくて、貴族の服より遥かに上等な生地の服を着た男性が周囲を見ている点で――。

「あれ? あの人……」

 そこで、私は目を凝らす。
 ハーフエルフである私は魔力を見ることが出来る。
 その私から見て、男性は金色のオーラを身に纏っていた。

「リア、あの人……たぶん神官の力を有していると思う」
「本当に!? 筋肉痛とか魔力の使い過ぎで痛む頭痛とか治るの?」
「――それは分からないけど……、神官なら、どうしてあんな格好を……それに、なんだか田舎から出てきた私達みたいに不安そうな顔をしているような――」

 私は男性に近づく。
 風貌は、あまり見たことはないけど近くにいくと嗅いだことの無いいい匂いがした。
 貴族の体からも匂ってくる香水に近い匂い。
 男性は、額に手を当てて溜息をついていた。
 やっぱり、何か困っているのかもしれない。
 そして運がよければ……。

「あの……大丈夫ですか?」

 私は、打算を多いに含ませて男性に語り掛けた。


 


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品